「今回の見直しは、業界としても大きな課題を背負ったと考えている。安定供給を確保するためにどう取り組んでいるか、企業指標を通じてどのような企業体になろうとしているか。企業がメッセージを発信し続け、医療現場に安心感を与えることが必要だ。後発品の企業指標の試行導入は決まったが、これはきっかけに過ぎない」-。厚生労働省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官はこう話す。医薬品の安定供給が課題となる中で、2024年度薬価改定では後発品に企業指標が試行的に導入される。「検証」も求められる中で、“業界”として、医薬品の安定供給にどう答えを出すか。ジェネリック業界は大きな課題を突き付けられている。(望月英梨)
本連載は、Part1(新薬編、1月26日付)、Part2(流通・薬価差編、1月29日付)を掲載しております。一問一答は、Monthlyミクス2月号(2月1日発行予定)に掲載します。
24年度改定では、医薬品の安定供給確保の観点から、「後発品の安定供給が確保できる企業の考え方」として、企業指標が導入された。企業の安定供給体制等を評価し、A区分(上位20%)と評価された企業の品目のうち、「最初の後発品収載から5年以内の後発品」、「安定確保医薬品A又はBに該当する後発品(基礎的医薬品を除く)」について、現行の後発品の改定時の価格帯集約(原則3価格帯)よりも、上の価格帯に集約されることになる。ただし、適用条件として、▽後発品全体の平均乖離率以内の品目であること、▽仮に現行ルールにより価格帯集約を行った場合、後発品のうち最も高い価格帯となる品目であること、▽自社理由による限定出荷、供給停止を来している品目でないこと―の全てに該当する品目に限定する。
◎「企業ごとの取組状況が客観的に見える化されることが大きな要素」
安川薬剤管理官は、「今回の制度改革では企業区分による薬価の上げ下げがはっきりつくわけではない。指標が適切か十分検証されていないし、薬価で差をつけることで安定供給に支障が出ることを懸念する意見があったことを踏まえ、薬価上の措置は影響が少ないものから始めた」と説明する。そのうえで、企業指標を導入する意義について、「安定供給ができる企業の考え方が整理され、企業ごとの取組状況が客観的に見える化されることが大きな要素だと考えている」と強調する。
「企業指標により、安定供給すべき品目を多く扱っているのか、他社で供給不安が起きた品目を増産してカバーする余力のある企業なのか。あるいは、平均乖離率以上に薬価を下げ安売りしている企業なのか。あるいは、自社トラブルで製造に支障を来している企業なのか。企業指標の導入で、こうしたプラスの面もマイナスの面も見える化される」と続けた。
◎原薬の製造国や共同開発先などの情報公開で「安定供給に取り組む企業に収斂」
特に、こうした情報を“公開する意義を強調する。公開すべき内容や判断基準について23年度中に固め、24年度前半のできる限り早いうちに企業による公表が開始される。安川薬剤管理官は、「企業指標には、原薬の製造国や共同開発先の企業名の公表なども含まれており、今後は情報公開が進むことになる」と説明する。
中医協の議論では、シミュレーションも示されたが、「安定供給に貢献する上位20%の企業(A区分)には、一定の製造余力を持ち、多くの品目をカバーしている企業が多くみられる。一方で、C区分(0ポイント未満)は安売りし、早期撤退をしているような企業が含まれている。情報公開することで、安定供給に取り組む企業に収斂させていくことが重要ではないか」と続けた。
◎企業指標は「現在はまだ検討の途中段階に過ぎない」
中医協での議論では、シミュレーションを踏まえた議論でも、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)が、「安定供給に支障を来すことのないよう、企業区分の線引きについてはここでは判断を保留させていただきたい」と話すなど、中医協委員からの明確な同意が得られない場面もあった。
安川薬剤管理官は、「新薬と同様、後発品についても1号側(支払側)、2号側(診療側)ともに今回の措置で安定供給が解決するかどうかは判断できず、“検証”を条件に納得いただいたと考えている」と説明。「安定供給で医療現場が非常に困っている状況にあり、保険者としてもこうした状況が続くと保険制度が成り立たないことに対する危機意識があった。両側ともに供給不安を改善しなければならないという理解の下で、ジェネリックメーカーの産業構造や今後のあり方が検討されているという方向性を踏まえ、見える化する指標を作り、評価することに一定の理解をいただいたと認識している」と話した。
企業指標については、「指標が評価するのに適した内容なのか、本当に安定供給できる企業体としての考え方なのかというのは随時検証する必要がある」と指摘。「今後検証して初めて確立していくものだ。現在はまだ検討の途中段階に過ぎない」との見方を示した。
◎安定供給できる企業の考え方や改善状況提示を 業界としての“総意”をと苦言も
中医協の場では、安定供給に対する製薬企業側の姿勢への指摘も相次いだ。診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)が、「企業指標の考え方を薬価制度に取り入れて、情報を公開していくことにより、医薬品の安定供給、確保が前向きに進んでいくのか。各企業の取り組み次第とするのではなく、今の医療現場の状況下では、業界がしっかり取り組み姿勢を示さないと改善しない」と指摘するなど、「個社の取組」の発言に終始する日本ジェネリック製薬協会の“業界としての姿勢や責任”を問う声が診療・支払各側から相次いであがった。
安川薬剤管理官は、「今回の見直しは、業界としても大きな課題を背負ったと考えている。安定供給を確保するためにどう取り組んでいるか、企業指標を通じてどのような企業体になろうとしているか。企業がメッセージを発信し続け、医療現場に安心感を与えることが必要だ。後発品の企業指標の試行導入は決まったが、これはきっかけに過ぎない」と指摘。「安定供給について医療現場に公に説明し、薬価制度について議論できる唯一の場が中医協だ。業界としても、今後の薬価制度の議論の中で、安定供給できる企業の考え方や改善状況をしっかり示していただく必要があるのではないか」と強調する。
物価高騰が続く中で、不採算品再算定を含めた薬価の下支えをめぐる課題は継続するとの見方を示したうえで、「議論を進めるためにもジェネリック業界として何ができるか考えてほしい。個社の判断によるところもあるだろうが、中医協の場では各企業の意見ではなく、業界としての総意を示してほしい」と苦言も呈した。