国立がん研究センターは12月24日、2009年にがんと診断された約29万例の10年相対生存率が60.2%だったと発表した。前回調査(08年診断例)は59.4%だったため、単純比較で0.8ポイント上昇したことになる。ただ、10年相対生存率は部位で差があり、膵臓、肝臓、胆のうの各がんや甲状腺未分化がん、小細胞肺がんの生存率は他のがんに比べて特に低いことが改めて確認された。また、国がんは今回、15歳未満の小児がん11種と、15歳以上40歳未満のいわゆるAYA世代のがん23種の5年生存率を初めて集計した。AYA世代では調査対象のうち11種で5年相対生存率が80%を超えたことがわかった。
文末の「関連ファイル」に、09年にがんと診断された患者のがん種及びステージ別の10年相対生存率と、13、14年にがんと診断された小児及びAYA世代の患者の5年相対生存率の資料を掲載しました(会員のみダウンロードできます。14日間の無料トライアルはこちら)。
生存率には相対生存率と実測生存率があり、相対生存率はがん以外の死因による死亡の影響を除外したもの。実測生存率は死因に関係なく全ての死亡を計算に含めた生存率となる。
今回発表した生存率は、国が指定するがん診療連携拠点病院等を含む院内がん登録実施施設から収集した情報を用いたもの。10年生存率は、09年診断例のうち、全がんにおける生存状況把握割合が90%以上の281施設約29万例を集計対象とした。国内で最大かつ最新の調査結果となる。5年生存率は13、14年の診断例のうち、全がんにおける生存状況把握割合が90%以上の437施設約87万例を集計対象とした。
◎部位別・全病期の10年相対生存率 膵臓6.7%、甲状腺未分化7.2%、小細胞肺8.6%
部位別の全病期の10年相対生存率は、高い順から前立腺100%、甲状腺94.9%、乳(女)87.8%、子宮体83%、腎73.7%、子宮頸70.5%、咽頭69.3%、結腸68.5%、大腸67.5%、胃66.8%、直腸65.7%、膀胱62.4%、全がん60.2%、腎盂尿管44.6%、非小細胞肺35%、食道34.2%、胆のう25.2%、肝細胞22.8%、肝内胆管10.4%、小細胞肺8.6%、甲状腺未分化7.2%、膵臓6.7%――だった。
このうち予後不良の代表格の膵臓がんは早期発見の難しさが知られており、集計対象例を見ても、I期は554例だが、IV期は4312例と約8倍となっていた。10年相対生存率が膵臓がんに次いで低い甲状腺未分化がんはIV期の患者のみ登録。小細胞肺がんもI期は261例だが、III期1190例、IV期1678例と早期発見の難しさが垣間見える。
◎がんや病期によって5年目以降のフォローアップも重要
今回、発見時のステージが進んでいても、5年以降の相対生存率がほぼ横ばいまたは緩やかな低下傾向を示すがんと、5年以降も相対生存率が低下傾向を示すがんがあることも確認された。
例えば大腸がんでは、III期の5年相対生存率は76.4%、10年相対生存率は70.1%――、IV期は同18.8%、12.7%――と5年以降、生存率は緩やかな減少傾向をみせた。一方で、女性の乳がんでは、III期は同80.6%、68.6%、IV期は同38.7%、19.4%――で、大腸がんと比べると、5年目以降の生存率の低下角度が大きい。
国がん・院内がん登録分析室の奥山絢子室長は会見で、「これまで多くのがんで診断から5年を治癒の目安として用いていた」とした上で、「今回、がんや病期によっては5年を過ぎてからも命を脅かす危険があることが再確認できた」と述べ、がんや病期によっては5年以降のフォローアップも重要との見方を示した。
◎小児、AYA世代とも5年相対生存率は比較的高く
13、14年の登録データをもとにした全がんの5年相対生存率は67.5%で、前回調査の67.3%とほぼ横ばいだった。
今回初めて集計した、国際がん分類に基づく15歳未満の小児の5年相対生存率は、白血病88.0%、リンパ腫90.7%、脳腫瘍74.6%、神経芽腫78.6%、網膜芽腫95.4%、腎腫瘍93.8%、肝腫瘍87.1%、骨腫瘍70.5%、軟部腫瘍79.3%、胚細胞腫瘍96.6%、その他のがん91.0%――で、相対生存率は比較的高いことがわかった。
15歳~40歳未満のAYA世代の5年相対生存率も、同生存率が70%以上だったがんは、甲状腺99.2%、胚細胞性他95.0%、腎93.5%、リンパ腫90.1%、乳90.0%、子宮頸部・子宮89%、黒色腫・皮膚87.8%、その他の癌新生物84.5%、脳・脊髄腫瘍84.3%、癌腫(上皮性の悪性腫瘍)83.4%、頭頸部のその他のがん82.5%、性腺79.0%、白血病75.0%、大腸4.8%、軟部肉腫73.9%、膀胱73.4%、骨・軟骨腫瘍70.5%――の17種あり、分析対象の23種の74%を占めた。
