ディオバン問題 慈恵医大Jikei Heart Study最終報告で研究者の恣意性指摘 望月元教授を処分
公開日時 2014/12/15 03:52
ノバルティスファーマの降圧薬・ディオバン(一般名:バルサルタン)の臨床研究不正をめぐり、東京慈恵医大は12月12日、「Jikei Heart Study」に関する最終報告をまとめ、追加調査の結果、主任研究者の望月正武元教授のイベント報告に恣意性があった可能性を認め、「研究統括責任者としての責任は大きい」と責任者側の責任を問うた。データ改ざんや統計解析者の任命、管理責任など一貫して、“研究者側の責任は問えない”とした中間報告を翻した。同大は、主任研究者であった望月正武教授の客員教授を取り消すとともに、論文作成に関与した主たる教員に厳重注意を行った。また、理事長、学長は給与をそれぞれ20%、10%、3か月間自主返上するとした。
最終報告は、2013年7月の中間報告以降、研究最終時期に近いデータを新たに入手して実施した追加解析を踏まえたものとなった。
論文作成に用いられたとみられる大学側の保有データでは、主要評価項目(脳卒中、狭心症、心不全、解離性大動脈瘤)について望月元教授が報告したイベント数は、ディオバン群9件、非ディオバン群90件と大きな偏りがみられた。非ディオバン群のイベントについては、39人の医師が運営委員としてかかわった研究全体で報告された非ディオバン群のイベント数の半数を一人で報告したことになる。
一方で、望月元教授が報告したイベントを除くと、ディオバン群、非ディオバン群のイベント数はともに84件で、両群間に有意差は認められなかった。同研究が掲載されたLANCET(すでに撤回)では、ディオバン投与群で非投与群に比べ、有意な脳卒中、狭心症、心不全、解離性大動脈瘤の減少が認められたと結論づけられていたが、望月教授の報告したイベントを除くと、「両群のイベント数に差はなく、この結果からはLANCET論文の結論は導けないことになる」と指摘した。
なお、試験最終時期に近い2006年1月時点のデータでも、医師側から報告のあったイベント833件(バルサルタン群:229件、非バルサルタン群:604件)を医師別にみた結果、望月元教授は非バルサルタン群に約70%で、偏りがみられた。他の医師のイベント報告はバルサルタン群47%、非バルサルタン群53%だった。通常、報告されたイベントは、第三者で構成されたエンドポイント委員会で審査、採否を決定するが、この審査過程については資料が残っていないとした。
望月元教授は、「自分としては、最終的なイベント採択の権限はエンドポイント委員会にあるので、イベントと思われる症状があった場合はすべて提出しただけ。偏っていると言われても思い当たることは何もない」と主張していることも最終報告には明記された。
その上で、「捏造、虚偽報告があったと断定はできないものの、定義・条件を十分に満たさないイベント報告が非バルサルタン群に多く見られたことは、割り付け群を各医師が知っているというPROBE法の特性が影響を及ぼした結果と考えざるを得ない」と研究者側の恣意性を指摘。「研究を統括し、厳粛に研究を指導する立場にあるべき研究統括責任者が研究計画作成時以降に曖昧な報告基準を検証せず、多くの報告をした事実は、エンドポイント委員会が採択の判定を判断すると考えていたとしても問題であったと考える」とした。ただ、最終的な認定、データ管理、統計解析の過程で第三者が関与できることから、意図的操作がなされた可能性も言及した。
◎試験の運営・情報管理の統括的責任を問う
同研究の統計解析担当者が元ノバルティスファーマ社員の白橋伸雄被告が務めていたことについても、「(白橋被告への)依存度が高く、各種委員会の運営、人員確保及び情報管理等において、研究計画に沿った統括的責任を果たせていなかったと判断した」とした。また、白橋被告がエンドポイント委員会に出席していたことを知っているにもかかわらず、統計解析を任せていた。PROBE法ではこうした状況では恣意性が働く可能性が否めず、「重要な問題」と指摘し、研究計画の不備・遂行過程の管理不足の主任研究者側の責任を指摘した。
2013年7月に開かれた中間報告の会見で、調査委員会の橋本和弘委員長は、「統計解析は、この試験に限らないが、独立したところで実施するのがほぼルール。統計解析については、(同大研究者の)責任は問えない」と一貫して研究者側の管理責任を問えないと繰り返していた。
ただし、白橋被告のデータ解析の関与については、論文のドラフトに対し、コメントしている資料などから、最終報告でも「データ解析に関与した事実を認めるに足りうる証拠資料が多数存在している」とし、「供述は全体として信用できない」としている。