【有識者検討会・10月12日 議論その1 薬価制度のあり方に関する総論的課題、革新的な医薬品の迅速な導入】
公開日時 2022/10/13 06:31
厚労省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」(座長:遠藤久夫・学習院大経済学部教授)が10月12日開かれた。この日は、これまでの意見及び論点案が事務局から示され、構成員によるディスカッションが行われた。本誌は、ディスカッション前半で議論した「薬価制度のあり方に関する総論的課題」と「革新的な医薬品の迅速な導入」について発言要旨を公開する。
遠藤座長:まず議論の進め方について確認する。事務局から前回までの議論を踏まえて、論点案がまとめられたので、本日は今後の議論に不足の部分、あるいは修正する部分などの確認を中心に議論したい。関連して、今後の議論を進める上で必要な追加資料などの提案、あるいはその論点に対する考え方などについても意見してほしい。
なお、事務局の論点案の内容は4つの柱立てとなっているので、時間を区切り、二つに分けたいと思う。前半は今後の薬価制度のあり方に関する総論的課題と、革新的な医薬品の迅速な導入についてとする。後半は医薬品の安定供給についてと薬価差について意見してほしい。
では早速、今後の薬価制度のあり方に関する総論的課題と革新的な医薬品の迅速な導入について、意見があればお願いしたい。それでは小黒構成員どうぞ。
小黒構成員:ありがとうございます。非常にコンパクトにまとめていただきましたので、事務方の方々のご尽力に感謝します。最初の論点案ですが15ページ目のところで可能であれば文言を入れて欲しい。今回の検討会は総合対策という名前がついている。今まではかなりミクロ的な視点を中心に議論してきたということだと思うが、ミクロの視点、(薬剤費の)なかの資源配分も重要だが、同時にマクロ的な視点も重要だと思う。よって、様々な観点からの後に、例えば「ミクロとマクロの両面から」というワードを加えて欲しい。また、薬価制度だけになっているのだが、やはり「今後の薬価制度および総薬剤費のあり方について」というような文言を入れていただきたい。
遠藤座長:ご要望として承りました。検討させていただく。他にございますか? 三村構成員どうぞ。
三村構成員:ありがとうございます。今回は薬価制度そのものの根本的な検討ということだと思うが、問題の本質は非常に深いし、大きな広がりを持っている。例えば新薬やドラッグ・ラグの関係を考えると、やはり国際競争の関係が非常に大きいという感じがする。
これまで国際比較という視点ではどちらかと言えば、薬価制度の比較という形で整理をされているが、むしろ最近のアメリカやEU、中国含めて、医薬品あるいはライフサイエンスを含めて非常に大きな総合政策を展開している。そういったことをやはり少し背景として見ておく必要があるのではないか。
特に前回お話をうかがった再生医療等の観点ではもうこれは従来の政策を超えていく必要がある。ただ、その場合に振興していくためには薬価制度がどうあるべきか、という形の方にもう一度検討することもあるので、そういった視点の情報を少し整理しておいていただいた方がいいのではないか。
遠藤座長:ありがとうございました。こちらも検討させていただきたいと思います。他にいかがでございましょう。成川構成員お願いします。
成川構成員:はい。ありがとうございます。事務局の方々は膨大な資料短期間にまとめていただいてありがとうございます。非常に頭の整理ができた。最初に総論的な話として、日本の医薬品市場についてコメントさせていただく。日本の薬剤費が横ばいあるいはマイナスだということは好ましくないという風に思っている。国民医療費の推移を見ると、自然増、増加傾向で大体年2%ぐらいで伸びている。これは医療の高度化や高齢化などを反映していると思うが、少なくとも医療費全体の伸びと歩調を合わせるくらいには医薬品の市場も伸びないことにはやはり違和感があるというのが一つだ。
