住友商事など3社 小児向けVR弱視治療用アプリを共同開発 25年度の薬事申請目指す
公開日時 2022/09/30 04:51
住友商事、順天堂大学発眼科DXベンチャーのInnoJin社、バーチャルリアリティ(VR)開発スタートアップのイマクリエイト社の3社は9月29日、VR技術を活用した小児弱視患者向け治療用アプリを共同開発すると発表した。臨床研究用プロダクトは完成しており、今後、臨床研究、治験を経て、2025年度中の承認申請を目指す。
3社が開発した小児向けVR弱視治療用アプリは、VR上で左右の眼に異なる映像を表示することで、既存のアイパッチ治療と同等の治療効果の実現を目指すもの。臨床研究用プロダクトでは、VR上でけん玉遊び(ゲーム)をするが、弱視眼側は実像のけん玉(クリアな画)、健眼側はぼやけているけん玉を表示し、けん玉遊びをしながら弱視眼を使う仕掛けとなる。小児患者は毎日遊ぶだけで弱視治療につながる。
同アプリでは、眼と手の協応運動(からだの複数の器官が同時に動いて作用する動き)による立体視訓練も同時に行うことができる。InnoJin社長で眼科医の猪俣武範氏は同日に開いた共同開発の発表会で、協応運動の要素も含まれる治療用アプリは「おそらく世界初」だとし、協応運動も弱視の改善効果にプラスに働くことを期待していると話した。さらに、同アプリではアプリの使用時間を記録できるため、医師は患者の自宅での治療時間を把握でき、より効果的な治療計画の立案も可能になるとしている。
なお、今回の治療用アプリは、小児弱視の中の40~45%を占める不同視弱視と、10%程度を占める斜視弱視向けとなる。不同視弱視は近視、遠視、乱視の度数の左右差が大きいために生じる視力障害。斜視弱視は、左右の眼の視線が別の方向に向かい、斜視眼では網膜の中心部分で物を見てないため視力が発達せずに弱視となること。
◎適切な治療しなければ生涯弱視の可能性 ゲーミフィケーションによる離脱率の低減を期待
弱視は、視力の発達が障害されて起きた低視力を指し、眼鏡をかけても視力が十分でない場合を指す。子どもの約3%が罹患し、年間3万人のペースで患者が増加している。弱視の標準治療として眼鏡装用及びアイパッチを用いた「健眼遮蔽」があり、毎日数時間、健眼側を見えなくして、弱視眼を強制的に使用させることで視力発達を促す。しかし、健眼遮蔽は子供が嫌がることが多く、家族の協力も必要で、患者や家族の負担が大きいうえ、治療効果の低減が課題になっている。
猪俣氏は、「視覚の感受性期(=視力が育つ期間)は8歳ぐらいまでと言われている。弱視は早期からの適切な治療が重要」と述べ、弱視は早期発見・早期治療をしなべれば生涯弱視が継続する可能性があると説明した。今回共同開発する治療用アプリにより、▽ゲーミフィケーションによる離脱率の低減、▽親の見守りが不要となることによる負担軽減、▽医師が患者の日頃の治療状況が確認できるため、より適切な治療が可能になる――ことが期待できるとした。今後実施する臨床試験デザインは、規制当局と相談することになるとした上で、「視力の改善効果は主要評価項目になるのではないか」と話した。
◎住友商事 「総合商社初の治療用アプリ開発への参入」
3社の役割分担は、InnoJinが医学的見地からの製品監修、医学的エビデンス取得、医療機器としての承認申請を担う。住友商事は開発・申請にわたる全般のプロジェクトマネジメント、イマクリエイトは治療コンテンツの開発――となる。
住友商事は20年に医療用アプリ開発などを行うサスメド社に出資してデジタル治療分野に進出した。住友商事メディカルサイエンス部の九鬼崇典部長は発表会で、今回の治療用アプリの共同開発について、「総合商社初の、治療用アプリ開発への参入になる」と述べ、業界初の取り組みと強調した。また、「新しいモダリティのため新しい売り方ができるのではないかということで、デジタルマーケティング手法も開発したい」と意欲をみせた。同アプリのピーク時売上は保険点数の付き方次第としたものの、「数十億円程度」を想定していると話した。
イマクリエイトの山本彰洋代表は、同社が開発するVRは、360度動画を見るような“見るVR”とは異なり、バーチャル空間内で現実のように身体を動かせるVRだと説明。「現実では不可能なことができる体験性を活かしたトレーニングを提供できる」とした。今回共同開発する治療用アプリは、市販のVRにアプリをインストールして医師の処方のもとで使用する方向だが、小児用VRの開発や、VR機器の貸し出しを検討する必要があるとも指摘した。