厚労省の薬食審・医薬品第二部会は8月29日、新薬7製品の承認の可否を審議し、承認を了承した。この中にはアストラゼネカ(AZ)の新型コロナ抗体薬・エバシェルド筋注セット
(関連記事はこちら)以外に、AZの重症又は難治の気管支喘息治療薬・テゼスパイア皮下注や、ブリストル マイヤーズ スクイブ(BMS)の経口乾癬治療薬・ソーティクツ錠が含まれる。テゼスパイアはTSLP(胸腺間質性リンパ球新生因子) を標的とする初の喘息治療薬。また、ソーティクツはTYK2(チロシンキナーゼ2)依存性シグナル伝達経路を選択的に阻害する初の薬剤となる。
報告品目は7製品。MSDのがん免疫療法薬・キイトルーダ点滴静注への子宮頸がん及びトリプルネガティブ乳がんにおける術前・術後薬物療法の効能追加などの承認が了承された。
【審議品目】(カッコ内は一般名、申請企業名)
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テゼスパイア皮下注210mgシリンジ(テゼペルマブ(遺伝子組換え)、アストラゼネカ):「気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない重症又は難治の患者に限る) 」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。
抗TSLP抗体薬。複数の炎症カスケードの上流で主要な上皮細胞サイトカインであり、重症喘息に伴うアレルギー性、好酸球性、他のタイプの気道炎症の発現および持続に不可欠なTSLPの作用を阻害する。用法・用量は「通常、成人及び12歳以上の小児には1回210mgを4週間隔で皮下に注射する」と設定された。
同一の効能・効果を有する薬剤には、サノフィの抗IL-4受容体αサブユニット抗体デュピクセント皮下注がある。AZによると、テゼスパイアの臨床試験では、バイオマーカーのレベルによらず喘息の増悪抑制が期待できるとの結果が出ており、同社は「広範な重症喘息患者集団に対する治療を変革する可能性がある」としている。
なお、今年3月の薬食審・医薬品第二部会に上程される予定だったが、見送られた経緯がある。厚労省医薬品審査管理課は、「最初に審査報告を作成した後に、申請者から海外の継続投与試験に関する新たなデータが提出された。その結果を踏まえても安全性について許容可能との判断がなされた」と説明した。
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ソーティクツ錠6mg(デュークラバシチニブ、ブリストル マイヤーズ スクイブ):「既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。
経口TYK2阻害薬。TYK2は、細胞外からの刺激シグナルを細胞内に伝達するために働くリン酸化酵素群の一つであるJAKファミリーの分子。乾癬を含む自己免疫疾患の病態に寄与するインターロイキン(IL)-12、IL-23、I型インターフェロンなどの炎症性サイトカインの受容体に結合して下流にシグナルを伝達する役割を担っている。同剤はこれらのTYK2に依存するシグナル伝達経路を高い選択性で阻害し、効果を発揮する。
申請効能・効果と同一の効能・効果を有する薬剤として、アムジェンの経口PDE4阻害薬オテズラ錠がある。オテズラが1日2回経口投与なのに対して、ソーティクツの用法・用量は「通常、成人には1回6mgを1日1回経口投与する」となっている。
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メンクアッドフィ筋注(4価髄膜炎菌ワクチン(破傷風トキソイド結合体)、サノフィ):「髄膜炎菌(血清群A、C、W及びY)による侵襲性髄膜炎菌感染症の予防」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。
同社の4価髄膜炎菌ワクチン・メナクトラ筋注の後継品。メナクトラがジフテリア毒素結合型ワクチンなのに対し、メンクアッドフィは破傷風トキソイド結合体ワクチンであり、製剤上の違いがある。厚労省医薬品審査管理課は「臨床的な位置付けに違いはない」としている。
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バクニュバンス水性懸濁性シリンジ(沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン(無毒性変異ジフテリア毒素結合体)、MSD):「高齢者又は肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる成人における肺炎球菌(血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19F、22F、23F及び33F)による感染症の予防」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。
15種類の肺炎球菌血清型に対応したワクチン。類薬にはファイザーのプレベナー13水性懸濁注(沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(無毒性変異ジフテリア毒素結合体))や、MSDのニューモバックスNPシリンジ(23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン)がある。なお、日本でバクニュバンスは小児に対する適応でも承認申請されている。