もう一つは、医薬品の研究開発がどんどん国際化をしており、データの国際的な相互利用が進んでいる。アメリカやヨーロッパあるいは第三国の臨床試験データが日本で使われるし、日本でとられた臨床試験データも外国での審査にも使われる。研究開発の費用を上手く按分するなんてたぶんできない時代になっており、そういう観点からすると、日本は先進国の一つとして、研究開発コストの応分の負担をすべきではないかなという風なことが私の意見だ。日本に良い医薬品を入れていただく以上は、それなりの負担をすべきだろうという風なことを意見として申し上げる。
遠藤座長:ありがとうございました。ご意見として承りました。いま日本の薬剤費と医療費との関係の話等々が出たので、私からも資料の確認と質問をしたい。これをベースに議論をしていくことになると、この辺どう考えるかということがある。方向性をどうのこうというつもりはありませんので、中身についての確認ということですけれども、まず、ただいまの国民医療費の伸び率と薬剤費の伸び率はほぼ同じぐらいであるべきだという話があった。
11ページを見ると、現状は国民医療費に占める薬剤費の割合は21%ぐらいで、ほぼ固定している。現状においてはほぼ同じように伸びているという理解がここではできる。そういう理解でよいのか。ちなみにこの表は、左の方で急速に28.5%から20.1%まで落ちてきているが、これは実際に薬剤費が減ったのではなくて、この間に病院の入院医療の包括化というのが急速に進み、包括されたものは、この統計では薬剤費としてはカウントしないのでここまで下がった。平成10年ぐらいになるとその包括化が一段落した。こういう見方だ。ちなみにこの包括した部分を入れると、どれくらいパーセントが上がるかについて、実は社保審医療保険部会で私が厚労省保険局医療課に聞いたところ、計算してくれて、あくまでも推計だが、大体2~3%ぐらい上振れするという感じだ。DPC対象病院とか療養病床が包括化されているので、それは別途推計をしたということだ。それが一つだ。
もう一つ統計上の問題として聞きたいのは、10ページの下に日本の医療用医薬品の販売額の伸び率があって平均成長率2.8%ということで、フランスやイギリスよりも伸び率はこの期間は高い。となると、当初の意見で今後の予測では、先進10か国の中で日本だけがマイナスまたは横ばいの成長ということも書かれているのだが、足下はこういう動きだが、どういう根拠なのか。これは、厚労省が言っているわけではないのだが、そういうところが疑問に思った。
また同じく10ページを見ると日本は2.8%ということだが、当然2015年から19年の間のGDPの伸び率を見れば、こんなに高くない。GDPの伸びを上回って伸びているだろうと私は思う。ましてや日本よりもGDPが高い、フランスや英国よりも医薬品の伸び率は高いので、本当にその将来的に日本の医薬品の販売額の伸び率はマイナスあるいは横ばい、と考えていいのか。素朴な疑問があった。もし何かコメントができればいただきたい。言葉だけだとそうかなと思ってしまい、エビデンスベースでの議論ができなくなってしまうので、確認をしたい。
それともう一つ、21ページに新規の薬価収載時の価格が他国と比べて日本は低いということの分析結果が出されているが、そうだとすると日本の場合はご承知の通り、薬価を決める際に、最後に外国平均価格調整を行う。いくつかの国で同じものがいくらで売られているかを調べて、その中であまり高くならず、低くならずというところで、最後調整する。それが機能していれば、日本だけ異常に低くなっているということはあり得ない話だ。もしこれが実態だとすると外国平均価格調整がうまく機能していないということを意味しているのではないか。ちょっと細かい薬価の話になるが、外国との比較でこういう話しが出てくるということで、その辺はどうなっているのかと素朴な疑問があった。実際にグラフとか言葉で出ているものなので少し確認をさせていただきたい。もし何かコメントがあればお願いしたい。事務局でも結構です。
坂巻構成員:私も同じようなところで、いくつか数字上の確認をしたい。きょうはIQVIAのデータはないが、例えば日本でバイオ医薬品などの発売が他国に比べて遅れていると申し上げたが、同じように統計データにおいて再生医療等製品はどう扱われているのか。日本では償還価格の算定において薬価、医療機器のどちらかで算定されるが、統計においてはどういう分類になっているのかを疑問として感じた。
