タモキシフェンの補助療法を標準治療の5年間から10年間に延長することにより、乳がんの再発と乳がん死のリスクを削減できることが、イギリスで実施された無作為化第3相試験「aTTom」の結果から分かった。昨年末にサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で発表された国際研究ATLASの結果を支持するもので、再発リスクの削減効果は療法開始後7年目以降から顕著となっており、治療の持ち越し効果があることも示された。英オックスフォード大のRichard Gray氏が、5月31日~6月4日まで米シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)のプレナリーセッションで、2日発表した。
試験では、5年間のタモキシフェン補助療法を終了したER陽性またはER発現状態が不明な患者6953例を対象に、さらに5年間補助療法を継続する被験者群(10年群、3468例)か、5年でストップする被験者群(5年群、3485例)に割り付けた。患者登録は1991~2005年まで行ったが、ER発現の検査が一般的になったのは登録期間の後半以降であるため、被験者の60%において発現状態が不明であった。無作為化後、コンプライアンスや再発、入院、死亡率などを評価するため、毎年被験者に連絡を取ることとした。
5年前のASCO 2008で報告された中間解析では、再発例が10年群で437例、5年群が456例(相対リスクRR 0.95、95% CI: 0.83 – 1.09, p=NS)と少なかったため、10年群に有意なベネフィットは認められず、より長期の追跡が必要とされた。
今回の解析結果では、再発例が5年群で672例だったのに対し10年群は580例で(RR 0.85、95% CI: 0.76 – 0.95, p=0.003)、10年群では再発リスクが有意に削減されたことがわかった。15年目の再発率は5年群が32%だったのに対し10年群は28%だった。
タモキシフェン補助療法開始後の年数区分別で再発リスクを見た場合、5~6年目は2群間に差はなかったが、7~9年目のオッズ比は0.79、10~14年目は0.78と、7年目以降にリスクの削減効果が著しく現れることがわかった。
乳がん死は、5年群が452例だったのに対し10年群は404例で(RR 0.88、95% CI: 0.77 – 1.01, p=0.06)、10年群に少ない傾向が見られたが有意差はなかった。15年目の乳がん死率は5年群が24%だったのに対し10年群は21%だった。同様に乳がん死リスクを年数区分別で解析した結果、5~6目と7~9年目の区分にはタモキシフェンのリスク削減効果はなかったが、10~14年目のオッズ比は0.79、15年以上が0.75で、補助療法を終了した10年目以降に治療の持ち越し効果が現れることがわかった。
無再発死亡症例数は、5年群が487例に対して10年群が481例。全死亡例のうち半数以上は、乳がん以外の理由で死亡したことになる。15年目の無再発死亡率は5年群が37%、10年群が34%で2群間に有意差はなかった(RR 0.95、95% CI: 0.84 – 1.08, p=0.4)。全死についても、5年群939例に対して10年群885例、15年目の全死率は5年群が35%、10年群が34%で有意差はなかったが(RR 0.94、95% CI: 0.86 – 1.03, p=0.2)、療法開始後の年数区分が10~14年目と15年以降の被験者だけを解析すると、10年群が有意に低い全死率を示していた(p=0.016)。
また、乳がん死についてaTTom試験と昨年末報告された国際研究ATLAS試験の結果とを比較するため、10年群と5年群の率比を解析した結果、5~9年目はATLAS試験が0.92だったのに対し、aTTom試験は1.08、10年目以降は2試験とも0.75(ATLAS試験p=0.002 、aTTom試験p=0.007)とリスク削減が大きくなった。通年ではATLAS試験が0.83(p=0.004)に対しaTTom試験は0.88(p=0.1)で、これら2試験は著しく似通ったパターンを示すことが分かった。2試験の被験者を合わせた17,477例で総合分析した結果、5~9年目は0.97、10年目以降0.75(p=0.00004)、通年で0.85(p=0.001)となった。全生存における総合分析においても、5~9年目は0.99、10年目以降は0.84(p=0.0007)と10年目以降にリスク削減が著しく現れていた。通年では0.91(p=0.008)だった。
