塩野義製薬・手代木社長 MR体制「大規模レイオフないが、リソースのシフトは重大な課題」
公開日時 2019/05/10 03:52
塩野義製薬の手代木功代表取締役社長は5月9日、19年3月期決算の発表会見に臨み、製薬産業が大規模な構造転換を求められるなかで、同社の営業体制について「現時点では大規模なレイオフはしたくないと思っているが、これからの3~4年間でリソースをいかにシフトするかは非常に重大な課題と認識している」と述べた。医療者への情報提供についても「方法はコンスタントに見直さないといけない」と述べ、AI(人工知能)やビッグデータなど最新テクノロジーの利活用による情報最適化などを視野に入れていることを示唆した。90年代の抗生物質全盛期に築き上げ、現代まで語り継がれた“シオノギMR”のイメージは、昨今の医療・製薬マーケットに押し寄せた構造改革の波とともに大きな転換期を迎えた。
◎国内業績「一番難しい時期を脱した」
「国内業績については、一番難しい時期を脱することができた」―。手代木社長は会見でこう語った。ブロックバスターにまで成長し、業績を長年支えた高脂血症治療薬・クレストール、ARB・イルベタンはともに特許切れの時期を迎え、2017年9月、12月にそれぞれ後発品が上市された。後発品の市場浸透はそのまま業績に影響する。手代木社長は会見で、「少し時期がずれていたら、もう少し対応ができたのかもしれないが、(2剤が)全くの同時期だったので、かなり大きなセールス上のインパクトがあったのは事実だ」と語った。
この日発表された塩野義製薬の19年3月期連結決算は、売上高3637億円、純利益は1328億円で、過去最高益を達成した。とは言え国内医療用医薬品売上高は対前年度比105億円減の1287億円。同社の屋台骨を支えてきたクレストールが対前年度比66.3%減(194億円減)の99億円、イルベタンファミリーが63.1%減(92億円減)の54億円と落ち込み、同社業績の足元の転換を揺さぶった。
一方で、抗HIV薬のロイヤリティー収入は対前年度比20.3%増の1244億円。インフルエンザ治療薬のゾフルーザが263億円の売上を確保するなど、一世代前の主力品の減収分を補い、最終的には過去最収益に着地する。ただ、「日本の販売ビジネスだけを考えてみると、2017年から18年にかけては相当に厳しかった。その一番難しい時期はやっと終わりつつあるという認識だ」と手代木社長は語る。こうした業績内容は、他の製薬大手とも共通する。主力品の特許切れと後発品参入に伴う業績の落ち込み。これを補う次世代新薬の上市により、なんとか業績をキープする姿は塩野義製薬に限らず、業界全体の課題ともいえる。同社はクレストールのロイヤリティー収入で業績をこれまで伸長させてきたが、19年3月期については、HIV治療薬のロイヤリティー収入で、この急場をなんとか凌いだ格好とも見ることができる。
その点で同社が今後の業績面で期待をかけるのは、抗うつ薬・サインバルタや、19年度中の成人への適応拡大を見込むADHD治療薬・インチュニブということになる。生活習慣病から中枢神経領域へのシフトこそが命題だ。
◎IT投資の拡大 自前主義を排し、ITベンチャーとの協働も視野
手代木社長の肝いりで投資を集中させている分野がある。それがIT領域だ。今年に入って、デジタル治療用アプリ AKL-T01、AKL-T02 の導入についてAkili 社とのライセンス契約締結を結んだ。さらにインフルエンザ診断支援AI医療機器を開発するベンチャーのアイリスと資本業務提携契約を締結するなど、積極的な投資を続ける。
手代木社長はこの日の会見で、「現時点で投資を始めないとヘルスケアのビジネスモデルは成り立たない」と強調した。医療機器だけでなく、「食品や運動、予防というキーワードでたくさんの産業が入ってくる。それをつなぐのがヘルスケアデータだ。そのデータをどう解釈し、ビジネスにつなげていくかがIT、IoTの部分だ」と話す。一方でこうしたビジネスを「製薬企業一社で行うのは相当難しかろうと思う」と語り、IT企業をはじめとした様々な“強み”を持つプレイヤーと連携し、“創薬のエコシステム”を構築する考えを示した。
ただ、こうした新たなトレンドも、「残念ながら、米国や中国のほうが取り組みは早い。我が国全体でどう対応していくのかということが業界全体、並びに各社が速いスピードで直面している」と危機感も示し、投資継続とパートナリングに注力する必要性を滲ませた。
◎営業モデル「今の延長戦はない」 情報提供のあり方は根本から見直す
手代木社長は、最新テクノロジーの急速な進歩に絡めながら、従来型の営業モデルを転換する必要性にも言及した。「すごくストレートに言うと、SOVのビジネスはしんどくなってきた」と表明。医療者に対する情報提供のあり方については、「今の延長戦」という概念を振り払い、根本から見直す必要性に言及した。手代木社長は、「どういう情報提供をどういう顧客に行うかはコンスタントに見直さなければならない。トータルの情報提供を行うという姿勢は変わらないが、情報提供のやり方は変わる可能性がある」との考えを示した。
◎ゾフルーザ 売上高は263億円
このほか、2019年1月、2月のインフルエンザの流行で一気にシェアを拡大したゾフルーザは売上高263億円となった。ただ、医療界では耐性の問題も指摘されるところ。手代木社長は、この間に蓄積したデータを活用し、「ゾフルーザの強みと留意する点も改めて分かってきたので、情報は開示していく」と説明した。耐性はタミフルなどのノイラミニダーゼ阻害剤でも起きると指摘し、懸念を払しょくする姿勢も示した。
【18年度連結業績(前年同期比) 19年度予想(前年同期比)】
売上高 3637億2100万円(5.5%増) 3655億円(0.5%増)
営業利益 1385億3700万円(20.2%増) 1470億円(6.1%増)
経常利益 1665億7500万円(20.1%増) 1705億円(2.4%増)
親会社帰属純利益 1327億5900万円(21.9%増) 1330億円(0.2%増)
【18年度国内主要製品売上高(前年同期実績) 19年度予想、億円】
サインバルタ 241(235)293
インチュニブ 53(19)136
ゾフルーザ 263(24)280
ラピアクタ 20(33)26
ブライトポック 12(11)18
オキシコンチン類 73(87)67
スインプロイク 16(6)23
アシテア 2(1)3
ムルプレタ 2(2)3
ピレスパ 57(65)69
クレストール 99(293)100
イルベタン類 54(146)49
ロイヤリティー収入 1803(1550)1636
内、HIVフランチャイズ 1244(1035)1265
内、クレストール 220(226)220