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地域包括ケア時代の新マルチチャネル戦略考

公開日時 2015/06/30 00:00

マルチチャネル3.0研究所
主宰 佐藤 正晃

 

2013年10月から2014年5月まで「マルチチャネル・マーケティング入門」を寄稿させて頂いた。このたびミクス編集部のご厚意により「MC3.0時代到来」の連載を開始する事になった。今回の連載は製薬マルチチャネルの現状とあるべき姿を描きたいと考えている。テーマとしては地域包括ケアにおけるMRの役割を中心に製薬企業に何を規定しているのか?をユーザ側のインタビュー等を交えながら検証する。

 

マルチチャネル・マーケティング入門を振り返る

 

マルチチャネル・マーケティングとは非常に簡単に言うと、「企業が届けたい情報を顧客の望むチャネルで伝える為の仕組みと実行」である。結果、伝える側と受け取る方がWin-Winの関係になり、情報が正しく効果的に伝わる。製薬企業は各社マルチチャネル部門も新設しチャネルの活用を進めてきている。

 

企業の想い(ビジネス上の成果)とユーザの想い(ニーズの達成)を念頭に置きながらマルチチャネル戦略の立案・実行しなければならない。その為には「顧客環境の理解」、「チャネル毎の特性の理解」、「チャネルミックス戦略の推進」が必要不可欠であると提言してきた。製薬企業の置かれている立場としては政府の医療費削減策に共ない、薬価の引き下げ、ジェネリック品の数量シェア80%目標等の外的環境の変化。内的要因としては、新薬開発コストの高騰、マーケティング・営業コストのカットがあげられる。大幅な人員削減に踏み切る企業も少なくなく、各社と現状を打破するために頭を悩めている。

 

同時にコミュニケーション戦略の重要性も連載の中で何度も触れてきた。どんなに素晴らしいメッセージや発言をしても相手がそれを聞く準備ができていなければ、その内容は意味を成さなくなるという事である。

 

これまでのブロックバスター製品のマーケティング戦略は、街角のサンドイッチマン広告と考えてられる、製品の内容が容易に想像につき、製品毎の差別化がないプロダクトの場合にはSOVは一定の有効な戦略であるが、昨今希少疾患や癌等スペシャリティ製品が中心の市場で尚且つ訪問規制等による接触時間の減少がある昨今の環境においては、製品連呼の営業では意味を成さず、製品に対する深い造詣並びに効果的なメッセージ発信は重要なのはミクスの読者なら理解されていると思う。一方でMRはメッセージの内容を本社部門から厳格に指示をされているために、独自のパーソナリティを発揮する機会は少なくなってきている。

 

現場の臨機応変に活動を変えなければならないMRと本社マーケティング部門はどのようにシンクロできるのか?ディテールするシチュエーションはその時々で変わる。午前午後、診療の前後、勉強会、学会、懇親会等全てのタイミングでどのように話をして何を伝えればよいのか、前回ディテールからの継続か新規アプローチか新薬か長期収載品か等、様々なパーツを組み合わせなければならない。本社マーケティング部門への相談や営業所内でのベストプラクティスをチーム内で共有することは一つ有効ではあるが、完全一致型の環境は存在しない故に各MRが自分の置かれている環境を各々が理解し臨機応変に活動しなければならない。コミュニケーション戦略の最初のステップは、相手の状況を注意深く観測することから始まる。そして、その理解が進んだうえで適切なチャネルを設定し実行、そしてその結果をフィードバックすることは大変重要である。そのためのチャネルの理解であり、活用であるので、様々なチャネルに振り回されるのではなく、「情報のキャッチボール」を軸に活動を考えていくべきだと考える。

 

一方、本社マーケティン部門はMRの状況を理解しながらも、製品プロモーションの重圧もありトップダウン型のメッセージ伝達に終始している事例をよく耳にすることがある。

 

トップダウンの戦略スタイルは例えば創業メンバーが中心となるベンチャー企業などでは十分効果を発揮する。製薬企業に例えてみる。新薬上市のタイミングでは情報量が少なく、医師も情報を欲しているだけに、本社からの効果的なメッセージが重要である。しかし、新しい情報に頼った製品マーケティングの施策では、情報が枯渇した場合には同一メッセージの連呼する施策になってしまう。このタイミングがトップダウンの戦略からかオーケストレーション戦略に変化するタイミングではないだろうか。そのためには現場の声を定期的に収集できる場の設定や簡易なコミュニケーション手段の確立が必要である。まさにSNS全盛の時代であれば、MRからフィードバックされる現場の声を分析し、集約するデータの分析が必要である。特にSFA(日報・顧客管理)は入力の簡易化等はかかられているがその活用に関してはまだまだ有効活用されていないことも重要視しなければならない。

