武田薬品は、ＭＲの日常業務にＡＩレコメンドシステム「SCRM-AI」を導入している。基本のコンセプトは、「医療関係者とＭＲの信頼関係の構築を支援する」こと。担当する医療機関や医師の小さな変化をＡＩが捉え、先回りして行動する“気の利いた”ＭＲ活動の実現をサポートしている。医薬品の適正使用情報がデジタルとリアルのハイブリッドで発信される時代において、同社は、これまでＭＲが大切にしてきた活動の「原点」を取り入れ、ユーザーエクスペリエンスに着目したシステム開発を推進している。

◎ＡＩが異常検知　社内外のデータから新たな“気づき”をＭＲに伝え、行動に活かす

SCRM-AIは、機械学習やルールベースモデルによって社内外の各種データを分析し、ＭＲの活動予定の立案や情報提供活動の見直しなどの行動変容を促すシステム。ＭＲの活動記録や施設ごとの納入実績などが格納されており、納入実績で増減を「異常検知」した場合などに、担当ＭＲにレコメンドする機能が組み込まれている。

例えば、「◎◎病院の◇◇◇◇において売上の大幅な増加を確認しました」などと通知された場合、受け取ったＭＲは、「一昨日に情報提供したA医師が処方してくれた可能性がある。早速、医師にコンタクトしてみよう」などと考え、行動に活かすことができる。そのうえで、個々の医師に対するアプローチのタイミングや最適なチャネルについてもレコメンド(提案)してくれるため、「A医師はメールを夕方確認して頂けた実績があるので、アポイントのメールは昼過ぎに送るのが最適かもしれない」と想起することも促す。

医師と面談する最適な時間帯や回数、チャネルに関するアプローチのデータを機械学習で計算しているため、担当のＭＲが「忙しくて会ってくれないだろう」と思い込んでいた時間帯であっても、チャネルを選べばコンタクトを取りやすいことがわかったケースもあったという。

システムではこのほか、医療や介護に関する時事ニュースや、自社のオウンドメディアに対する医療関係者のアクセスログ、米国の国立医学図書館に所蔵されている文献データなどのデータも分析。担当する医師が新たな論文を発表したなどの情報もＭＲに知らせてくれる。

武田薬品では、こうしたＡＩを活用したＭＲ支援ツールの開発を2018年から導入し、その後アップデートをして、22年から現在のデザインで運用している。開発側とユーザー側にいるＭＲとの対話を重視し、利用者にとってわかりやすいシステムの構築を続けたほか、開発サイドは個々のＭＲの不満点や理解できていない点について、丁寧なコミュニケーションを心がけてきた。

◎国内営業に携わる社員の8割ほどが週2回程度利用　同僚への推奨度は「7割超」

その結果、国内で営業に携わる社員の8割ほどが週2回程度利用。直近の社内利用者アンケートから、同僚への推奨度が7割超、活動への役立ち度は約8割、アプリ満足度は9割超との結果を得ており、いずれの項目とも18年に行った調査を大きく上回る結果を得た。

◎ＡＩの目的は「医療関係者との信頼関係を構築するというＭＲの目的を支援すること」

開発に携わった常次喜貴主席部員は、コロナ禍がひと段落したことで、「リアル活動の価値が上がった一方、メール活動も重要になっているのが今。ＭＲはバランスよく効果的に自身のリソースを配分したいし、デジタルの親和性が高い医師が誰なのかを知りたがっている。そういうなかで、ＡＩによって情報提供活動の最適化を図ることが求められ、必要性が増しているのではないか」とコメントした。

一方、ＡＩがどれだけ進化しようとも、SCRM-AIが存在する目的は、あくまでも医療関係者との信頼関係を構築するというＭＲの目的を支援することだと指摘。そのうえで、「こうしたツールは結局、業務効率のためにあるが、ＭＲは淡々とミスなく仕事することで喜びを感じるわけではない。ＭＲが求めてるのは、医療関係者と信頼関係を築くことなので、そのためには医師の機微な変化を捉えて、先回りして行動することが必要だ。システムの役割は、医師の機微な変化を確度高く捉えて知らせしていくことだと思う」と述べた。