◎国立成育医療研究センターの松本公一氏 小児がん領域のドラッグ・ラグの解消を
小児、AYA世代とも5年相対生存率が比較的高い理由について、国立成育医療研究センター・小児がんセンターの松本公一センター長は、「小児がんは薬が非常に効きやすい。抗がん剤、放射線療法が効きやすいがんが多いことに起因していると思う」との見方を示した。
ただ、「小児がん、AYA世代のがんを診療する医療従事者は、合併症なく100%治すことを目指している」と強調し、「10年、20年、30年と長期フォローアップが非常に大事になる。(データとして)5年生存率では非常に短い」とも話した。
また、松本センター長は、小児・AYA世代のがん医療の課題のひとつにドラッグ・ラグの存在を挙げた。21年9月に発売した大量化学療法後の神経芽腫に用いるユニツキシン点滴静注を例に、「ユニツキシンがようやく使えるようになったが、この薬は5~6年前には米国で使用できていた。しかも海外では次の世代の治療薬も出ているのに、日本では使えない」と指摘した。「小児がんの市場がものすごく小さい」ことが製薬企業の創薬意欲に影響している可能性に触れつつ、国策として小児向け新薬を開発するようにすべきと訴えた。
◎「サバイバー生存率」 長期生存するほど上昇
国がんは今回、13、14年登録データをもとに、新たな生存率の指標として「サバイバー生存率」を示した。サバイバー生存率は、診断から年数が経過して生存しているサバイバーの、その後の生存率を示すもの。例えば、3年サバイバーの次の1年生存率は、診断後3年経過した患者の、その後の1年(診断後4年)まで生存する確率を示す。
例えば非小細胞肺がん(NSCLC)では、診断から1年の生存率は73.7%だが、1年サバイバーの次の1年生存率(診断後2年)は83.4%、2年サバイバーの次の1年生存率は89.1%、3年サバイバーの次の1年生存率は92.5%、4年サバイバーの次の1年生存率は94.1%――だった。
胃がんも、診断から1年の生存率は85.5%だが、1年サバイバーの次の1年生存率は92.2%、2年サバイバーの次の1年生存率は95.8%――で、長期生存するほどサバイバー生存率は高くなっていた。
ほかのがん種も同様の傾向だが、特に膵臓がんや肝内胆管がんなど一般に予後不良ながんで、長期生存するほどサバイバー生存率もより上昇していた。膵臓がんでは診断から1年の生存率は44.2%だが、1年サバイバーの次の1年生存率は57.0%、2年サバイバーの次の1年生存率は70.7%、3年サバイバーの次の1年生存率は81.2%、4年サバイバーの次の1年生存率は86.3%――だった。
国がん・院内がん登録分析室の奥山室長は、「難しいがんの方がサバイバー生存率は上昇する傾向にある」と述べた。その理由については、十分に分析できていないとした上で、「診断された時点で難しい治療を乗り越えた方は、その後に長期生存する可能性が高まっていくということかと思う」との考えを示した。奥山室長は、「少しでも患者さんに希望を持ってもらえれば」とも述べ、今後もサバイバー生存率の最新情報を提供することに意欲を見せた。
◎「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム」で10年生存率も検索可能に
国がんは24日から、フリー公開している既存の「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム」で、10年生存率の結果も検索できるようにする。がんの種類、性別、病期、年齢、手術の有無といった条件検索もできる。
国がん・がん対策研究所の若尾文彦事業統括は、社会には“がんは不治の病”とのイメージがあるとした上で、「(最新データでは)10年相対生存率は60.2%、5年相対生存率は67.5%であり、一般の方のイメージとギャップがあると思う。がんは不治の病とのイメージの払しょくにつながればと考えている」とコメントした。
また、今回公表した10年生存率は12年前、5年生存率は7~8年前に登録された情報が元になっていることから、「(近年の)様々な新しい医療の恩恵を受けていないデータであり、いま、治療に向き合っている患者さんにそのまま当てはまるものではない」とも指摘した。