アステラス製薬 組織・制度の変更相次ぎエンゲージメントスコア低下 “変革疲れ”の声に傾聴も 岡村社長
公開日時 2025/02/25 04:52
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アステラス製薬は2月21日のサステナビリティ・ミーティング2024で、組織健全性目標の指標となるグローバル・エンゲージメント・サーベイの結果を公表し、前年比2ポイント低下したと報告した。人事・コンプライアンス担当の杉田勝好副社長は、「様々な組織や制度の大きな変更を迅速に推進してきた中で、従業員の理解を深める対応が十分でなかった」と指摘。特に、新設した「変革に関するコミュニケーションのスコアが最低だった」と述べ、すでに人事、デジタル、広報のメンバーを中心にタスクフォースを結成して解決策の検討を進めていると明かした。岡村直樹社長CEOは、「結果は真摯に受け止めている」とした上で、「次に対するオポチュニティだと受け取って、どうすればもっと改善できるか日々考えている」と述べた。
同社は組織健全性目標に掲げる「果敢なチャレンジで 大きな成果を追求」、「人材とリーダーシップの活躍」、「One Astellasで高みを目指す」の進捗を確認する指標としてグローバル・エンゲージメント・サーベイを実施している。今回公表したサーベイ結果(24年10月時点)によると、エンゲージメントスコアの全体値は「69」で、23年10月時点の「71」から2ポイント低下した。項目別では、「従業員との十分なコミュニケーション」が23年比で6ポイント減、▽新しい評価制度の導入による「昇進の方針や制度理解」が5ポイント減、▽「コミュニケーションにおける透明性」が4ポイント減―など。一方で、「自分の職務では自分の強みを最大限に生かせる」、「私の上司はチームが常に明確な優先事項に専念できる」、「上司は私の仕事ぶりがさらに良くなるよう、パフォーマンスについてフィードバックをくれる」はそれぞれ1ポイント増となっていた。
杉田副社長(人事・コンプライアンス担当)はこの要因について、「様々な組織や制度の大きな変更を迅速に推進してきた中で、従業員の理解を深める対応が十分でなかった」と説明。
「この結果については真摯に受け止め、社内で広くオープンにシェアし、改善に向けてのアクションをとる」と強調した。特に改善が必要な項目については、タスクフォースを結成して解決策の検討を進めていると述べ、「現場に近いリーダーやマネジャーを対象にしたトレーニングなどチェンジ・マネジメントに特化した教育を計画している」と明かした。
岡村社長CEOは、変革に伴う組織力への影響に触れ、「コスト削減のためのコスト削減では何の意味もない。会社としてのケイパビリティを維持、あるいは高める前提に立って、よりコストを最適化していくのが我々の目指すところ」と強調。一方で、「“チェンジファティーグ(変革疲れ)”という声も聞かれる」と述べ、「その声はちゃんと吸い上げて、きちっと対処していく。組織にダメージを残したり、むしろ思っていたケイパビリティを失ってしまったりすることがないように注意しながら進めていきたい」と強調した。
◎次世代リーダー育成 グローバルから候補50人選抜 実際の課題で解決策探る半年研修
ミーティングでは、経営戦略に基づく人材採用と育成に向けた取り組みとして、実際の経営課題に挑戦しながら次世代リーダーを育てる「ネクスト・ジェネレーション・リーダーシップ・プログラム」を紹介した。プログラムではグローバルから選抜したリーダー候補50人をグループ分けし、6か月間をかけて実際のビジネス課題の解決策を導き出す。最終的には経営陣に提案し、承認されれば実際にプロジェクト化が検討される。すでに4件の提案が承認され、具体化に向けた検討段階に入っているという。杉田副社長は「タレントを育成するだけではなく、次世代リーダー候補の知恵を結集し、ビジネスの成長にすぐに活かせる取り組みになっている」と強調した。
◎医療アクセス向上に向けた活動 社会的インパクトを価値換算して定量化
このほかの取り組みとして、保険医療へのアクセス向上に向けた活動によってもたらされる社会的インパクトの定量化を目的とした貨幣価値換算を実施。マレーシアで行われているがん疾患啓発活動について、公表データが活用可能な大腸がんにおける医療的価値や心理的価値、経済的価値などの社会的インパクトを算出した。活動により大腸がん患者150人の早期診断・治療に寄与し、ステージ3、4で診断されるがん患者が75%から55%に減少した場合、推定で約460万ドル(約6.8億円)の価値創出につながることが分かったという。
同社ではマレーシアでの活動に対して約100万ドル(約1.5億円)の寄付を行っており、飯野伸吾サステナビリティ長は「単純計算で大腸がんに対して4.6倍の投資効果を生み出した」と強調。「これまで一般的に注目されてきた患者への直接的な医療インパクトのみならず、労働生産性改善などの2次インパクトや、家族や社会に対する価値も含めた社会的価値を具体的かつ定量的に示すことができた」と意義を示した。
◎非財務活動と企業価値の関連性分析 女性管理職割合や管理職比率などの関連性示唆
また、人材・組織やコーポレートガバナンス強化に関する非財務活動と企業価値の関連性の分析結果も公表。人的資本では女性管理職割合や管理職比率、従業員の働き甲斐、企業の経営状況への社員の評価、コーポレートガバナンスでは、取締役に支給された報酬の平均額と独立取締役数・比率について時価総額との関連性が示唆されたという。
女性管理職割合では、シミュレーション分析では割合が25~40%の間で時価総額が上昇。寄与度分析では純利益や総資産、営業キャッシュフローなどの財務指標に次いで時価総額に寄与していることが示唆された。また、管理職比率について因果推論を用いた分析では、管理職を1%増やすと翌年の時価総額が0.33%(約92.4億円相当)減少するという結果になったという。
同社ではダイバーシティや組織のフラット化などの取り組みを進めており、飯野サステナビリティ長は「これまでの取り組みやガイドラインで定めている事項の中で、時価総額に影響する可能性がある項目を特定できたことは非常に大きな成果だ」と述べた。