先ほどマクロの話があったが、ちょっと筋が違うのだが、日本の薬剤費を見た場合、先ほど遠藤座長から話があったが、ずっと包括化の部分が含まれてないという話があったが、実は2015年に薬剤費はかなり減っている。これはよく言われる話で、C型肝炎治療薬がピークアウトしたこと。また、この時期は少し前からだがジェネリック医薬品の使用が非常に進んできたこと。もう一つは、日本では多剤投与が多いと言われたが、ここもかなり改善してきたのだろうと思う。こういった薬の使い方によって薬剤費が下がってきたという部分もある。単純に薬価によって薬剤費の伸びが抑えられているのかどうかというところに関しては、きちんと峻別できるようなデータを提出していただきたい。
遠藤座長:ありがとうございます。薬剤の適正使用という流れが非常に大きくあるので、数量ベースでの調整ということはあり得る話かもしれない。
坂巻構成員:もう1点よろしいですか。いまのように後発品の使用促進あるいは医薬品の適正使用が推進されるなかで、単にまとめて薬剤費を医療費あるいはGDP並みに伸ばして良いかというと、また無駄な医薬品の使い方というモラルハザードが起きる可能性がある。そこはきちんと、どの部分を伸ばすのかという議論をすべきだろうと考えている。
遠藤座長:オンラインで手をあげておられますので、堀構成員どうぞ。
堀構成員:事務局の皆さんの丁寧な資料説明ありがとうございます。非常に論点が明確になっていて助かりました。確認と意見を言わせていただきたい。
2ページの論点、革新的な医薬品の迅速な導入について、薬価制度を起因とした課題、産業構造に起因した課題、その他の要因に係る課題に分けたこと、それから医薬品の安定供給、特に後発医薬品を中心としたものかと思うが、産業構造を起因とする課題、薬価を起因とする課題、そして薬価差は別枠にするという構成そのものは賛同する。
確認させていただきたいのは、医薬品の安定供給についての「②」は、これ薬価制度を起因とするのではなく、薬価を起因とするように書かれているが、仮に薬価制度そのものの課題であれば前半の革新的な医薬品の迅速な導入と同じように検討すべきかと思う。薬価そのものに起因する課題となると、井上構成員のご意見にもあったが、例えば薬価が低いからいけないとか、薬価が高いからというそういう単純な議論になってしまうと、産業構造を強化するのにむしろ逆の効果があるのではないか。あと健全な生産者を苦しめて、逆にゾンビ企業のようなものが増えるのではないかという指摘もあった。あるいはそのサプライチェーンのDXとかそういう別の形でも対応できるものだと思う。これ薬価制度を起因とする課題なのか薬価を起因とする課題なのかを確認させていただきたい。
あと、公定価格なので基本的に準市場になっていて、ただ医薬品はグローバルに流通するものだから、他の材と同じように競争される。なので、政府の失敗も当然起こりうるものなので、どのステークホルダーが良いとか悪いとかではないと思う。国家的な戦略としてどこを優先すべきなのかというものが、日本に仮にないから検討されているのかもしれないが、国家ビジョンで医薬品の産業構造や薬価、エコシステムなどトータルでどうなっているのか、他国の例でもいいので、あれば資料を示していただきたい。
もう一点。15ページのところで先ほど小黒構成員が発言した、マクロとミクロが一緒になっていることが、私自身は若干違和感がある。マクロレベルで社会保障費の自然増抑制を薬価改定によって削減するというのは事実だが、社会保障の持続可能性に当然貢献していたわけですし、新たな財源確保があるとか、何か別の医療費とか社会保障費が増えるにつれて財源が確保されるということがあるならば良いが、現実はそうなっていない。削減額が一定程度上げられていたということは事実だが、この価値判断はなかなかその後ろに様々な観点から今後の薬価制度のあり方についてどう考えるかというところで、少し発言しにくいところもあると思う。