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ベリナート皮下注用2000(人C1-インアクチベーター、CSLベーリング):「遺伝性血管性浮腫の急性発作の発症抑制」を効能・効果とする新投与経路医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。
血漿分画製剤。既承認のベリナートP静注用500 と同一の有効成分(血漿由来のC1-INH)を含有する皮下注射剤。遺伝性血管性浮腫(HAE)の急性発作の発症抑制(長期予防)に対する新投与経路医薬品として承認申請が行われた。
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エザルミア錠50mg、同錠100mg(バレメトスタットトシル酸塩、第一三共):「再発又は難治性の成人T細胞白血病リンパ腫」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。
EZH1/2阻害薬。EZH1及びEZH2は多くの血液がんで発現しているヒストンメチル化酵素。がん抑制遺伝子の不活性化に関係している。同剤はエピジェネティクス(DNA配列の変化を伴わない遺伝子発現変化を誘導する分子メカニズム)領域の低分子医薬品。EZH1/2のメチル化活性を阻害することで、アポトーシスを誘導すること等により、腫瘍の増殖を抑制すると考えられている。
【報告品目】(カッコ内は一般名、申請企業名)
報告品目は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査段階で承認して差し支えないとされ、部会では審議せず、報告のみでよいと判断されたもの。
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キイトルーダ点滴静注100mg(ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)、MSD):「①進行又は再発の子宮頸がん」を効能・効果とする新効能医薬品②ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの乳がんにおける術前・術後薬物療法」を効能・効果とする新効能・新用量医薬品。再審査期間は残余(令和4年10月18日まで)。
ヒト化抗ヒトPD-1モノクローナル抗体。子宮頸がんに対する初の免疫療法となる。
乳がんの術前・術後薬物療法では、「通常、成人には、1 回200mgを3週間間隔又は1回400mgを6週間間隔で30分間かけて点滴静注する。投与回数は、3週間間隔投与の場合、術前薬物療法は8回まで、術後薬物療法は9回まで、6週間間隔投与の場合、術前薬物療法は4回まで、術後薬物療法は5回までとする」との用法・用量が設定された。
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アービタックス注射液100mg(セツキシマブ(遺伝子組換え)、メルクバイオファーマ):「RAS 遺伝子野生型の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん及び頭頸部がん」に係る用法・用量を追加する新用量医薬品。公知申請。
抗ヒトEGFRモノクローナル抗体。現在は1週間間隔で用いているが、今回2週間間隔の投与を追加する。
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ベバシズマブBS点滴静注100mg「CTNK」、同400mg「CTNK」(ベバシズマブ(遺伝子組換え)[ベバシズマブ後続4]、日本化薬):「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん、扁平上皮がんを除く切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん、手術不能又は再発乳がん」を効能・効果とするバイオ後続品。
抗VEGFヒト化モノクローナル抗体。ファイザー、第一三共、日医工に続くアバスチンの4剤目のバイオ後続品。
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メトジェクト皮下注7.5mgシリンジ0.15mL、同10mgシリンジ0.20mL、同12.5mgシリンジ0.25mL、同15mgシリンジ0.30mL(メトトレキサート、日本メダック):「関節リウマチ」を効能・効果とする新効能・新用量・剤形追加に係る医薬品。
メトトレキサート(MTX)として国内初の皮下注製剤。錠剤やカプセル剤では「関節リウマチ」の適応を持つ。
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カルボプラチン点滴静注液50mg「NK」、同150mg「NK」、同450mg「NK」(カルボプラチン、マイラン製薬):「乳がん」を対象疾患とする新用量医薬品。
キイトルーダのトリプルネガティブ乳がんの術前・術後薬物療法と併用する。
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パクリタキセル注30mg/5mL「NK」、同注100mg/16.7mL「NK」(パクリタキセル、日本化薬):「進行又は再発の子宮頸がん」を対象疾患とする新用量医薬品。公知申請。
キイトルーダの子宮頸がん適応と併用する。
この日の部会で審議された新型コロナ抗体薬・エバシェルド筋注、報告された新型コロナワクチン・コミナティ筋注5~11歳用の追加免疫の用法追加の記事はこちら。