 

 

MC3.0研究所設立

 

様々な環境変化に伴い、顧客の状況に対応したマルチチャネの戦略が必要とされる中で製薬各社「製品軸」「顧客軸」での販促活動を行っている。現在私は製薬企業から一歩外に飛び出して、マルチチャネルの戦略立案と実行に関する研究と企業への展開を実践しベストプラクティスを構築する立場で活動を行っている。同時に、2025年には日本の高齢化がピークを迎え、医療費高騰などの様々な社会問題に対し、製薬会社の立場を「再定義」する必要性を強く感じている。このため有志で「MC3.0研究所」を開設することにした。
創設の趣旨としては「地域医療における製薬会社の役割の定義と活動スタイルを定義する。これにより製薬企業の新たなる事業モデルを構築し地域社会並びに患者や医師をはじめとする医療関係者へのタッチポイント増大に向けたMRを中心とするマルチチャネル活用の検討と実践を行う研究機関」とした。これまでのブロックバスター中心の製品中心のマーケティングから、マルチチャネルを駆使して顧客に対応したマーケティングとなる現在、そしてこれからまさに始まる地域医療推進における製薬の事業の活用モデルに関して、様々なキーパーソンとディスカッションしながら論じたいと考えている。

 

 

地域医療と製薬企業

 

厚生労働省は今年4月地域医療連携推進法人制度の創設を国会に提出した。この法案により地域に存在する複数の医療法人とその他の非営利法人の連携組織が一般社団法人としての設立が可能になった。業務内容は、(1)統一的な連携推進方針(医療機能の分化の方針、各医療機関の連携の方針等)の決定。(2)病床再編(病床数の融通)、患者情報の一元化、キャリアパスの構築、医師・看護師等の共同研修、医療機器等の共同利用、病院開設、資金貸付等。(3)関連事業を行う株式会社(医薬品の共同購入等)を保有できる、となっている。

 

今回の法人設立の国会への提出は、これまで各医療機関で対応するMRのモデルを一変させだけではなく、製薬企 業が医療業界の中で日本の少子高齢化問題の中でどのように貢献できるか、そして製薬企業が果たすべきミッションは何か?を問われることになると感じている。

 

本社部門もKOLのサポートに加えて、その地域はどのような人口動態で疾病の傾向に加えて、患者の急性期、回復期、在宅の流れの特徴を知りアクションをするか否か、を判断しなくてはならない。実施には全国に散らばるMRを活用させてなければならないために、これまでのディテールの時間をどうするのか、はたまた別の組織を作る必要があるのか、等早急に議論しなければならない。また、加えてこのような医療産業業態の変化の中でそれぞれのステークホルダーは何を考え、そして製薬企業に何を求めているのかを明らかにする必要がある。これまでの製薬企業のイノベーションは新薬を中心に動いていて、その部分は現在もゆるぎないのは私も同感であるしかし、コトラー氏の言葉を借りると「偉大な先進的技術は研究所で生まれ、偉大なプロダクトはマーケティングで生まれる」、まさに現在の医療産業が求めるニーズに対応できないマーケティングモデルは市場に浸透されるプロダクトにならないのである。

 

地域医療連携推進法人制度の創設には地方創生の取り組みも記述されている。現在の大都市一極集中の経済モデルの転換期として、地域活性や道州制の導入などといった議論が行われてきたが、今の所大都市と地方都市の経済格差は激しい、一例にとれば佐賀県佐賀市の平均年収は289万円に対して東京都渋谷区は608万と倍以上の違いがある。経済的な格差が進むと医療の格差も広がる、経済的な格差をなくすために地域での税制優遇などのインセンティブで企業誘致をメインとしての地域産業特区の展開やUターン支援やIターン支援が行われてきた地方都市の高齢化のスピードが高い地域の医療格差是正の対策として、複数の医療機関が集まって病床数を連携機関で調整し在宅医療を推進するための取り組みは重要である。私は、地域医療連携推進法人制度は地方創生を目指すまちづくりにも影響を及ぼすと考えている。さあ、果たしてこれから「まちづくりと地域医療」が製薬企業のアプローチ検討先に挙がってくるのか、いやまずは最初に地域医療の中で存在価値を高めるには何から手を付けるべきか?当研究所は連載と並行して探求してゆく。

 


マルチチャネル3.0研究所とは:(MC3.0研究所)
「地域医療における製薬会社の役割の定義と活動スタイルを定義することを目的にして、製薬企業の新たなる事業モデルを構築し地域社会並びに患者や医師をはじめとする医療関係者へのタッチポイント増大に向けたMRを中心とするマルチチャネル活用の検討と実践を行う研究機関」である。設立2015年4月主宰 佐藤正晃

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