厚生労働省は9月24日、新有効成分含有医薬品14製品を承認した。この中には日本イーライリリーの早期アルツハイマー病(AD)治療薬・ケサンラ点滴静注液(一般名:ドナネマブ)がある。ケサンラは、既承認のエーザイの早期AD治療薬・レケンビ点滴静注(レカネマブ)と同じく、アミロイドPET検査や脳脊髄液検査によって投与可否を判断して用いる。ケサンラは原則18か月まで投与可能だが、アミロイドプラークの除去が確認された場合は投与を完了できることが特徴のひとつとなる。
ケサンラのほかに、ヤンセンファーマの非小細胞肺がんに対する初の抗EGFR/MET二重特異性抗体・ライブリバント点滴静注(アミバンタマブ)や、エーザイ創製の胆道がんに対するFGFR1/2/3阻害薬・タスフィゴ錠(タスルグラチニブコハク酸塩)、ギリアド・サイエンシズのトリプルネガティブ乳がんに対する抗TROP2抗体薬物複合体・トロデルビ点滴静注用(サシツズマブ ゴビデカン)、武田薬品の結腸・直腸がんに対するVGEFR1/2/3阻害薬・フリュザクラカプセル(フルキンチニブ)などが承認された。
承認された新有効成分含有医薬品は次の通り(カッコ内は一般名、製造販売元)。薬効分類及び投与経路順に記載。
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クービビック錠25mg、同錠50mg(ダリドレキサント塩酸塩、ネクセラファーマジャパン):「不眠症」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類119。
デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)。覚醒を促す神経ペプチド(オレキシン)の受容体(OX1R及びOX2R)への結合を選択的に阻害し、過剰な覚醒状態を抑制し睡眠状態へと移行させることで効果の発揮が期待できる。
用法・用量は「通常、成人にはダリドレキサントとして1日1回50mgを就寝直前に経口投与する。なお、患者の状態に応じて1日1回25mgを投与することができる」。
ネクセラファーマジャパン(旧イドルシア ファーマシューティカルズ ジャパン)と持田製薬が共同開発した。両社で共同販売し、さらに持田製薬は塩野義製薬と共同で展開する。
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ファダプス錠10mg(アミファンプリジンリン酸塩、ダイドーファーマ):「ランバート・イートン筋無力症候群の筋力低下の改善」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。薬効分類129。
経口のK+(カリウムイオン)チャネル阻害薬。神経筋接合部の前シナプス膜にある膜電位依存性 K+チャネルを阻害することで、細胞膜の脱分極を引き起こし、膜電位依存性 Ca2+(カルシウムイオン)チャネルを開口させる。そして、細胞内へのCa2+の流入を促進することにより、アセチルコリンを含むシナプス小胞のエキソサイトーシスを誘発し、シナプス末端からシナプス間隙へのアセチルコリンの放出を促進、神経-筋伝達を向上させることで筋肉の機能を改善すると考えられている。
用法・用量は、「通常、成人にはアミファンプリジンとして初期用量1回5mgを1日3回経口投与する。患者の状態に応じて、1回投与量として5~30mgの範囲で適宜増減し、1日3~5回経口投与するが、増量は3日以上の間隔をあけて1日用量として5mgずつ行うこと。なお、1日用量は100mgを超えないこと」。
ダイドーファーマは缶コーヒーなどを手掛けるダイドーグループホールディングスの100%子会社で、希少疾病用医薬品に着目した事業を展開している。
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ビルタサ懸濁用散分包8.4g(パチロマーソルビテクスカルシウム、ゼリア新薬):「高カリウム血症」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類219。
ナトリウムを含まない陽イオン結合非吸着性ポリマー。経口で服用すると腸管内で過剰なカリウムを結合して便とともに排泄され、高カリウム血症を改善する。1日1回の服用で、必要な水の量が少なくて済むことが特長。
用法・用量は「通常、成人には、パチロマーとして8.4gを開始用量とし、水で懸濁して、1日1回経口投与する。以後、血清カリウム値や患者の状態に応じて適宜増減するが、最高用量は1日1回25.2gとする」。
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アリッサ配合錠(エステトロール水和物/ドロスピレノン、富士製薬):「月経困難症」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品及び新医療用配合剤。再審査期間は8年。薬効分類2482。
天然型エストロゲンのエステトロール(E4)を新規成分として含有する。エステトロールは、エストロゲンの受容体に選択的に作用することが確認されている。
用法・用量は、「1日1錠を毎日一定の時刻に定められた順に従って(ピンク色錠から開始する)28日間連続経口投与する。以上28日間を投与1周期とし、出血が終わっているか続いているかにかかわらず、29日目から次の周期の錠剤を投与し、以後同様に繰り返す」。
エムスリーと共同開発したもの。富士製薬のMRによる情報収集・提供活動に加え、エムスリーが提供する「MR君」やWeb講演会などのe-プロモーションサービスによる営業支援、m3.com医師会員のインサイトやビッグデータを活用したマーケティング支援を行う。