ただ、個人的に問題だと思っているのは、革新的な新薬を含めた新薬と、後発品はそもそも同じ土壌で議論するようなものなのかどうか。売られているところも違うし、そもそも中身としても、トータルで薬剤費として総額で全て一律に抑制もされている。あるいはミクロレベルの話で言うと、保険給付の範囲に関しても全く同じになっているが、そもそも本当にそれでいいのかどうか。イノベーションの部分を保険給付の範囲でどういう風にミクロレベルで見るのかって話と、マクロレベルでどうするのかというのは別の議題だと思うが、両方重要な問題だと思う。
遠藤座長:はい、ありがとうございます。この検討会でどこまでやるのか、ミクロとマクロのバランスをどう取るのか、イノベーションの話と基本的には財政上の大問題をどういう風にバランスするのかという問題は多々ある。果たしてどこまでこの検討会のミッションなのか、実は私もちょっとよくわかってないところがある。非常に重要なご指摘を皆さんから受けていると思う。それから一点だけ、薬価なのか薬価制度なのかというのは大した意味合いの違いがないという理解でよろしいんでしょうか。
事務局:いま堀構成員からご指摘のあった「薬価に起因とする」という記載につきましては資料の記載の誤りです。「薬価制度」が正しく、新薬の方と同じ記載するのが正しい記載です。申し訳ございません。
あわせまして遠藤座長から質問のあった薬剤費等の統計の情報資料については、資料間で若干データが違ったりしている部分については持ち帰り、引用元のデータを確認する形で改めてご報告する。
遠藤座長:はい。よろしくお願いいたします。香取構成員どうぞ。
香取構成員:これだけ多くの論点があることをコンパクトにまとめていただいたので非常にわかりやすくなっている。基本的に新薬の問題と後発品の問題、逆に言うと、すでにこれから市場に入ってくる新しい薬をどういう風に評価するか、どう値決めするかと、実際の流通の中での既収載の医薬品をどう考えるか、大きく2つに分けるというのはそういうことだと私も思う。それはそうだが、逆に言うと、ある意味初めてこういう場で医薬品の問題あるいは流通の問題、薬価の問題、新薬の開発の問題を総合的に議論する場ができたわけだが、コンパクトにまとめたと言いながらも、これだけの論点がある。今までちゃんと議論してこなかった、ということなのではないかとちょっと思うので、その意味でいうと、結構この会議は荷が重いかもしれない、という気がする。これはざっくりした印象だ。
中身についてちょっといくつかコメントする。前半の部分については、ヒアリングのなかで各業界団体もほぼ同じような問題点を指摘してきた。このなかの議論でも、議連は収斂していたので、その意味では論点はかなり整理されてきていると思う。そんなに前半部分については違和感がない。
ちょっと気になるところがあるのは、まず5ページの総論的課題の論点だ。総論的課題の論点というのは総論の論点なので、全体としてどういうことが論点になるかを書くという話にたぶんなると思う。この記述はなんとなく違和感があって、背景としてこういうことがあったこういうことがあった、という話や、こういう視点で例えば安定供給と医療保険の持続性の確保と国民負担の軽減というのは、これ3つロジカルにつながらない気がする。ちょっと変ですよね。
薬価制度のあり方であれば、個別医薬品の算定の問題ってことになるし、あるいは既存の医薬品の流通の価格をどうやって見直すかということになる。その背景にある、例えば医療費の抑制であるとか、そういう背景要因の話と薬価差そのものによって生じている問題ということと、あるいはどういう政策目的でこれやるのかということを全部まとめて書くのが総論なので、ちょっとこの書きぶりは、総論の論点にはなってないような気がする。どう書けとは言わないが、ちょっと考えた方がいいのではないか。
それと31ページだが、これは皆さんから出た意見を書いたということなのでこの通りだと思うが、産業政策をどうするかということを考えるときに、確かに薬価で産業政策をやるのかやらないのかっていうのは一つ論点になるので、それはそうだと思うが、むしろここでの議論は言ってみれば、産業政策的な視点のないことが、いわば産業政策の足を引っ張っていることになっているので、ネガティブな意味で一定の影響を与えているということがたぶん、業界側の言いたいことだと思う。それは100%とは言わないが、それは議論としてあるので、そこはそういう書きぶりの仕方になるのではないかと思った。
