院内処方で入手困難だと回答のあった品目のうち、「通常出荷」としている品目が約３割あることがわかった。通常出荷とは製薬企業側が「全ての受注に対応できている」などとしている品目で、製薬企業発の情報と医療現場の実態に乖離が浮かび上がった。日本医師会が会員に医薬品供給不足について緊急アンケートを行った結果から示された。日本医師会の宮川政昭常任理事は10月６日の会見で、「何をもって“通常”と言ってるのかという定義がはっきりしていない」として、日本製薬団体連合会（日薬連）の調査における定義についても疑問視した。供給不安が長引く中で、「対立軸ではなく、医療機関も一緒に対策を立て、考えていかないといけない」と述べ、国や産業界と一体となった対策の必要性を強調した。

日本医師会は、日本医師会員、地域医師会員を対象にインターネットで調査を実施した。調査期間は８月９日～９月30日までで、6773医療機関から回答を得た（速報値）。

◎入手困難　院内処方で９割、院外でも７割に　トップはメジコン、鎮咳剤・去痰剤多く

その結果、院内処方で入手困難な品目があると回答したのは90.2％（2696医療機関）。卸に「発注しても納品されない」との回答は49.7％（1327医療機関）あった。院内処方で入手困難だった品目はトップが鎮咳剤・メジコンで600件回答があった。次いで、２型糖尿病治療薬・トルリシティ（241件）、抗生物質・オーグメンチン配合錠（223品目）、PL配合顆粒（215件）、鎮咳剤・フスコデ配合錠（205件）など。

一方、院外処方で薬局から在庫不足についての連絡が「あった」と回答したのは、74.0％（4184件）。処方困難な品目はトップが鎮咳剤・メジコンで1304件。次いで、鎮咳去痰剤・アスベリン錠（687件）、鎮咳剤・フスコデ配合錠（531件）、２型糖尿病治療薬・トルリシティ（464件）、鎮咳剤・アストミン錠（458件）などだった。

いずれも、上位品目には鎮咳剤や去痰剤、解熱鎮痛剤が多く含まれた。また、先発品や長期収載品が多く含まれていることもわかった。

◎「通常出荷」も“入手困難”は670品目　漢方製剤が上位に

医療機関側が“入手困難”としている2082品目のうち、日薬連の「医薬品供給状況に係る調査」で製薬企業側が「通常出荷」としている品目が670品目（32.2％）あることもわかった。なお、通常出荷は、「全ての受注に対応できている、又は十分な在庫量が確保できている状況」とされている。

品目としては、漢方製剤が上位を占めており、「ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒（医療用）」が院内（51件）、院外（115件）ともにトップとなった。また、陽進堂のトラネキサム酸錠250ｍｇは、同一成分の他社品目がすべて限定出荷になっている中で通常出荷とされていたが、アンケート結果では上位にあがっていた。

◎感染爆発時の余剰量など考慮を　国、産業界とともに生産体制考える

宮川常任理事は、「メーカーは通常出荷だということだが、現場には届いていない」と指摘。「感染の爆発などが起きたときに、どれだけ余剰が必要か、考えていない。だから、現場には、十分な量が届いているという状況には見えない」と述べた。疾患の特性などにより、必要量が異なることも指摘し、こうした観点も加味して生産体制を構築することが必要との考えを示した。

会見に同席した、神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科の坂巻弘之 教授は、「通常出荷の“通常”とは何かということ。需要が急拡大してるのであれば急拡大にあわせたものであるべきだ。おそらく日薬連の調査に定義がきちんとなされていない」と指摘した。

宮川常任理事は、「現場の先生から日本医師会がお叱りを受けるが、私達が解決できる問題ではない。私たちは真摯に問題点を明らかにし、国とともに対策を立てていきたい。対立軸ではなく、医療機関も一緒に対策を立て、考えていかないといけない」との考えを表明。適切な備蓄確保などの対応策や、感染症急拡大時の企業の迅速な生産拡大など、様々な方策を講ずることが必要との考えを示した。「人間の安全保障」としての観点を重視し、「（災害や新たな感染症、戦争などの有事を見据えた）医薬品の生産体制をこれから国、産業界と一緒になって考えていかなければいけない」と述べた。また、「供給不足は、後発品だけの問題ではない。そこが今の問題だ。先発も含めて、医薬品全体の問題だから、日本の医薬品メーカーが総力を挙げて考えていただきたい」とも強調した。