【速報】厚労省 「医薬品産業強化総合戦略」改訂版を公表 RWD利活用で革新的新薬創出に舵を切れ!
公開日時 2017/12/22 11:02
厚生労働省は12月22日、「医薬品産業強化総合戦略」の改訂版を公表した。総合戦略は2015年9月に策定したが、その後、後発医薬品80%目標の達成や薬価制度の抜本改革などで、製薬産業を取り巻く環境が急激に変化したことから、改訂が必要と判断した。改訂版・総合戦略では、製薬産業の姿として、人工知能(AI)を用いてリアルワールドデータ(RWD)を解析するなどして、がんや認知症、バイオ医薬品・核酸医薬などの革新的新薬を生み出す絵を描いた。アジアなど海外市場に展開する「創薬大国」の実現を目指す。厚労省としても、薬事規制改革などを通じた環境整備を進め、創薬力の高い産業への転換を全面的にサポートすることを明確に打ち出した。
◎一定期間に新薬創出できないメーカーは事業転換を
「有効性・安全性に優れ、競争力がある低コストで効率的な創薬を実現できる環境整備をしていく」-。改訂版・総合戦略には、こう記されている。2018年度薬価・診療報酬改定では、長期収載品の引き下げなどを通じ、製薬産業に「長期収載品に依存するモデルから、より高い創薬力を持つ産業への構造転換」を迫った。改訂版・総合戦略では、新薬メーカーに期待される役割は「グローバルに展開できる革新的新薬の創出」と明記。今回の薬価制度抜本改革の実施に伴い、長期収載品比率の減少が見込まれる中で、「今後一定の期間新薬の創出ができなかったメーカーについては、後発医薬品の使用が急速に進む市場の中で、事業の転換も迫られるのではないか」と指摘した。
研究開発の現場では、世界同時開発、グローバルスタディが主流となる中で、医薬品の研究開発費は高騰を続けてきた。欧米のメガファーマが資金力を背景に成長を続け、比較的規模の小さい内資系企業は、研究開発中止のリスクに耐えられない面もあった。改訂版・総合戦略では、こうした観点から「M&A等による事業規模の拡大も視野に入れるべきではないか」と指摘した。さらに、医療保険財政が厳しさを増す中で、研究開発費や市販後安全対策のコストは製薬企業に重くのしかかる。
◎臨床試験・市販後調査の効率化、低コスト化、迅速化を視野
こうした中で、厚労省はRWDの利活用による研究開発の効率化に向けて、舵を切った。具体的には、RWDの利活用による臨床試験・市販後調査の効率化、低コスト化、迅速化を視野に入れた施策を積極的に進める。
大型化が期待されるがんなどの領域では、個人のゲノム情報を基に診断・治療・予防を行う“プレシジョン・メディシン”などの取り組みを、すでに欧米先進国が進めている。ゲノム情報の一元的な集積、そしてその精度が重要になる中で、日本も“オールジャパン”のネットワークを構築し、環境整備を進める。がん、希少・難病性疾患、感染症、認知症の4疾患領域に重点を置き、臨床ゲノム情報のデータベースを構築する。
がんについては、全国の医療機関が参加した「がんゲノム医療コンソーシアム」を構築する。官民が協力して資本の拠出やインフラ整備を行い、患者にゲノム情報に基づく適切な治療などを提供する。なお、早ければ、がんに関連する遺伝子を複数同時に測定できる“遺伝子パネル検査“が承認される見通しだが、早期の承認・保険適用、さらには全ゲノム解析を保険外併用療法とすることなどを見据える。そのほか、クリニカル・イノベーション・ネットワークを構築し、治験や市販後安全対策などへの活用も視野に入れる。
◎RWD利活用で早期承認 薬事規制面でサポート
薬事規制面でも、製造販売後にRWDを活用して早期に承認を認める「条件付き早期承認制度」を導入する。革新的新薬を早期に上市することが可能になる。活用できるRWDの一例としては、10拠点、400万人規模の医療情報データベース「MID-NET」をあげた。2018年度から本格運用される同データベースの利活用により、効率的・高度な市販後安全対策の推進も視野に入れる。また、条件付き早期承認などでの承認が見込まれる革新的新薬については、安全性が確立されるまでの間、医療機関や患者要件を明確にする最適使用推進ガイドラインを策定することで、患者の安全性も担保する。
◎ベンチャー支援が創薬大国実現のカギ
革新的新薬の“シーズ”創出が期待される、ベンチャー支援にも力を入れる。創薬大国である米国では、新薬の多くがベンチャー由来と言われる一方で、日本国内では依然として少ない。資金確保が重要な課題となる中で、経産省と連携し、金融市場の環境整備を進める。また、省内に設置されたベンチャー等支援戦略室を旗振り役に、ベンチャー企業と製薬企業とのマッチングイベントの開催、知財や薬事等の専門人材バンクの設置なども行う。
そのほか、バイオシミラーについては、革新的なバイオ医薬品の製造販売を目指す“一里塚”に位置付けた。政府の骨太方針で、2020年度末までに品目倍増(成分数)が目標として明記される中で、バイオ医薬品の培養から品質評価まで全プロセスを国産化すること、国内CMO(医薬品製造受託機関)を育成することも盛り込んだ。また、バイオ医薬品に関する人材育成やPMDAの体制整備も進める。