岸田文雄首相は12月１日の経済財政諮問会議で、「社会保障の改革については、家計の可処分所得の拡大に向けて、医療・介護費の増加の抑制の徹底や、給付と負担の見直しにより、現役世代の社会保険料負担の上昇を抑制することが重要だ」と強調した。諮問会議では鈴木俊一財務相が、「将来世代に負担を先送ることがないよう、公費の追加投入を行わないことが重要だ。あわせて、来年度に向けた薬価改定が予定されているので、改定を通じて国民負担の抑制をしていきたい」と述べた。一方で、ヘルスケア・医薬産業の成長力を強化する必要性も指摘された。2023年度予算編成に向けた政府部内の議論はいよいよ佳境を迎える。

「ヘルスケア・医薬産業の成長力強化、いわゆる、ＨＸにつながる規制・制度整備に取り組むとともに、医療・介護資源の最適配分を実現するため、かかりつけ医機能の制度化や地域医療構想の実現、地域包括ケアシステムの深化等を進める必要がある」－。岸田首相は諮問会議でこう表明した。続けて加藤勝信厚労相に対し、「きょうの議論を踏まえ、23年度予算での対応を含め、改革を進めて欲しい」と指示した。

この日の諮問会議で、民間議員は、家計可処分所得の拡大に向けて、医療・介護などの社会保険制度のなかの改革と、医療・介護の成長力強化という２つの改革の必要性を指摘した。

◎地域医療構想実現へ　都道府県の責務明確化「法制上の措置を講ずるべき」

医療・介護資源を最適に配分する観点から、医療提供体制については機能分化を徹底する必要性を指摘。地域医療構想の実現に向けて達成できていない場合の都道府県の責務の明確化について「法制上の措置を講ずるべき」と提言した。急性期の必要病床数は2025年で40.1万床と推計されているが21年段階で54.9万床と、回復期病床への転換が進んでいない状況にある。病床再編については、医療法改正で都道府県知事の権限を強め、地域医療介護総合確保基金などで財政措置を講じてきたが、25年が近づいても再編が進まない状況にあることから、もう一歩権限を強め、都道府県に説明責任を求める考えを示した。

◎かかりつけ医機能「国民、診療所、病院、それぞれがWIN・WINの関係」に

かかりつけ医機能については、「地域での日常的な医療の提供・介護サービス等との連携のために必要なインフラ」とし、「国民、診療所、病院、それぞれがWIN・WINの関係」となるような具体的な検討を求めた。国民目線でわかりやすい仕組みとなるよう、「かかりつけ医機能を明確化し、制度整備の内容を次期医療制度改革法案に盛り込むべき」と主張した。

◎医療・介護DXなどで「ヘルスケア・医薬産業の成長力強化を進める」と強調

民間議員は、医療・介護DXなどにより、「ヘルスケア・医薬産業の成長力強化（HX）を進める」必要性も強調した。これにより、予防・健康づくりを強化し、医療・介護費の抑制や社会保障の担い手増加を図る必要性を指摘した。

HX推進に向け、氏名や被保険者番号を削除し、住所を一般化した「仮名加工」を推進する必要性を指摘した。現行制度では、次世代医療基盤整備法に基づいた匿名加工を用いて医療情報の二次利用ができる。ただ、氏名や保険者番号などの項目を削除し、住所・年齢・体重が一般化されるなど、加工が多くされており、情報の真正性が失われ、製薬企業などが研究開発に利用しにくいとの指摘がある。一方、仮名加工では個人情報保護法に基づき、本人同意の取得が原則であるため、多大な事務負担がかかるなどの指摘がある。こうした状況を踏まえ、民間議員は、「幅広い個人情報を、研究開発に適した形で匿名化したうえで、その扱いについて事前規制（二次利用に関する本人同意原則）から事後規制（事務負担の少ない形でのオプトアウト）とする等の制度整備を行うべき」と主張した。このほか、医療・健康アプリ（SaMD）をはじめ医療機器の社会実装を促進するため、「迅速に各種規制の見直しを図るべき」とした。

◎「2023年度予算編成の基本方針」を決定　２日に閣議決定

この日の諮問会議では、「2023年度予算編成の基本方針」を決定した。基本方針には、「科学技術・イノベーション、スタートアップ、グリーントランスフォーメーション（ＧＸ）、デジタルトランスフォーメーション（ＤＸ）といった成長分野への大胆な投資を、年内に取りまとめられるスタートアップ育成５か年計画やＧＸ促進に向けた今後 10年間のロードマップ等に基づき促進する」ことなどが盛り込まれた。基本方針は２日に閣議決定される。