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弱者でも、強者の弱点を徹底的に衝けば、必ず勝てる

公開日時 2014/11/17 05:00

情熱的読書人間・榎戸 誠

 

【思い込み】

私たちは、強敵にはどうやっても勝てっこない、逆境からはそう簡単に這い出せっこないと思い込んでいるが、それは明らかな間違いだと、『逆転!――強敵や逆境に勝てる秘密』(マルコム・グラッドウェル著、藤井留美訳、講談社)が断言している。

「弱小チームが勝つには――相手と同じ戦略で戦う必要はない」、「貧しい家の子が勝つには――裕福な家庭の子にハングリー精神は宿るか」、「二流大学が勝つには――『そこそこの大学の優等生』と『一流大学のそこそこの学生』はどちらが有望か」、「識字障害者(ディスレクシア)が勝つには――逆境を逆手にとる戦略」、「親に先立たれた子が勝つには――不幸な体験がリモートミス(距離的にごく近い所で起こる危険を意味する「ニアミス」の対義語で、距離的に遠い所で起こる危険のこと)に変わるとき」、「マイノリティの人種・民族が勝つには――公民権運動とトリックスターの関係」、「精鋭の治安部隊に勝つには――正統性なき統治が失敗する理由」、「突然の悲劇に勝つには――『アメリカ史上最も壮大な刑法運用実験』の盲点」、「自分の運命に勝つには――ナチスに抵抗をつづけたある牧師の生涯」のそれぞれで、実在の人物がいかに戦い、勝利したかが、テンポよく、そして豊富なデータを用いて紹介されているので、あなたも思わず頷いてしまうことだろう。

 

【強者にも弱点】

「ふつうの人間が巨人と戦うにはどうすればいいか――それがこの本のテーマだ。『巨人』とは圧倒的に強い敵のこと。軍隊や戦士だけでなく、障害、不運、抑圧といったことも含まれる。・・・二つのことを掘りさげていきたい。ひとつは、圧倒的に不利な状況に置かれながらも、あえて戦う道を選ぶ姿は美しく、崇高だということ。勝ち目のない戦いに挑む精神は尊い。そこから扉が開かれて、新しい歴史や価値がつくられる。そしてもうひとつは、どんなに強くて大きい巨人も、かならずどこかに致命的な弱点を持っているということだ。だが現実には、巨人の迫力に圧倒され、戦わずして逃げだす人がほとんどだろう。そんな人たちが一歩前に踏みだすために、的確な指南書を用意したい。そんな願いを込めたのがこの本だ」。著者は、どんな強者にも弱点はある、そこを衝けと言っているのだ。

 

【最も有名な決闘】

旧約聖書の時代、建国したばかりのイスラエル王国が、好戦的なペリシテ人の軍勢を迎え撃つことになった。膠着状態に痺れを切らしたペリシテ軍は、一人の屈強な兵士を最前線に送り出す。「彼は身の丈2メートルを超える大男で、青銅のかぶとと甲冑をまとい、槍と剣を手にしていた。大きな楯を構えた別の兵士がその前を歩いている。巨漢の兵士はイスラエル軍の前に立ちはだかり、大音声で叫んだ。『誰かひとり出てきて、俺と対決しろ! 俺を負かしたら、全員奴隷になってやる。だが俺がそいつを倒したら、おまえたちが奴隷になれ』」。

「イスラエル軍の陣営は誰ひとり動こうとしなかった。あんな恐ろしい大男に勝てるわけがない。とそのとき、羊飼いの少年が名乗りをあげた。少年は、前線にいる兄たちに食べ物を届けるためにベツレヘムから来たところだった。サウル王は『おまえはまだ子どもではないか。あのペリシテ人は百戦錬磨の戦士だ。とうていかなわない』と難色を示す。それでも少年の意志は固い。『ライオンや熊に羊をさらわれたときも、私はあとを追いかけて猛獣を倒し、羊を取りかえしました』。そこまで言われると、サウル王も承諾しないわけにいかなかった。羊飼いは谷底へとおりていく。待ちかまえるペリシテ人は叫んだ。『かかってこい。おまえの肉を天の鳥や地の獣の餌にしてくれるわ』。こうして史上最も有名な決闘が幕を開けた。ペリシテ人の大男の名前はゴリアテ。羊飼いの名前はダビデだった」。

ダビデの身支度は、丸石を5個拾って肩から下げた袋に詰め、羊飼いの杖を携えただけであった。しかし、ここから伝説が始まる。ダビデが革製の投石器から放った石は、ゴリアテの無防備な額に命中する。不意を衝かれたゴリアテは、その場にどうっと倒れる。すかさずダビデは駆け寄ってゴリアテの剣を奪い、一振りで巨人の首を刎ねる。「ペリシテ軍は、自分たちの勇士が殺されたのを見て、逃げ出した」とサムエル記に記されている。

 

【巨人と戦うときの教訓】

どう見ても勝ち目のない弱者が、戦いで奇跡的な勝利を収めるには、どうすればいいのか。当時の一騎打ちは手にした剣や槍で戦うものであったが、ダビデ本人は、決闘の決まり事に従うつもりはさらさらなかったのである。「ダビデはゴリアテに向かって走りだした。重たい鎧を着けていないおかげで、身軽に動くことができたのだ。そして投石器の袋に石を入れ、ぐるぐると振りまわす。その速さが1秒に6~7回転に達したところで、ゴリアテの唯一の弱点である額めがけて石を発射した。・・・額に命中すれば頭蓋骨にめり込み、即死か意識不明だ」。

「サウル王が勝ち目はないと考えたのは、ダビデが小柄で、ゴリアテが巨人だったから。つまり腕力のあるほうが強いと信じて疑わなかった。だが力は腕力だけではない。常識をつくがえし、すばやく意表を突くことも大きな力になりうる」。

「どんなに強そうでも、見た目ほど強いとはかぎらない――これはあらゆる巨人と戦うときに役だつ大切な教訓だ」。ダビデは、投石術を鍛えてきたという自信に支えられ、勇気と信仰を原動力として、ゴリアテに立ち向かっていったのである。

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