厚労省は12月4日の中医協総会で、“かかりつけ薬剤師”を包括的に評価する新たな点数の導入を提案した。一方で、大規模門前薬局の調剤基本料や一包化加算など調剤料を引き下げる。2016年度から3年間でこうした方向性を段階的に強め、薬局機能の転換をうながす。地域包括ケアの中で残薬や多剤投与を減らすなど医薬品の適正使用を推し進め、医療費の伸びの適正化につなげたい考えだ。焦点の改定財源については、調剤報酬の見直しだけでは100億円を切るとみられ、調剤報酬自体も大幅なマイナスとはならない見通し。予算編成も大詰めを迎えるが、財務・厚労両省の折衝は市場拡大再算定や巨額再算定など薬価制度改革への比重が高まっている。
調剤医療費7.2兆円のうち、技術料は1.8兆円。このうち、調剤基本料は5077億円と3割を占める。一方で、調剤料・製剤加算は9756億円で約6割を占める。財務省が財政審に示した提案通り調剤料を現行の半分の水準まで引き下げたと試算すると、損益差額は個人で約半分、法人では約1/4にまで低下する。店舗数でみれば、1店舗の薬局や2~5店舗の薬局では、損益差額三桁の大幅な赤字に転落する。6店舗以上では黒字を維持できるものの、損益差額は半分の水準にまで低下する。
一方、調剤基本料も、仮に特例引下げの範囲を財務省提案の提案(処方せん回数1200回以上で集中率70%以上、処方せん回数2500回で集中率50%以上)通りに拡大すると、店舗数によらず、400~500億円の減収となる。むしろ20店舗以上の薬局ではなく、1店舗の薬局では損益差額は300億円を超える大幅な赤字となると試算される。
こうした状況から、16年度改定だけで調剤報酬を深堀することに慎重論も示されている。今改定は小幅にとどめ、今後数回の改定を経て、かかりつけ薬剤師の職能の向上を目指しながら医療費全体の適正化を図るべきとの意見も見られるところだ。
◎かかりつけ薬剤師・薬局の職能発揮をうながす 調剤偏重、立地依存からの脱却を
厚労省が中医協総会に示した調剤報酬の見直し案は、これまでのモノと立地に依存し、調剤偏重と呼ばれた業務から脱却し、超高齢化社会の中で、かかりつけ薬剤師・薬局が職能を発揮するよう強く促す内容となっている。服薬情報の一元的・継続的把握や、在宅業務を“かかりつけ薬剤師”として手厚く評価する一方で、これまで収益を支えてきた調剤基本料や調剤料には切込みを入れる。
かかりつけ機能については、従来の基準調剤加算に加え、包括的な点数を新設する。医師と連携した服薬情報の一元的・継続的な管理、24時間対応・在宅対応を具体的な要件とする考えだ。
前回の14年改定では、かかりつけ機能の評価として、医科では地域包括診療料、地域包括加算が新設され、調剤では基準調剤体制加算の要件に24時間対応や在宅訪問などの要件が盛り込まれた。今回の改定では、この方向性をさらに強め、調剤版の地域包括診療料の新設や基準調剤加算の要件追加などを盛り込んだ。基準調剤加算の要件は、24時間対応や在宅訪問を実績ベースに見直すほか、休日・夜間対応など開局時間や相談時のプライバシーの配慮などを追加する。そのほか、“かかりつけ薬剤師”が勤務することの重要性を強調し、「一定時間以上勤務する薬剤師」がいることを要件に追加することも提案した。
◎残薬確認と調整を行う“ブラウンバッグ”を評価 調剤後の継続的管理を
服用薬の一元的・継続的管理については、残薬や重複投与の防止、薬剤服用歴管理指導料の見直しを提案した。
残薬を評価する仕組みとしては、患者に残薬を保険薬局に持ってきてもらい、残薬確認と調整を行う“ブラウンバッグ”を評価する点数の新設を打ち出した。福岡市や鹿児島県で実施され、薬剤費の削減効果が認められており、全国的な普及を目指す。これまでの調剤業務は、主に処方せんを受け取り調剤した薬剤を患者に渡すところまでだったが、調剤後の服薬管理・指導の評価を手厚くすることになる。これまでの病院完結型から在宅へとシフトする中で、薬剤師が調剤後まで視野に入れた継続的な服薬状況の把握・管理をすることで、残薬の解消につなげたい考えだ。
重複投与の防止では、「重複投薬・相互作用防止加算」の算定率が1%にも満たないことから要件を緩和し、浸透を進める考えだ。過去の副作用歴やアレルギーなどによる処方変更、同一医療機関などからの処方せんに基づく疑義照会について現行ルールでは算定できないが、要件を緩和する。
◎電子版のお薬手帳も紙媒体と同様の点数に
そのほか、薬剤服用歴管理指導料は、お薬手帳発行後、2回目以降の点数を低く設定する。日本薬剤師会などがすすめる電子版のお薬手帳も紙媒体と同様の点数とすることも盛り込んだ。
一方で、これまでインセンティブの高かった調剤基本料や調剤料は見直す。特に、大規模門前薬局の調剤基本料については、今後段階的に引下げの範囲を拡大する。現行ルールでは、集中率70%以上で処方せん回数月4000回以上、集中率90%以上で処方せん回数月2500回以上の薬局を特例として基本料を引き下げていた(41点→25点)が、この範囲が拡大される。特例除外とされていた24時間開局薬局も引き下げの対象とする。20店舗以上など店舗数の多い薬局や特定の医療機関から処方せんを多く受け付けている薬局、医療モールなど特定の医療機関との関係性が深いとみなされる薬局などについては引下げを検討する。そのほか、投与日数に応じて増加してきた調剤料や一包化加算の仕組みを見直すことも盛り込んだ。
診療側の安部好弘委員(日本薬剤師会常務理事)は財政審の建議について、「内容は非現実的で、乱暴なものと言わざるを得ない。薬局の廃業、倒産に結びつく内容であることは明らか。地域包括ケアの薬局推進に取り組む前に小規模薬局から消滅してしまい、ひいては地域医療提供体制が崩壊する」と述べ、急激な政策転換ではなく、複数回にわたる段階的な施策の実施を求めた。
その上で、「地域の薬局薬剤師が地域包括ケアシステムの一員として顔の見える関係として、24時間対応、在宅対応、医療機関との連携を発揮する方向に着実に進んでいく」と述べ、日本薬剤師会としてかかりつけ薬剤師、薬局を浸透させる決意を示した。