主な有害事象である子宮内膜がんのリスクは、発症率が5年群で1.3%に対して10年群は2.9%(p<0.0001)、子宮内膜がん死が5年群で0.6%に対して10年群が1.1%(p=0.02)で、10年群が有意に高かったが、絶対リスクは0.5%であり、乳がん死のリスク削減ベネフィットと比較すると大幅に下回ることになる。
Gray氏は以上の解析結果から、aTTom試験とATLAS試験の2試験は、タモキシフェン補助療法を5年以上継続することにより、その後の再発リスクが削減するかどうかについて、合理的な疑いの余地のない証拠を示したと結論した。再発抑制効果は、療法開始から5、6年は見られないが、主に7年目以降から現れたとし、乳がん死においては10年目以降に25%の削減効果があったとまとめた。そして5年間タモキシフェンの補助療法行った場合、全くタモキシフェンを与えなかった場合と比べ、乳がん死のリスクは最初の10年間で約3分の1削減することが既にわかっていることから、10年間の補助療法と全く補助療法を実施しなかった場合との比較では、乳がん死は最初の10年間で3分の1、20年間では半分削減されることになり、10年間の補助療法によるリスク削減効果は、極めて著しいと強調した。
同発表に対して論評した米Dana-Farber Cancer InstituteのAnn Partridge氏は、ホルモン受容体陽性乳がんにおいて、遅発性再発は大きな課題であり、アロマターゼ阻害剤(AI剤)やトラスツズマブの登場など、早期治療が向上した現在でも、依然として困難な問題と指摘した上で、aTTom試験とATLAS試験では、タモキシフェン補助療法を5年間から10年間に延長することにより、7年目以降から再発リスクの削減効果が現れ始めていたと評価した。
5年間のタモキシフェン補助療法が、補助療法を全く行わなかった場合と比べ、再発リスクと乳がん死リスクを大幅に削減することは、これまでのエビデンスで証明されてきたが、補助療法を5年以上継続することによるリスク削減効果は、試験の症例数が少ないことや追跡方法の問題などから、明確な回答が得られていなかったと振り返った。2試験の結果は、Gray氏が結論したように「合理的な疑いの余地のない証拠を示した」と言えるが、aTTom試験の被験者の60%がER不明であったことを踏まえると、タモキシフェンの実際の有効性は、さらに高かった可能性もあると期待を込めた。
一方、閉経後女性患者に対するAI剤投与の至適な延長期間については、まだ未解決な課題であることや、抗がん剤へのアドヒアランスが副作用以外の複数の要因により左右されること、またタモキシフェンへのアドヒアランスが、投与期間の延長によって低下することへの懸念を示した。
各患者において、補助療法の治療ベネフィットを評価するには、腫瘍負荷や腫瘍生物学、合併症、年齢といった多くの要因を考慮しなければならず、また子宮内膜がんなどの重篤な有害事象やQOL、患者の価値観、優先順位なども忘れてはならないとした。内分泌療法の期間延長のオプションは、閉経の有無と前治療によって大きく左右されるとし、閉経後の患者と無月経の患者、閉経前の患者の3つの患者分類に対する治療オプションを提案した。閉経後患者については、まず5年間AI剤を投与すべきで、その後タモキシフェンを導入し、一方、最初にタモキシフェンを与えられた患者の場合は、5年後からAI剤を導入することができるとした。タモキシフェンの投与により無月経になった患者では、過去のエビデンスから、AI剤への切り替えが適切なアプローチである可能性があり、卵巣機能がある場合はタモキシフェンの継続が適切かも知れないと述べた。最後に5年間のタモキシフェン療法後も閉経前である患者は、疾患リスクが最も高い患者集団であるため、タモキシフェンの継続による治療ベネフィットを最も享受できると指摘した。