自民党 骨太方針に21年度薬価改定の文言追記 医療機関経営の悪化が市場価格の下振れに影響も
公開日時 2020/07/17 04:52
自民党政調審議会は7月16日、「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太方針2020)」をめぐり、21年度から導入される毎年薬価改定(中間年改定)について追記することを了承した。原案段階では、薬価毎年改定とその前提となる薬価調査についての記載はなく、既定路線通り実施する姿勢を示していた。追記後も、薬価改定と薬価調査を実施する構えに変更はないが、「本年の薬価調査を踏まえて行う2021年度の薬価改定については、骨太方針2018等の内容に新型コロナウイルス感染症による影響も勘案して、十分に検討し、決定する」と盛り込まれた。政府は与党との調整を踏まえてきょう閣議決定される見通し。
2021年度から導入される薬価毎年改定の前提となる薬価調査をめぐっては、7月14日の自民党政調全体会議で、厚労関係議員らから、西日本を中心とした豪雨災害や、新型コロナウイルス感染症下における医療機関経営の悪化と、これに伴う価格交渉の遅延などを理由に、薬価調査を実施できる状況にないなど、厳しい現状認識が集中した。この結果、政調会長に取りまとめが一任され、政調審議会での意見を諮り、骨太原案に追記するに至った。
◎価格交渉 首都圏は遅れ気味、感染者数の少なかった地域は例年通りとの声も
政府はこうした与党側の声に配慮しつつも、2018年の骨太方針の内容を堅持する方針に変わりはない。これにより毎年薬価改定の実施に向けた議論は、中医協に舞台を移して行われる。すでに、これまでの中医協の議論でも、新型コロナ感染症に伴う医療機関経営の悪化や医薬品卸と医療機関の価格交渉の遅延などが論点にあがっており、今秋の薬価調査をどのように実施するかが最初の争点となる。また、実際の毎年薬価改定の範囲とその在り方についても中医協で引き続き議論し、年内に一定の方向性を得ることになる。
焦点の価格交渉については、新型コロナ感染症の感染拡大や政府の緊急事態宣言などが全国に及んだことから、「開始自体は遅れた」との認識が流通当事者から示される。一方、東京都など首都圏を中心に感染者数が急増しているため、東京都など一部地域で妥結まで若干の遅れがみられるが、全国的にみれば価格交渉は例年通り進んでいることも分かっている。また、西日本の豪雨災害とも重なり、これに伴い価格交渉がストップした地域もある。また、チェーン薬局などの交渉は例年通りとされ、今夏にはスタートする見通しだ。未妥結減算制度を見据え、最終的には9月には妥結するとの見方が強い。そのため、結果的には薬価調査自体は可能という。
◎市場価格の値動きは活発 例年に比べて価格下振れを警戒
気がかりなのは市場価格の値動きが例年に比べて活発化していることだ。新型コロナ感染症に伴う医療機関経営の悪化の余波は思わぬところに影響している。医薬品卸、医療機関・薬局双方への取材を通じ、例年に増してバイイングパワーが強まっているとの声を幾つも聞いた。すでに通常より1~2%程度下振れしているとの見方もある。加えて独立行政法人 地域医療機能推進機構(JCHO)の入札をめぐり大手医薬品卸への独禁法違反の調査も進むなかで、早くも医薬品卸の価格形成能力に影響が出ていると指摘する。想定より価格乖離が開くことへの警戒感は強い。
今回、骨太方針に薬価改定の実施を明記することで、逆に未妥結減算を警戒する民間病院の価格交渉が本格化すると見る声もある。日本医師会の中川俊男会長は7月15日の記者会見で、「薬価調査は新型コロナウイルス感染症下で行うことができないというのが現場の一致した意見。技術的に不可能だ」と突っぱねた。薬価調査についても、「日々変わる状況のなかで、我々が言えるのはきょうの会見の内容だけだ」と述べ、首都圏をはじめ感染拡大地域の状況や豪雨災害などこれからも予測不能な自然災害についても注視した上で慎重に結論を得るべきとの姿勢を示している。一方で、新型コロナウイルスの感染拡大は、医療界や製薬業界だけでなく、日本社会の経済全体に影響を及ぼしている。薬価調査・薬価改定の本来の目的の一つでもある”国民負担の軽減”は喫緊に迫った課題だ。こうした観点からも薬価改定の実施先送りに否定的な意見も根強い。(望月英梨)