キョーリン製薬ホールディングスの荻原豊社長は5月13日、ウェブで実施した2020年3月期(19年度)決算と新中期経営計画の発表会見で、今後のMR活動について、顧客の抱えている課題を把握して解決策を提案する「ソリューション提供型」に変えると表明した。「これまではモノを単純に売るディテールが多かった」と指摘し、マインドを含めてMR活動を大きく変えることに意欲を示した。ソリューション提供型の活動は感染症領域から開始し、予防、診断、治療をミックスして解決策を提案する。その後、呼吸器や泌尿器にも対象範囲を広げる。
新中期経営計画「HOPE100-ステージ3」は23年度を最終年度とする4か年の中期計画。同社は23年度に創業100周年を迎えることから、10年に「HOPE100」との長期ビジョンをまとめており、今回の新中計は長期ビジョンの総仕上げの意味合いもある。長期ビジョンでは「ヘルスケア事業を多角的に展開・発展させ、23年には社内外が認める健全な健康生活応援企業へと進化する」ことを掲げた。
新中計の数値目標は、連結売上高の年平均成長率5%以上、研究開発費控除前の連結営業利益(営業利益+研究開発費)は対売上高20%以上――とした。利益追求のために研究開発投資が縮小することがないよう、「営業利益+研究開発費」との指標を用いた。
成長ドライバーは喘息治療薬フルティフォーム、抗アレルギー薬デザレックス、過活動膀胱治療薬ベオーバ、合成抗菌薬ラスビックの新薬群で、迅速・的確・簡便で小型化されたPCR装置「ジーンソック」による診断事業も成長させる。
■オリジナリティーを追求へ
新中計では、「オリジナリティーの追求による成長トレンドを実現する」との基本的な考え方を示した。荻原社長は、市場環境がさらに厳しく、制限がより強化されると、「似たような打ち手になり競争力がそがれる」と指摘し、独自の競争力のある打ち手(オリジナリティー)を追求すると話した。
オリジナリティーのある取り組みのひとつに、MR活動のソリューション提供型への変貌を挙げた。ソリューション提供型の活動は感染症領域から開始する。同社は感染症領域に、予防の製品として「ミルトン」「ルビスタ」、診断では「ジーンソック」、治療では「ラスビック」をラインナップしている。
荻原社長は、「ソリューション提供型のMR活動は、従来の活動とは異なり、顧客の考えている課題に対して『こういう解決策がある』との、いわゆる提案型の営業のやり方」と説明し、
「感染症関連の医療従事者にトータルで情報提供する。医療関係者に対してキョーリン独自の貢献をする」と意欲を示した。これまでヘルスケアと医療分野を「極めて分離して活動していた」とも指摘し、今後は「この垣根をなくして複合的なディテールをしていく」と話した。
■キョーリンリメディオのMR グループ調剤中心に活動
新中計の期間中に、コスト競争力の向上にも取り組む。このひとつとして、「GE営業体制の効率化により、GE事業のコスト競争力を高める」ことを盛り込んだ。この点について荻原社長は、同社グループで後発品を扱うキョーリンリメディオのMR約80人はグループ調剤を中心に活動するようにし、一般の薬局・薬店はグループ全体でカバーする取り組みだと説明した。
なお、前中計の「HOPE100-ステージ2(16年度~19年度)」では年平均成長率3%以上を目指したが、結果はマイナス2%だった。連結営業利益率15%以上を目指したが、結果は6.8%にとどまった。新薬創出等加算の見直しなど薬価制度抜本改革があったことや、デザレックスの一時供給停止、自社創製のラスビックの上市遅れなどが計画未達の理由となる。荻原社長は、デザレックスは19年11月に供給を再開し、ラスビックは20年1月に発売したとして、「いずれも解決した。成長ドライバーである新薬が出そろった。(新中計の)ステージ3では新薬群の伸長による成長トレンドの実現を目指す」とした。
■19年度は減収減益 デザレックス供給再開の遅れなどで
同社の19年度連結業績は売上1099億円(前年同期比3.2%減)、営業利益75億円(16.4%減)の減収、各利益段階でも2ケタの減益だった。医療用医薬品事業の売上は1036億円(3.9%減)と減収で、特に国内の新薬事業が712億円(8.4%減)と不調だったことが響いた。
国内の新薬事業は、フルティフォームやベオーバなどは伸長する一方で、▽デザレックスの供給再開の遅れ(自主回収19年
1月、再開同年11月)▽3%台の薬価改定影響▽アレルギー性鼻炎治療薬ナゾネックスに後発品が参入して売上が60億円(52.8%減)と半減した――といった減収要因を吸収できなかった。
このうちデザレックスについて荻原社長は、花粉症シーズンと新型コロナウイルスの感染拡大に伴うMRの訪問活動の自粛が重なったことで十分な情報提供活動ができず、非常に進捗が緩やかになったと説明した。そして、「新規処方や切替処方には、やはり対面(での情報活動)が非常に重要と思っている」とし、コロナ収束後のデジタルとリアルの活動で同剤を成長させたいと意欲をみせた。
ベオーバは想定以上の市場浸透により現在、出荷調整中。この点について荻原社長は陳謝するとともに、「生産体制の再構築に全力で取り組む」と述べた。ベオーバは売上43億円(481%増、36億円増)で、予想より15億円増だった。20年度は「ベオーバを過活動膀胱治療薬の第一選択薬に育成」するとしている。
なお、国内の後発品売上は310億円(5.5%増)で、ナゾネックスAGなどが寄与した。
■20年度は増収増益の計画 新薬4製品の大幅伸長で
20年度計画は連結業績で売上1155億円(5.0%増)、営業利益97億円(29.3%増)と増収増益を見込む。新型コロナの影響は現時点では軽微だとしている。
2%台の薬価改定影響があるものの、国内新薬事業は746億円(4.8%増)を目指す。主力の新薬群の売上目標はフルティフォームが150億円(2.4%増)、デザレックスは88億円(240.2%増)、ベオーバは70億円(62.9%増)、ラスビックは41億円(279.7%増)――と設定し、大幅な売上増加を見込んだ。国内後発品事業は349億円(12.7%増)を計画し、6月にウリトスのAGなどを投入する。
【19年度連結業績(前年度比) 20年度予想(前年度比)】
売上高 1099億8300万円(3.2%減) 1155億円(5.0%増)
営業利益 75億300万円(16.4%減) 97億円(29.3%増)
親会社帰属純利益 61億4900万円(10.5%減) 76億円(23.6%増)
【19年度の国内主要製品売上高(前年度実績) 20年度予想、億円】
フルティフォーム 146(131)150
デザレックス 26(37)88
ベオーバ 43(7)70
ラスビック 11(-)41
ウリトス 58(66)27
ペンタサ 133(135)117
ナゾネックス 60(128)26
キプレス 118(138)95
ムコダイン 58(68)49
ジェネリック計 310(293)349
うち、キプレスAG 115(119)107
うち、ナゾネックスAG 28(-)35
【訂正】下線部に誤りがありました。訂正します。(5月14日10時45分)