日米欧製薬トップ G7見据え岸田首相に要望書 イノベーション・エコシステム強化に向け議論主導を
公開日時 2023/04/17 04:50
日米欧の研究開発型企業のトップが集うBCR(Biopharmaceutical CEOs Roundtable)は4月13~14日の2日間、会合を開き、会合に駆け付けた岸田文雄首相に要望書を手渡した。要望書では、日本政府に「官民の戦略的対話の場を設け、日本のバイオ医薬品のイノベーション・エコシステム強化に向けた建設的な議論を主導する」ことを要望した。日本は、5月に開かれるG7広島サミットで議長国を務めることから、これを見据えて議論がなされた。
◎「薬剤費だけでなく、イノベーション、科学研究、経済成長を実現する戦略に焦点を」
BCRはIFPMA(国際製薬団体連合会)により組織されるグローバルの政策フォーラム。会合では、「グローバルヘルスの進展に向けた優先課題に関するバイオ医薬品産業からの東京ステートメント」を採択。声明文とステートメントを岸田首相に手渡した。要望書では、岸田首相がライフサイエンス分野の重要性について発言していることなどを評価したうえで、官民の戦略的対話の場を設けることを要望。「戦略的対話を実りあるものにするため、厚労省有識者検討会の報告書が公表され次第、直ちに対話を始め、2023年末を目途に薬価制度改革を含めた結慧遠を出していただくことを提案する」とした。また、「薬剤費だけに焦点を当てるのではなく、イノベーション、科学研究、経済成長を実現するための戦略にも焦点を当てることが望ましい」とした。
◎ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の支援と医薬品の公平なアクセスの促進も
東京ステートメントでは、グローバルヘルスの進展に向けた優先課題を踏まえ、G7各国政府への要望を示した。要望は、①持続可能なイノベーション・エコシステムの保護、②ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の支援と医薬品の公平なアクセスの促進-の2項目が柱。
新型コロナで革新的なワクチンや治療薬を開発できたのは、イノベーション・エコシステムがあるからだとして、「知的財産権の保護を前提」とした持続可能なイノベーション・エコシステムの保護を求めた。また、世界の多くの国で高齢化が進展し、社会保障費が増大していることにも触れ、健康人口が増えれば支え手が増加するとして、医薬品などを「コストではなく将来への投資として捉え、社会全体の価値向上を目指すことが重要」と指摘した。
4月14日に開いた会見で、IFPMAのジャン・クリストフ テリエ会長(UCB会長兼CEO)は、「私達は日本のG7のリーダーシップのもと持続可能なイノベーション・エコシステムを守るための大胆な行動と、そしてUHCの再起動、そして医薬品への公平なアクセスの促進のための支援の強化を求めたい」と強調した。そのうえで、「日本がライフサイエンスにおけるグローバルリーダーとしての役割をこれからも長く続けていくためには、日本におけるバイオ医薬品イノベーションのエコシステムを強化することが重要だ。官民戦略対話の中で早期段階の研究開発の促進や、規制の調和、薬価制度改革を推進することを提唱したい」と述べた。
イーライリリー・アンド・カンパニーのデイビッド・A・リックス会長兼CEOは、「(イノベーション・エコシステムの)ベースには知的財産権の保護や、活気のある民間セクター、イノベーションに対する公正な価値があるべき。こういったことをG7のリーダーに考えていただきたい」と述べた。「世界各国の政府が自国の国内政策を見直す、そして改革するときにはそのような投資を適切に評価する償還制度も含め、イノベーションを促進するためのより強いインセンティブを推進すべき」と述べた。
◎第一三共・眞鍋氏 パテント含めたイノベーション評価「今や日本に欠けてきている」
BCR副議長の眞鍋淳氏(第一三共会長兼CEO)は、「日本は、60年以上前に導入された国民皆保険制度により、平均寿命が伸びている。このような経験を持つ我が国、日本はこの制度を維持するだけでなく、発展途上国におけるUHCの議論をリードすることができる」と述べた。「今後はSDGsを達成することを念頭に、UHCの達成に向けて、より多くの投資と効果的な介入への投資が必要だ。その持続可能性のためには、国内資金の動員が重要だ。革新的なバイオ医薬品業界は、高品質で手頃な価格の医薬品、ワクチン、診断薬、ヘルスケアの患者アクセスを改善するためのイニシアチブを支援することで貢献していきたい」と述べた。
眞鍋氏は、「革新的な医薬品が生まれた場合に、イノベーションを正しく評価する国であるかないかは、非常に大きいと思っている。イノベーションの源泉として価値が評価されること。それがサイエンス、テクノロジーの発展の源泉だと思う」と表明。「その一つがパテント(特許)であったり、新しいものを生んだときにちゃんと評価されてそれが次に新しいものを生もうとするインセンティブになる国ではないと、私は再度技術の発展はないと思っている。それが根本だが、今や日本には欠けてきているのではないか」との考えを示した。
薬価制度については、「現状の薬価制度では、薬価差が必ず生まれるシステムになっている。それを理解していただき、その薬価が色々なステークホルダーの経営原資になっているが、結構偏在している。もう一度、どういうシステムで薬価差が生まれて、それがどこに偏在しているのかというのを理解した上で、それが是か非か判断した上でどういう方向に変えていくのかというのは色々いるだろうと思う」と述べた。また、「少子高齢化で日本はそこのところの効率化したいというのは非常によくわかるので、我々製薬企業も努力したいと思う。ただし、現在DXは進んできて科学技術が進んでいる中で、色々な形で医療費の抑制・効率化はできると思う。全てのステークホルダーが集まって議論をすべき」との見解を表明。「今のところは、医療費の削減については、ターゲットが薬価だけになっている。イノベーションの評価を合わせて非常に私はそこのところの考え方を整理できてないと思うので、将来を見据えて一段上の議論を私はしていただくべきだ」と主張した。