それと3つ目だが、後半の流通とそれから先ほどの薬価なのか薬価制度と関係するが、後で出てくる表なのでそこのところでもお話をしたいが、6ページのところで製造原価と薬価との関係をグラフで出てきているが、後の方で後発品メーカーの薬の作り方を聞いていると、同じラインで複数の製品を取り替え引っ替え作っているって言っているわけですよね。
私の理解だと、そういう作り方をしていて、500品目、600品目を作っていて、個別の薬価ごとに価格管理で原価を出すことが本当にできるのか。この話は採算割れの医薬品については価格を維持しろ、というのはその通りだが、個々の品目についての薬価を考えたときに、そういう製造の仕方をしていて、その原価が本当にこういう形で出るのか、という気がする。後でお話しますが、何百品目って作っている会社の例を出しているが、そういうメーカーは2つか3つしかない。そうすると、同じ生産ラインで取り替え引っ替え作っているから云々という議論というのは、圧倒的多数のジェネリックメーカーには議論として妥当してないのではないか。後発品に関しては、その実態とその製造自体がどうなっているかとか、原価がどうなっているかとか、ヒアリングを1回しかしてないし、資料もこれしか出ていないのでわからないが、そこをもうちょっと詰めないといけない。総論として、その採算割れのものについて云々とか安定供給の観点からは、価格支持しなきゃいけないっていうのはその通りなのですけれど。それが具体的にどういうふうに妥当するのかって議論するときに、ちょっとやっぱり前回のご説明とか、今回の資料は間違っているとは言わないが本当にそうか、あるいはもっとちゃんと資料がいるのではないかっていう気がする。そこは検討いただきたい。
遠藤座長:はい、ありがとうございます。総論としての考え方というのはある意味で、この検討会のミッションといいましょうか、それを決めることになるので大変重要なところだ。逆に言うと、いま決めかねているところが事務局にもあるのかなという印象を受ける。いくつかの資料についてはまた適切なものを出していただければと思います。
香取構成員:30ページの産業構造に起因したその新薬の開発のところだが、新薬のパイプラインが内製から外部委託になっている「水平分業」の話があった。たぶん資料があるんじゃないかと思う。川上を担っているバイオベンチャーがどうなっているのか、そこの支援についてどういう問題があるのか、
研究開発についても日本企業と欧米企業の上位10社あるいは20社でも平均的な研究開発費は恐らく5倍から6倍ぐらい違っているというデータも確かあったと思う。そういう研究開発についての体制の違いとかについても、資料を出していただいて、既存の製薬メーカーだけではなくて、ベンチャー企業や川上いる人たちについての産業政策をどう考えるかということを議論できるような資料を出していただければと思う。
遠藤座長:はい、ありがとうございます。よくいろいろなシンポジウム等々でその手の検討会もずいぶんありますから、たぶん資料はそれなりに集まると思います。それはお待たせしました芦田構成員どうぞ。
芦田構成員:いまのご質問に関連するが、日本の医薬品産業の研究開発能力の推進と創薬ベンチャーについて、論点で言えば30ページの論点について少しコメントさせていただく。
革新的な新薬の開発、特に国内アカデミアの研究成果の実用化、さらには日本の医薬品産業の競争力のために創薬ベンチャーの継続的な育成支援が必要であるとは考えている。30ページの論点にも、どのような取り組みが必要かということが示されている。ただこの点は、これまでも産官学を問わず問題意識を持っており、これまでにも様々な手立てがとられてきたという認識だ。例えば、厚生労働省は医療系ベンチャー・トータルサポート事業「MEDISO(メディソ)」を行っている。またAMEDは今年度から、創薬ベンチャーエコシステム強化事業を開始した。前臨床試験から臨床POCを取得するまでの治験を補助するもので、海外でも開発をする場合に補助をするというところが特徴になっている。予算規模は500億円の規模だったと思う。
