厚労省保険局 先発品の償還価格を後発品の平均薬価に揃える制度を提案
公開日時 2017/05/18 03:52
厚生労働省保険局は5月17日の社会保障審議会医療保険部会に、先発品の償還価格を後発品の平均薬価に揃える制度の導入を提案した。具体的には、①先発品と後発医薬品の差額を患者負担とする、②患者負担にはせず、先発品の薬価を後発医薬品まで引き下げる-の2案。この日の社保審では、薬価の高止まりが起きることへの懸念や、保険財政上の影響がないことなどを理由に、いずれの案についても導入に慎重な意見が相次いだ。ただ、一部委員からは、後発医薬品80%目標のインセンティブの必要性などから、差額を患者負担とすることについて容認する声もあがった。
◎後発医薬品企業の競争促進へ 医薬品産業構造の転換は“継続的、段階的に”
社会保障財政が圧迫される中で、患者負担の軽減、医療保険財政の改善の両面から、後発医薬品の使用推進は必須だ。数量シェアは調剤メディアスで66.5%(2016年9月)まで伸長。17年央に設定された70%目標クリアは目前だ。一方で、医療従事者側から品質や安全性についての懸念が示されており、80%目標達成に向けてさらなるインセンティブの必要性も指摘されている。こうした中で、経済・財政再生計画の改革工程表に、後発医薬品を超える先発品の保険給付の在り方について、2017年度概算要求までに検討し、結論を得ることが盛り込まれた。これまでも数回、議題に浮上してきたが、制度導入は見送られてきた経緯がある。
この日、厚労省保険局は、「医療費の効率化を通じて、限られた医療資源の有効活用を図り、国民医療を守ること」が、後発医薬品推進の本来的な意義と説明した。昨年12月に4大臣で合意された「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」では、薬価の毎年改定を実現し、その上で製薬産業が長期収載品に依存するモデルからより高い創薬力を持つ産業構造に転換するよう提言された。こうした中で、ジェネリック産業の競争促進の一助となる制度も必要になる。一方で、先発メーカーは安全性情報の集積などを担っている。企業への影響を考慮し、「医薬品産業の構造転換は、継続的な方向性のもとで段階的に進めていく必要がある」とした。
後発医薬品の浸透が進む中での今回の提案に対し、社保審の委員からは、「水を差すような話だ」(日本薬剤師会・森昌平副会長)、「(保険者などの)取り組みの状況を考えて慎重に進める必要があるのではないか」(全国町村会・渡邊廣吉副会長/新潟県聖籠町長)、「医療機関、薬局、保険者が使用促進に向けた努力を行っているときに個人負担にかかわる、3割を超える負担をお願いすることが国民に納得を得られるかというと難しいのではないか」(健康保険組合連合会・白川修二副会長)など否定的な声が相次いだ。
◎差額を患者負担に 白川委員「財政的な効果はない」 容認する声も
差額を患者負担とする案については、先発品の使用を「選定療養」に位置づけ、後発品の薬価までを保険外併用療養費として給付する。類似薬をグルーピングし、償還上限価格を決める”参照価格”と似通った制度である。白川委員は、参照価格を導入したフランスやドイツの例から、薬剤費が短期的には減少するものの、長期的には不変または増加すると指摘。「日本で入れても財政的な効果はない」と指摘した。高齢者が増加する中で、所得格差が医療の格差となることに懸念を示す声もあがった。そのほか、森委員が「(安定供給が求められる中で)今より極めて高いレベルでの流通体制が求められ、コスト増になってしまう」可能性も指摘した。
一方で、一定の患者負担を求めることについて支持する声もあがった。日本商工会議所社会保障専門委員会の藤井隆太委員は、「一定程度の負担を患者に求めるのは仕方ない。基本的に賛成だ」と述べた。一方で、先発品の価格引下げについては、「インセンティブの低下、価格優位性の排除など製薬メーカー全体への影響が大きい。慎重な議論をお願いしたい」と述べた。
全国健康保険協会の小林剛理事長は、後発医薬品80%目標達成に向けて、「保険者の取組だけでは難しい。診療報酬や医療保険上で抜本的な改革が必要だ。導入に向けてハードルは高いが検討することが必要だ」との考えを表明。差額を患者負担とする方が、理解が得られるとした上で、「対象とする医薬品を限定するなどの配慮を行うことで、より丁寧な制度設計を行うことが必要」と述べた。
◎先発品の薬価引下げ案 薬価の高止まりの懸念も
先発品の薬価を後発医薬品まで引き下げる案については、短期的な効果は認められる一方で、中長期的な効果に疑問を示す声があがった。「ジェネリックメーカーが撤退し、競争原理が働かず、将来的には薬価が高止まりする」(日本薬剤師会・森副会長)、「価格差がないなら圧倒的に先発品が有利。財政的な効果がないわけではないが、健全な競争が保たれることも大事だ」(法政大学経済学部・菅原琢磨教授)などの声があがった。