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ルプキネスカプセル7.9mg(ボクロスポリン、大塚製薬):「ループス腎炎」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類399。
経口免疫抑制薬。T細胞の増殖・活性化に重要な酵素であるカルシニューリンを阻害することで免疫抑制作用およびポドサイト(糸球体上皮細胞)の保護効果を発揮する。用法・用量は「通常、成人にはボクロスポリンとして1回23.7mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する」。
ループス腎炎に対し副腎皮質ステロイドが標準治療で、ミコフェノール酸モフェチルなどの免疫抑制剤を併用する場合がある。タンパク尿を伴う糸球体腎炎の速やかな寛解達成と、その後の副腎皮質ステロイドの減量が課題となっている。
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タスフィゴ錠35mg(タスルグラチニブコハク酸塩、エーザイ):「がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道がん」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。薬効分類429。
エーザイが創製した経口投与のFGFR1、FGFR2、FGFR3選択的チロシンキナーゼ阻害剤。用法・用量は「通常、成人には、1日1回140mgを空腹時に経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する」。
日本の胆道がん患者数は約2.5万人と推計されており、FGFR2融合遺伝子は、胆道がんの15~30%を占める肝内胆管がんの約14%に認められているという。
国内においてFGFR阻害剤としては、21年6月発売のインサイト社のペマジール錠と、23年9月発売の大鵬薬品のリトゴビ錠に続く3剤目で、先行2剤も「がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道がん」の適応を持っている。
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フリュザクラカプセル1mg、同カプセル5mg(フルキンチニブ、武田薬品):「がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類429。
VEGFR1/2/3に対する選択性を有する経口チロシンキナーゼ阻害薬であり、腫瘍における血管新生を阻害することにより腫瘍増殖抑制作用を示す。用法・用量は「通常、成人には1日1回5mgを3週間連日経口投与し、その後1週間休薬する。これを1サイクルとして投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する」。
承認は前治療歴を有する転移性大腸がんを対象にフルキンチニブ+最良支持療法(BSC)群とプラセボ+BSC群を比較検討した国際共同第3相FRESCO-2試験等の結果に基づく。同試験に参加した日本人の治療抵抗性・転移性大腸がんにおける死亡リスクは58%減少した。
武田薬品は23年1月に中国HUTCHMED社から中国を除く全世界を対象とした開発・商業化権を獲得した。
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オータイロカプセル40mg(レポトレクチニブ、ブリストル・マイヤーズ スクイブ):「ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類429。
ROS1阻害薬。ATP競合性のROS1、TRK A/B/Cを選択的に阻害する経口の低分子チロシンキナーゼ阻害薬で、ROS1またはNTRK融合遺伝子を有するがん細胞の増殖を抑制する。NSCLCは肺がん全体の約85%を占め、その約1~2%が制御不能な細胞増殖をもたらすROS1遺伝子変異を特徴とするROS1融合遺伝子陽性疾患とされている。
用法・用量は「通常、成人には1回160mgを1日1回14日間経口投与する。その後、1回160mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する」。
国内ではこれまでに、ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対し、ザーコリカプセル(クリゾチニブ)とロズリートレクカプセル(エヌトレクチニブ)の2剤が承認されている。
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ケサンラ点滴静注液350mg(ドナネマブ(遺伝子組換え)、日本イーライリリー):「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類119。
N3pGAβ(N末端第3残基においてピログルタミル化されたアミロイドβ)に対する遺伝子組換えモノクローナル抗体。脳内に沈着したアミロイドプラークを特異的に標的とし、プラークの除去をもたらす。これによりアルツハイマー病(AD)による認知機能や日常生活機能の悪化の遅延をもたらす。同様の臨床的意義を持つ薬剤には23年9月に承認された早期AD治療薬・レケンビ点滴静注(一般名:レカネマブ)があり、同剤は2剤目となる。
ケサンラの用法・用量は、「通常、成人にはドナネマブ(遺伝子組換え)として1回700mgを4週間隔で3回、その後は1回1400mgを4週間隔で、少なくとも30分かけて点滴静注する」。