また創薬ベンチャーの課題の一つに治験薬の製造がある。特に新しいモダリティの製造ということになるが、この点も経済産業省が今年度バイオ医薬品製造拠点整備事業を2000億円を超える予算規模で開始した。新しいモダリティのCDMOが国内で整備されていくという風に期待されているかと思う。では、それで課題が解決しているのか問われればそうではなく、創薬ベンチャー支援を長期的な視点に立って継続していくことが必要だとは考えている。
その意味ではこの論点というのは必要な論点かなと思う。さらに付け加えると、創薬ベンチャーより上流に位置し創薬シーズを創出する、アカデミアの研究のさらなる充実というのが必要ではないかなという風に考えている。またもう一点、創薬ベンチャー関連でコメントするが、希少疾患治療薬などの一部を除くと、創薬ベンチャーの多くは、自分の会社で承認、製造、販売をするというビジネスモデルではない。多くは臨床POCを取得するところまで開発して、その段階で製薬企業にライセンスアウトもしくは製薬企業に買収してもらうということを考えている。
それでは創薬ベンチャーがライセンスアウトしたい、という製薬企業はどういうところか、どのような会社になるかということですが、それは臨床開発力があり、そして販売力がある会社ということになる。市場が大きい海外で開発・販売をしている会社の方がより魅力的にはなる。そうすると、ライセンス先、ライセンス候補先は日本の製薬企業だけではなくて、
欧米の製薬企業も含まれてくるということになる。実際に日本の創薬ベンチャーのなかには、欧米の大手製薬企業にライセンスした例はいくつかある。今後それが増えていくという風には期待されている。
一方で、日本の製薬企業で創薬ベンチャーから導入している事例を見ると、やはりある一定の売り上げ規模以上を持つ一部の会社が多いという風に見られる。ベンチャー企業と提携し、特に革新的な新薬候補を獲得するには、やはり資金力が必要になる。その投資力を持つ会社は、国内の製薬企業のなかでも限られているのが実態ではないかなというふうに見ている。
遠藤座長:どうもありがとうございました。また必要な資料等があれば、ぜひよろしくお願いいたします。小黒構成員どうぞ。
小黒構成員;先ほど遠藤先生から11ページの薬剤費についてご質問があったが、私もちょっと可能であればこういう視点も組み込んでちょっと精査させていただけないかなという風に思う。一つは一番左側の方で包括のところに入っている薬剤費の話もあったが、確認だがこれは保険者の方で収載されている医薬品の支払いを足し合わせたものだという風に見ていいのか、他方でIQVIAとかのデータは製薬メーカーとか市場で取引しているものとの関係もあると思うので、この後ろの方にある薬価差益との関係もありますがちょっとそのデータをマクロで出すと、いろいろハレーションもあると思うので、どこまで出すかはあるかと思うが、そういうところも含めて少しちょっと分析して、委員会の間でも少し情報共有していただければと思う。よろしくお願いします。
遠藤座長:ありがとうございます。これは保険者が請求したものなので、包括した分は入ってこないという話ですね。IQVIAは販売動態という話になりますから包括も何もないということですね。
小黒構成員:それはそうなんですが、製薬メーカーの人が直面しているマーケットの動きと保険者の方々とか、あと途中の差額も薬価差益のトータルみたいなものもあると思うので、その辺のその違いの要因とかも含めて、少し精査して欲しい。
遠藤座長:販売額と給付額ですからね。何かございますか。あとちょっと時間があるのでどの辺までこの検討会でやるかというその射程の問題は先ほどから出ている。具体例として。薬価について再算定の話と新薬創出等加算という具体名が出てきて、それに対して製薬メーカーは要望を出している。ここは必ずしも中医協薬価専門部会の業界ヒアリングの場ではないので、それにダイレクトに答えるかどうかは別問題だが、ただ、それについてはやはり何らかの議論をしなければならないだろうという風に思う。
それでちょっと大変僭越だが、この問題は結構複雑なところがある。制度そのものが大変複雑で、薬価制度改革が行われ、薬価維持される対象となる薬剤が非常に減った、と。そこが問題で、できるだけ元の形に戻すようなことをやっていいただけたらなという雰囲気の主張だったと理解している。
