人間の運と実力を考える
公開日時 2017/07/14 05:00
情熱的読書人間榎戸誠【父と娘】私が、その著作物のみならず、その生き方も含めて尊敬しているのは、松本清張と井上ひさしである。最晩年のひさしが、次女・綾と5年間に亘り交わした往復書簡をまとめた『井上ひさしから、娘へ――57通の往復書簡』(井上ひさし・井上綾著、文藝春秋)は、ひさしの考え方と行動が窺われて、興味深い。綾が、自分で書いているように、「三人姉妹の、まん中で、一番のはぐれ者」、「今だからこそ白状すると、私はいつでも、嫌なことや苦手なことから逃げる、現実を避けるのが得意な子供」だったから、ひさしは、「元気に明るく働いてください」、「生きる練習をつづけてください」、「長く生きることには大きな意味があります」という思いを込めて、手紙を綴り続けたのだ。「この『往復書簡』は、父が亡くなる5カ月前ま...