薬価制度改革骨子 売上巨額の“特例再算定”対象のアバスチンは緩和措置検討へ
公開日時 2015/12/17 03:52
厚労省は12月16日、中医協薬価専門部会に年間販売額1000億円超の巨額の売上高の医薬品の薬価を引下げる「特例再算定」などを盛り込んだ次期薬価制度改革の骨子を提示した。特例再算定の対象には、C型肝炎治療薬のハーボニー配合錠、ソバルディに加え、抗がん剤・アバスチンなども対象品目の候補にあがっている。ただ、特例再算定の引き下げ幅をめぐっては、従来の市場拡大再算定でも引き下げ率の緩和措置が設けられており、今回の該当品目のアバスチンについて、その適応の可否について検討が行われる見通しだ。
特例再算定は、①年間販売額が1000億円を超え1500億円以下、かつ予想販売額の1.5倍以上の場合(最大25%の引き下げ)、②年間販売額が1500億円を超え、かつ予想販売額の1.3倍以上の場合(最大50%の引下げ)―が該当する。特例再算定の類似品については、特例対象品を根拠に算定された品目に限るとした。
特例再算定をめぐっては、対象候補品目をめぐり各所で議論が行われている。自民党議員の一部からアバスチンなど一部候補品を対象とすることに慎重な意見が聞かれた。その一方で改定財源との見合いから現在の候補品については全て対象とすべきとの意見もあり、なお予断を許さない。ただ、特例再算定の該当品目でも、通常の市場拡大再算定の下げ幅から大幅に下振れすることはないとの観測もある。今回の候補品であるアバスチンについては、補正加算の要件のひとつである「市販後に集積された調査成績により、真の臨床的有用性が直接的に検証されていると認められている場合」を満たし、引き下げ幅が縮小する可能性も高いとの見方も強まっている。
◎厚労省・大西経済課長「該当品目、引き下げ率を限定的に」 理解求める
この日の薬価専門部会では特例再算定をめぐり、診療側、支払い側双方から「イノベーションについては、新薬創出加算を議論してきた。アクセルだけではダメでブレーキが必要」(診療側・松原謙二委員・日本医師会副会長)、「国民皆保険を維持するための仕組みということで、是非飲みこんでいただきたい」(支払い側・幸野庄司委員・健康保険組合連合会理事)と支持する声が相次いだ。
これに対し、加茂谷佳明専門委員(塩野義製薬常務執行役員)は、「国民皆保険制度は、業界にとっても非常に大事で、死守しなければならない」とした上で、市場規模の拡大の事実だけで判断せずに“別枠ルールとしての例外的な運用”を改めて求めた。その上で、「例えば、薬価収載からかなりの年数を経過しているもの、あるいは過去に現行の市場拡大再算定が行われ、価格がリセットされたようなものなどに今般導入される特例再算定を適応することは、本制度導入の趣旨に合致していないのではないかと認識している」と理解を求めた。
厚生労働省医政局の大西友弘経済課長も、該当品目について「急激に市場が拡大する品目、長期にわたって市場で評価され売り上げを伸ばした品目、近い将来市場の減少が予測される品目も含めて要件に該当する品目はさまざまな薬剤がある」との見解を示した。その上で、「売れすぎた場合に軒並み算定ではなく、浸透状況や有用性を勘案いただき、イノベーションの阻害につながらない形で議論をお願いしたい」と述べた。引き下げ率が拡大することで、「仮に巨額に売れているということを割り引いても、企業への影響も非常に大きい。収益の柱になっている場合、大幅に引き下げると会社の経営に大きな影響を与えかねない部分もある」と指摘し、予見可能性、激変緩和の必要性を強調。「新規導入なので、制度の導入時期、対象品目、引き下げ率については、制度の趣旨も踏まえつつ、なるべく限定的なものとなりますよう検討いただきたい」と述べた。
◎新規後発医薬品 注射剤、外用薬も先発品の0.5掛けに
新規後発医薬品の薬価は、現行の先発品の0.6掛けから「0.5掛け(内用薬については銘柄数が10超の場合は0.4掛け)」に引き下げる。業界側は、注射薬や外用薬では、内用薬に比べかい離率が小さいとのデータを示し、内用薬以外については現行制度の維持を求めていた。この日の中医協には、2015年9月の薬価調査(2014年6月~15年6月)から、かい離率のデータを提示。内用薬の28.3%に対し、注射薬は28.0%で、かい離率に差はみられず、診療側から業界の主張に対する指摘があった。これに対し、加茂谷専門委員は「私自身も驚いている。かい離率の拡大は、市場競争が加速した結果ではないかと考えているが、後発医薬品の信頼性向上の妨げにもなりかねないものと非常に憂慮している。結果、示されたデータを深く重く受け止め、ジェネリック製薬協会が実態に基づかない提案をしてきたことについて、適切に対応するよう協会には申し伝える」と述べる一幕もあった。
後発医薬品の注射薬のかい離率は14年時点の13.8%から10ポイント以上拡大したことになる。背景には、収載品目の増加(14年:1成分→15年:7成分)に加え、市場競争の激化がある。特に、市場参入する企業が12社にまで膨らんだ、抗がん剤・オキサリプラチンの影響が大きいとみる声もある。高額薬剤であることから、市場実勢価格引き下げのインセンティブは大きく、こうしたことから市場競争が激化し、結果としてかい離率が拡大したとみられている。
そのほか、次期薬価制度改革の骨子には、新薬創出加算・適応外薬解消等促進加算の試行継続や、基礎的医薬品と先駆け審査指定加算の新設、後発医薬品に置き換わらない長期収載品に関する特例的な引き下げ(Z2)の引上げなどが盛り込まれた。