ケサンラはアミロイドPET検査や脳脊髄液検査によって脳内のアミロイドベータの蓄積や濃度を検査し、投与の可否を判断する。検査はどちらを行っても良い。投与期間は原則18カ月までで、アミロイドプラークの除去が確認された場合は投与を完了する。投与開始から12カ月時点でアミロイドPET検査を行い、アミロイドプラークの除去の確認を求める。厚労省医薬局医薬品審査管理課の担当官は、「(ケサンラは)投与を完了できるところがレカネマブとの大きな違い」と話している。
また、ARIAのリスク管理のため、投与開始後にMRI検査を行うことも求める。なお、臨床試験におけるケサンラの安全性は、ARIA-E(脳の一部または複数の領域の一時的な浮腫)は24.0%、ARIA-H(微小出血または脳表ヘモジデリン沈着)は31.4%に認められた。
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テッペーザ点滴静注用500mg(テプロツムマブ(遺伝子組換え)、アムジェン):「活動性甲状腺眼症」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。薬効分類139。
インスリン様成長因子1受容体(IGF-1R)阻害薬。用法・用量は、「通常、成人にはテプロツムマブ(遺伝子組換え)として初回は10mg/kgを、2回目以降は20mg/kgを7回、3週間間隔で計8回点滴静注する」。
甲状腺眼症(TED)は希少な自己免疫疾患で、その多くはバセドウ病に伴ってみられるが、後眼窩の細胞でIGF-1Rを介したシグナル複合体を活性化する自己抗体によって引き起こされる個別の疾患。これらが一連の症状につながり、失明など長期にわたる不可逆な損傷を引き起こす可能性がある。TEDの初期症状には、ドライアイ、異物感、充血、瞼の腫れ、過度の涙、眼瞼後退、眼球突出、目の奥の圧迫感や眼痛、複視などがある。
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セプトカイン配合注カートリッジ(アルチカイン塩酸塩/アドレナリン酒石酸水素塩、ジーシー昭和薬品):「歯科領域及び口腔外科領域における浸潤麻酔又は伝達麻酔」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品及び新医療用配合剤。再審査期間は8年。薬効分類271。
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ライブリバント点滴静注350mg(アミバンタマブ(遺伝子組換え)、ヤンセンファーマ):「EGFR遺伝子エクソン20挿入変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類429。
上皮成長因子受容体(EGFR)及び間葉上皮転換因子(MET)を標的とする二重特異性抗体。免疫担当細胞を介して抗腫瘍作用を発揮し、活性化及び抵抗性のEGFR変異、MET変異及び増幅を有する腫瘍を標的とする。
用法・用量は「カルボプラチン及びペメトレキセドナトリウムとの併用において、3週間を1サイクルとし、通常、成人には以下の用法及び用量で点滴静注する。なお、患者の状態により適宜減量する」となっており、体重80kg未満と80kg以上に分けて用量が設定されている。
なお、本剤は、▽EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対する経口第3世代EGFR-TKI・ラゼルチニブ(国内未承認)との併用療法、▽第3世代EGFR-TKIによる前治療無効のEGFR陽性NSCLCに対する化学療法との併用療法――でも承認申請中となっている。
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トロデルビ点滴静注用200mg(サシツズマブ ゴビテカン(遺伝子組換え)、ギリアド・サイエンシズ):「化学療法歴のあるホルモン受容体陰性かつHER2 陰性の手術不能又は再発乳がん」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。優先審査品目。薬効分類429。
90%以上の乳がんを含む複数のがん種で高発現する細胞表面抗原であるTrop-2タンパクを標的とする抗TROP2抗体トポイソメラーゼ I阻害剤複合体(ADC)。Trop-2が発現したがん細胞に取り込まれると、トポイソメラーゼI阻害剤を直接届けるとともに、周辺のがん細胞のDNAにも作用し、がん細胞を死滅させる。
用法・用量は、「通常、成人には、サシツズマブ ゴビテカン(遺伝子組換え)として1回10mg/kg(体重)を、21日間を1サイクルとし、各サイクルの1日目及び8日目に点滴静注する。投与時間は3時間とし、初回投与の忍容性が良好であれば、2回目以降は1~2時間に短縮できる。なお、患者の状態により適宜減量する」。
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ミールビックII皮下注用(弱毒生麻しんウイルス田辺株及び弱毒生風しんウイルス松浦/J16株、阪大微生物病研究会):「麻しん及び風しんの予防」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品及び新医療用配合剤。再審査期間は8年。薬効分類636。
既存品である乾燥弱毒生麻しん・風しん混合ワクチン「ミールビック」の改良品であり、安定した原材料調達のため、製造工程における風疹ウイルスの培養方法を変更したもの。用法・用量は「添付の溶剤(日本薬局方注射用水)0.7mLで溶解し、通常、その0.5mLを1回皮下に接種する」。
なお、
同日付で承認された適応追加等の記事はこちら