加藤勝信厚生労働相は12月5日の経済財政諮問会議で、2020年度診療報酬改定の基本方針案を説明した。加藤厚労相は医療機関の経営状況に触れ、一般病院の損益率は引き続きマイナスにあり、医療法人でも3分の1の病院は赤字だと指摘。「他産業と比べて医療分野の賃金の伸びは低い状況にある」と強調した。一方、麻生太郎財務相からは、次期診療報酬改定が予算編成の「大きな論点」との認識が示された。議論では、次期診療報酬改定に際し、急性期病床の転換や、長期収載品に依存する産業構造からの脱却、後発品使用促進の金額目標、市販品類似薬の保険給付除外、健康長寿に向けての特定健診受診の向上などを求める意見もあった。
◎麻生財務相 20年度予算編成「診療報酬改定が大きな論点」
この日の諮問会議で麻生財務相は20年度予算編成作業について、「診療報酬が大きな論点となる」と強調。「診療報酬の引上げは医療機関にとって収入増だが、国民にとっては負担増となるもので、診療報酬改定については国民全体の負担の抑制を主眼に置いて、慎重に対応する必要がある」と主張した。これに対し加藤厚労相は、「医療分野では人件費も上がってきている。働き方改革も進めないといけない。こういったところを考えて検討していきたいといった話だ」と反論。民間議員が主張した地域医療構想については、「地方自治体の首長だけではなく、住民も巻き込んでムーブメントを作っていく必要がある」と述べた。
◎加藤厚労相 実調をベースに医療機関の経営状況を説明
加藤厚労相は、医療経済実態調査の結果をベースに医療機関の経営状況を説明した。損益率については、一般病院の2018年度損益差額はマイナス2.7%で、17年度から0.3ポイント改善したものの、引き続き赤字基調であることを説明した。医療法人の収支状況にも触れ、17年度が2.6%、19年度が2.8%となったものの、「約半数の病院は損益率が低下している」と強調した。なお、収支状況をみると、収入は1.3%増、費用は1.0%増。費用の増加の主な要因は給与費2%増となっている。このほか設備投資額は1.6%減、減価償却費は1.0%減となった。
◎物価は上昇 全産業と医療職の賃金格差は拡大
診療報酬改定の決定指標のとなる「賃金・物価」にも触れた。2015年度の物価指数を100とした場合、全産業が17年度102.8から18年度105.9まで上昇したのに対し、医療職は17年度の102.3から18年度は103.8と、「物価上昇に比べて、医療分野の賃金の伸びは低い」と強調した。特に、17年度から18年度の伸びが全産業と医療職との間で拡がっている。
すでにこの問題は日本医師会など医療関係団体からも指摘されている。日医の横倉義武会長は、「人件費の高騰が病院の利益を圧縮していることから、前回18年度改定の改定率0.55%を上回る大幅引上げを求める」とこれまでの記者会見などで発言している。12月4日の中医協総会に厚労省が薬価の平均乖離率(約8%)を提示したことから、診療報酬本体の「改定率」をめぐる議論がいよいよ佳境を迎える。この日の経済財政諮問会議における加藤厚労相の説明も、「本体プラス改定」を捥ぎ取りたい日本医師会など医療関係団体にとって追い風になる。診療報酬改定と並行して議論する全世代型社会保障改革の中間とりまとめも大詰めを迎えているだけに、政府・与党間の調整にいよいよ委ねられる局面が迫ってきた。