そもそもこの新薬創出等加算がどういう理屈でこういう風になっていったのかということ、一応情報共有をしておいた方がよろしいかと思う。たまたま私も関与していたので、ある程度は説明できると思うが、もし間違いがあれば事務局から直してもらいたい。
18ページに書いてあるように、現在は品目要件と言われている個々の製品にこのような加算が付けられている。かつ、企業指標を獲得している企業が販売しているもの。ただし、開発依頼が国からされてそれに適切な対応をしないと、この権利は喪失するというもの。これが難しすぎる、複雑すぎるという話なのですが、現実にそれはなぜかというと、元々これが始まったのはドラッグ・ラグ対策ということで、国としてできるドラッグ・ラグ対策をしたいということだったわけだ。
ドラッグ・ラグの有無というのは結局その企業がその国にいかに早く上市するかということだから、結果的には強制はできないわけですので、経済的インセンティブを与えるしかないというわけだ。ただ医薬品団体は一貫して一旦上昇すると日本の場合は価格が下がるということに対して不満を持っておられたから、そこのところを価格を維持しましょうというような条件をつけた。ただし全ての薬を維持するのではなくて、やはり画期性や有用性があるだろうと思われるものについてはしましょうと。これは製薬メーカーにとっては大変なメリットなわけだ。ただ、特許が切れたらば、維持した分をまとめて引き下げますが、15年先ですから売り上げが非常に増えている段階では相当高い値段が維持できるわけですからありがたいわけだ。ところが条件だが、国が企業に対して開発をしてほしいと要請したときに積極的に対応してくれないとこの権利は喪失しますということで、もうその会社はいくつも革新性がある新薬を持っていても価格維持の対象から外れる。ということなので相当強力なインセンティブなのかディスインセンティブとかわからないが、そういう仕掛けでやった。
いずれにしましてもそのときに他の実は課題が二つありまして、当時から言われていたのは、一つは全ての薬を対象とするのでなく、画期性があるという風に評価しなければいけない。1個1個評価するのは大変なので、薬価調査をしてその薬価の下落率が平均下落率を下回っていれば、マーケットがその会社のその薬はいいものだと評価した証左であると判断し、それを自動的に価格維持の対象にしたわけだ。それに対してそもそも価格操作することも可能だから、それは必ずしも品質の維持にはならないでしょう、という意見もあったが行われた。
もう一つ課題があったのは、権利を喪失するのは新薬を上市してくださいという要請があったときにそれに応えなかった企業だが、そもそも開発依頼のない企業は、そのまま権利は持ち続けるわけだ。そうすると、頼まれて対応しなかったところだけが非常に不利益を被るようなところがあって、そもそも大したものを出していなくて要請も来ないようなところはそのまま対象になるということで、不公平じゃないかという議論が出てきた。
少しずつ修正を行われたが、平成28年に大きな改革が起きた。それはなぜかといえば、価格差、下落率が小さい薬を調べてみると、あまり画期性の高くないものも結構あった。やはりこれはまずいだろうということで、元々新薬の中に作るときに補正加算といって画期性加算とか有用性加算とか1個1個見てやっている。こういう加算を取得しているものを画期性があるものにしようということで、評価の仕方をガラッと変えた。
もう一つやったことは、何もしなくてもいいような企業もそれで良いというのは今の理屈ではおかしいから、それであるならばなくす。新薬を上市してくれという依頼があったところで、それに適切に対応した企業だけを対象にする考え方もあったが、そうすると圧倒的に薬の数が減るので、それはまずいだろうということで、それでは全ての製薬会社がいいというのではなくて、そもそも積極的にドラッグ・ラグに対応している指標を作り、それをクリアしている会社がやっているのであれば、画期性が評価されているものであれば価格を維持しますっていうふうにしたので、ここで企業要件が出てきたわけだ。なくしてしまうと、対象企業が大変少なくなってしまうので、何とか今の形になっている。
