医薬品産業官民対話 増税改定で毎年改定論議「避けるべき」 健康寿命延伸見据えたイノベーション推進視野
公開日時 2018/04/17 03:53
厚生労働省は4月16日、「医薬品産業に関するハイレベル官民政策対話」の初会合を開き、2018年度薬価制度抜本改革をめぐり、日米欧製薬団体と意見交換した。焦点となる2019年10月に予定される消費税率引上げに伴う薬価調査・薬価改定については、米国研究製薬工業協会(PhRMA)が「直ちに毎年改定につながることのないようにすべき」と発言するなど懸念の声があがった。薬価制度改革を通じ、革新的新薬創出型のビジネスモデルへと舵を切ることも求められる中で、日本製薬工業協会(製薬協)は「健康寿命延伸、経済・サイエンス発展の実現に最大限貢献すべく、これまでの事業や活動の枠を超え、イノベーション創出と環境構築に取り組む」との考えを示す一幕もあった。
消費増税による薬価・診療報酬改定の対応については3月、中医協の医療機関等における消費増税負担に関する分科会で議論がスタート。すでに薬価調査については2017年と同様のスケジュールで実施することがすでに了承されているが、薬価改定の方法やタイミングなどは今後詳細を詰めることになる。
◎ジェネリック製薬協・吉田会長 毎年改定で「50円以下は対象から除外を」
日薬連の多田正世会長は、「消費増税に伴う薬価改定は増税時に実施していただきたい」と発言するにとどめたが、欧米2団体は薬価毎年改定の議論へとつながることを牽制。「あくまで増税対応のための臨時特例的の改定であることを明確にし、直ちに毎年改定につながることのないようにすべき」(PhRMA・パトリック・ジョンソン在日執行委員会委員長)、「実質3年連続の薬価改定となり短期間かつ継続的に大きなダメージを受け続けることになる。3年連続全品改定をベースに、2012年以降も、対象等を限定しない全品目実勢価格に基づく改定の方向に議論が進むことについて強い懸念がある」(欧州製薬団体連合会(EFPIA)・オーレ・ムルスコウ・ベック会長)と懸念を示した。
日本ジェネリック製薬協会の吉田逸郎会長は毎年改定を見据え、「特許切れ医薬品の薬価は急激に低下する可能性がある」と指摘。安定供給や適正な流通の観点から、中間年改定の対象品目の範囲を「薬価50円以下の品目を対象から除外する」など、薬価の低い成分・規格への「適切な措置」を提案した。
2012年に社会保障と税一体改革に閣議決定されて以降、一貫した政策路線を貫く安倍政権だが、消費増税もこの延長線上にあり、社会保障の充実と適正化が求められるところ。政府が6月を目途に策定する骨太方針では社会保障の適正化を通じた歳出改革も焦点となる。新たな構造改革期間に位置付けられる2019~21年度については、高齢化のピークを見据え2022年度以降、さらに人口減少を踏まえた医療・介護施策の立案が必要になる2040年ごろを見据えた検討が進められている。
◎製薬協・畑中会長 産官学一体でグラウンドデザイン策定を
医療保険財政が厳しく薬価に厳しい切込みが入る中で、革新的新薬を生み出すモデルへと舵を切るためにも、リアルワールドデータ(RWD)の利活用など薬事規制改革など、産業振興の重要性も高まっている。政府は2017年末に日本創薬力強化プラン(緊急政策パッケージ)を策定したが、さらなる振興策を求める声もあがった。
製薬協の畑中好彦会長は、「健康・医療や社会・経済に関する様々な課題や国民のニーズに対し、業界として既存の枠を超えて取り組みたい」と表明。日本がAI、デジタルをはじめとする最先端のサイエンス、テクノロジーに基づくイノベーションを実現し、創薬大国となる上で、まず「産官学一体でのグラウンドデザイン策定」が必要と指摘。さらに、実現に向けて、製薬業界自身がメーンプレーヤー(エコシステムの中心)として、アカデミア・ベンチャーへの投資や異業種との協業などをリードすることが必要との考えを示した。一方で、医療保険財政とのバランスを取る観点からも、薬剤費の抑制のみに偏らない社会保障全体での制度改革の実行や多面的バリューを反映した薬価制度の実現が必要との認識を示した。
PhRMAのジョンソン在日執行委員会委員長も、クリニカルレジストリーやRWD・臨床研究のデータなどの承認申請への活用や、ICTやAIの活用による効率的な医薬品安全性監視活動の実行、先駆け審査指定制度・条件付き早期承認制度の競争力ある運用などを求めた。
日本ジェネリック製薬協会の吉田会長は、イノベーションの観点から、「連続生産などの製造イノベーションを実用化することにより、生産コストの削減と国際競争力を高めることについて政策の支援をお願いしたい」と述べた。政府は「国際医薬パートナーシップ」と銘打ち、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向けた取り組みを進める。初期の取り組みとして、「アジアにおける国際水準でのジェネリック医薬品の製造支援」も位置付けられる。こうした中で、「各国の規制やインフラ体制に問題もあり、国家間で適切な問題解決を図ることを目的とする枠組みの構築について政府全体での強い支持を期待する」と述べた。
なお、この日の会合には、厚労省から武田俊彦医政局長、鈴木俊彦保険局長、森和彦大臣官房審議官(医薬担当)、橋本泰宏大臣官房審議官(医薬品等産業振興担当)、伊原和人大臣官房審議官(医療介護連携担当)、佐原康之大臣官房審議官(科学技術・イノベーション担当)らが出席。製薬団体は日薬連、PhRMA、EFPIA、日本ジェネリック製薬協会の会長、副会長らが出席した。