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【FOCUS 緊急事態宣言で幕開けした2021年 MRが起こす破壊的イノベーション】

公開日時 2021/01/07 04:52
2021年が始動した。製薬トップの年頭所感は、ニューノーマル、ソリューション、デジタルトランスフォーメーション(DX)、トータルヘルスケアカンパニーなどのカタカナ表記の多さに目を引いた。これまで築き上げたビジネスモデルが激変し、逆に、社会構造や社会システムの変化に即応するビジネススタイルへの変革が求められている。4月実施の毎年薬価改定は製薬企業の収益構造を揺さぶり、産業としての事業構造転換を迫った。一方でAI(人工知能)やビッグデータを活用したeコマースなどのサプライチェーンやITテクノロジーに強みを持つ多種多様な企業や産業が医療・ヘルスケア分野になだれ込んでくる。国によるデータヘルス改革もいよいよ本格化する。情報を扱う製薬ビジネスもこうしたテクノロジーとの協業は避けられそうにない。MRも同様だ。ニューノーマル型でデジタル武装したMRに自分自身が転換できるかどうかがカギを握る。(Monthlyミクス編集長 沼田佳之)

◎リモート活用の真髄 それは地理的要件、時間的制約の撤廃にある

今年は新型コロナの感染拡大に伴う1都3県への緊急事態宣言の発令で幕を開ける。2020年の経験を活かし、その真価が問われる1年となる。MR活動は、昨春のように在宅勤務やテレワークの推奨、リモート会議システムを用いた医師など医療従事者へのアプローチが求められる。昨年の経験を活かすという点で考えるべきは、これまで無し得なかったリモートの活用による地理的要件や時間軸の制限を取っ払った活動への転換を実証することに他ならない。これまでのリアル面談(Face to Face)を単にリモートに置き換えるという発想ではない。リモートだからこそ最大化できる情報提供のあり方を見いだすことに挑戦すべきだ。

◎東京のKOLと札幌の医師グループをリモートでつなぐ MRが仲介

一つの事例を紹介したい。経験のあるMRなら地域のKOL(AOL)のメッセージを担当エリアの“医師のグループ”にリモートを使ってタイムリーに広めることは可能だ。医局説明会の「地域版リモート説明会」をイメージして欲しい。一昔前、地域・エリア単位で開催する小規模勉強会が医師から好評を得たという経験を持つMRも多いのではないか。いまやWeb講演会全盛の時代でもあるが、リモートであれば参加医師は診療室や医局から会議に参加でき、参加者全員が双方向でディスカッションできる。顔見知りの医師同士であれば、より親近感を覚えながら意見交換でき、かつ情報への理解も進むという訳だ。

このスキームはKOL(AOL)を中心に、複数医師がコミュニティーに同時にアクセスできる。ここに地理的要件や時間軸の制限という要素を重ね合わせて考えてみる。例えば、キャリアのある大学病院担当MR(医師との関係構築が十分で信頼されているMR)であれば、自身が担当する東京にある医学部の教授クラス(KOL)を札幌のプライマリケア医グループにリモートでつなぐことができる。地理的要件を少々大袈裟に表現するため、あえて東京と札幌という極端な例を示したが、これはエリアのKOLと地域のプライマリケア医グループに応用できる。以前であればKOLや参加医師の移動の手配や会場となるホテルの手配に労力を費やす必要があった。リモートならば、それぞれの場所から参加できるため、移動や会場に係る費用はかからない。

一方、こうした業務を大学病院担当クラスのMRの職能(場合によってはKPI)に位置づけることで、本社の協力スタッフの数も最小化できる。Web講演会よりコストダウンできるため、プロジェクトの生産性は大きく改善する。もちろん大学病院担当のMRにとっても、リモートを介した医師(医療者)コミュニティーのサポートスキルを磨くことで、その後の職位のインセンティブにもなるなど、MRにとっての破壊的イノベーションと言える大転換の試みだ。

◎リモート面談は「1対Group」の発想が大切

ここまでリモート環境を活かすMRの新たなスタイルを紹介した。これを推奨するのにはもう一つの理由がある。2021年は国のデータヘルス改革が本格化する。データヘルス改革とは、①全国の医療機関等で医療情報(薬剤情報等)を確認できる、②電子処方せんの仕組みを構築、③患者・国民がスマホやPCで医療情報を閲覧・活用できる-というものだ。今年3月からは健康保険証とマイナンバーカードが一体化され、医療機関を受診した際に、オンライン資格確認が行える。初期段階でこのシステムを運用する医療機関は限られるが、政府は今後2年間を集中改革期間と位置づけ、データヘルス改革を推進する考えだ。

オンライン診療は、まさにこの仕組みの「入口」に相当する。医師は患者の診療に際し薬剤情報を電子処方せんに入力し、オンライン資格確認システムに登録する。薬局の薬剤師は患者の求めに応じてオンライン資格確認システムから電子処方せんを受け取り、調剤する。調剤した薬剤はドローンを飛ばして患者宅に届けるというイメージだ。ドローンまではデータヘルス改革に含まれていない。が、政府のSociety5.0にはしっかりと構想されているのだ。

注目して欲しいのは、オンライン資格確認等システムを通じ、診療情報が蓄積され、医療従事者間で共有されることだ。これにより重複投与の回避やオンライン診療・服薬指導の円滑な実施がデジタル上で可能になる。患者も紙(処方せん)の受け渡しが無くなるため、利便性が向上する。まして患者宅にドローンが薬剤を届けてくれるとなると、自宅から一歩も外に出ずに医療機関を受診し、診療費の決済もオンラインで行い、薬剤を自宅で受け取ることもできるという訳だ。まさに、この絵姿が今後2年間かけて構築される。

MRにお願いしたいのは、こうした地域医療の変化をどう捉え、自分たちのビジネススタイルをどう構築するかだ。前段で述べたように、情報提供のスタイルが、これまでの「1to1」から「1to Group」に変わることを想像すべきだ。情報提供の効率性や生産性を考えれば、MR側からこうした外部環境の変化を捉えて準備する必要がある。加えて言えば、政府が推し進める地域包括ケアシステムの基盤がこれにより整うことになり、さらに地域フォーミュラリなどデータを活用した地域医療施策が本格化することを意味する。すなわち、2021年を境にビジネス環境が大きく変わる。ここに新型コロナウイルスが加わり、更に激流となるという構図だ。

◎データ、情報、コミュニケーションが医療プラットフォームを構成する

医療プラットフォームが構築されることで、医療の絵姿は大きく変わる。データ、情報、コミュニケーションがそれぞれ動き出す。医療の評価軸も治療のアウトカムが中心となり、その際は患者の治療満足度や日常生活の維持という新たな指標が加わると予想される。製薬企業の立ち位置も、これまでのエビデンスベースに加えて、患者の満足度を図るためのデジタルソリューションの活用なども視野に入るだろう。MR活動は、今後数年で激変すると思われる。革新的新薬を待つ患者と医療者にいち早く情報提供することはもちろんだが、加えて、治療結果や治療成果についても企業が責任を負う時代が来るといっても過言ではないだろう。目指す医療の絵姿がそれを求める限り、製薬企業の情報提供活動もこれにマッチしたものでなければならない。その意味でMRは、良い意味で破壊的イノベーションを起こす側の立場に置かれるべきだと思う。皮肉なことだが、新型コロナがその背中を押していることは間違いない。2021年はその第一歩を踏み出した年として後世に記録されることになろう。



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