19ページ見ていただくと、薬価制度改革の影響が平成30年に出ていて、新薬創出等加算の対象の薬は823から500に減る。一方、対象企業は90から83に少し下がるだけなので、実は企業要件はそんなに影響は受けてない。むしろ平均乖離率以下ならば画期性があるという評価方法を個別の評価に変えたことによって、数が下がってしまった。これがいまの現状だ。下がったことで(製薬業界は)非常に魅力がなくなったので元に戻してほしいと言っているかは知りませんが、そういう流れのご議論です。こういうことについてどう考えるか。
もう一つは市場拡大再算定の話で、これも何とかしてほしいということで議論として出てきた。市場拡大再算定も理屈があり、当初上市したときに予想している売上よりも増えた場合に価格を下げましょうという話だったわけだ。それについても業界団体は不適切な方法だっていうことをかなり強く言っている。ただ一方で、市場拡大再算定で高額薬剤とかそういうものの対応をこれでやってきているところがあるので、薬剤費のコントロールという点から見ると、今のところはこの方法がかなり効果を持っている。ただそれが適切かどうかというところが非常に問題になっている。
20ページで特に指摘されているのが、「共連れ」と呼ばれるものだ。ある薬剤が適応拡大すると価格が下がるが、同じ薬理作用持っている薬であれば適応拡大していなくても価格が下がる。これはちょっとつらいな、というのが業界の主張だ。どう考えるかっていうことは、具体的なアクションとし出てきてしまっているのでどう考えるかということ、考えないにしても考えないという積極的な主張をしないとまずいと思います。一応その情報の共有化のためにお話をさせていただいた。
他に何かご意見、よろしいですか。
坂巻構成員:いま大変詳しいお話をうかがってよくわかったが、ここは中医協の場ではないので、一つの論点としては、企業の予見可能性を確保するための仕組みのなかでの新薬創出等加算と市場拡大再算定という話だったが、この場で議論するためにはどういったデータで議論したらいいのかよくわからない。中医協と違う議論をするのに何が必要なのか、わからない。
もう一つの論点としては、欧米に比べて低い薬価ということだが、冒頭、遠藤先生からお話ありましたけど、外国平均価格調整が機能してない部分があるのかということ。それを置いておいたとしても、企業からの意見としてあった、薬の価値やイノベーションが適切に評価されてないことに問題があるという点については、割とこの場で議論しやすいと思う。例えば海外と比べてみて、日本の薬価、特に新薬、イノベーティブな新薬の価格算定のときに日本の価格算定の仕組みのなかに価値評価の部分が非常に低いとか、そこはデータとしてあればそこは改善しましょう、ということで提案になるかな、と思う。2つはどう議論したらいいかということを分けて考えたらどうかと思う。
遠藤座長:おっしゃる通りですね、ありがとうございます。関連して、事務局に資料の提供をお願いしたい。一つは外国平均価格調整をかけているはずなのにそれが最終的にどういう価格で算定されたのかというところの資料がほしい。すべての新薬が外国平均価格調整を行っているはずなので、相当数の者が集まるはずだ。さきほどの資料のエビデンスとして評価できるだろう。
もう一つがその多様な価値を反映するべきだという話だが、客観性のある評価ができるのかなど課題はあるにせよ、業界はそれを言っている。ご承知の通り、類似のものとして画期性加算などの補正加算がある。どれくらいの加算がついているのか。
もう一つは、それぞれの加算項目が一体何を評価しているのかということだ。それがわかるようにすると、実はいまでも価値は補正加算という形で評価しているということだ。ただ、それが何を見てどういう基準で評価しているのかということと、実際はどのぐらいの%で評価されているケースが多いのかなどはやはり知りたいところだ。中医協の議論のようになってきましたが、その辺のデータがあれば、エビデンスベースの議論ができるのかなという風に思うわけです。坂巻構成員それでよろしいですか。
坂巻構成員:結構です。