武蔵野赤十字病院の泉副院長 C肝治療でIFNフリーは慎重な選択を 耐性ウイルスリスクを指摘
公開日時 2014/10/03 03:52
武蔵野赤十字病院の泉並木副院長(写真)は10月1日、ヤンセンファーマが開催した「C型慢性肝炎メディアセミナー」で講演し、インターフェロン(IFN)を併用せず経口薬のみで治療するIFNフリー療法について、「ウイルスを直接標的としているため、薬剤耐性を獲得した場合のリスクが大きい」と指摘し、現時点では抗ウイルス薬とIFNの組み合わせによる3剤併用療法が第一選択であると強調した。IFNには全身倦怠感などの副作用があることから、IFNフリー療法に患者の期待感が独り歩きしている現状も紹介し、治療への正しい理解が必要との見方も示した。
C型肝炎ウイルス(HCV)のうち、日本では従来の標準療法が奏功しにくいゲノタイプ1型の患者が7割を占め、この患者群に有効な新薬の登場が望まれていた。そうした中、2013年12月にヤンセンがプロテアーゼ阻害薬ソブリアード(一般名:シメプレビル)を発売。Peg-IFNとリバビリンによる3剤を24週間併用することで9割の奏効率が見込めるようになった。さらに、14年9月にはブリストル・マイヤーズがNS5A阻害薬ダクルインザ(ダクラタスビル塩酸塩)とNS3/4Aプロテアーゼ阻害薬スンベプラ(アスナプレビル)を発売。これらの登場で、経口薬2種類による国内初のIFNフリー療法が実現した。適応は▽IFN治療に不適格な未治療/不耐容の患者▽IFNを含む治療無効例で、治験では約85%の奏効率が確認されている。
日本肝臓学会は、新薬の登場を受けてC型肝炎治療ガイドライン(GL)を9月に改訂。ゲノタイプ1型C型肝炎の初回治療における第一選択はソブリアードを含む3剤併用療法と明記した上で、IFN不適格例で発がんリスクの高い高齢者や線維化進展例に限ってダクルインザ/スンベプラ併用療法を推奨した。IFN不適格例でも発がんリスクが低~中程度の場合は治療待機も念頭に慎重に判断することとしている。
泉副院長は近年の相次ぐ新薬登場について、「(C肝治療で)9割前後の奏効率が見込めるようになった」と期待を寄せたが、一方で、副作用を伴う注射治療であるIFNが不要になると誤解している患者が多い点も指摘した。同副院長は、IFN治療では長期的にがんの発症を抑制する効果が実証されてきたが、抗ウイルス薬のみの長期成績はまだ確立されていないとし、直接ウイルスを叩く抗ウイルス剤と全身の免疫力を高め抗ウイルス剤の作用を後押しするIFNの併用は「理にかなっている」と強調した。
さらに、NS5A阻害薬では耐性ウイルス保有率が2割弱と報告されており、この耐性ウイルスを持つ患者に用いた場合は治療効果が見込めないばかりか、その後の治療選択肢が狭まり、耐性ウイルスが増強するリスクがあると問題提起した。この点を考慮し、GLでは「治療前にHCV NS5A領域(Y93/L31)の遺伝子変異を確認し、変異があれば治療待機を考慮する」と明記されている。
◎抗HCV新薬は今後も相次ぎ登場
ゲノタイプ1型C型肝炎については今後も新薬の登場が相次ぐ。MSDは新しいプロテアーゼ阻害薬バニプレビルの承認を9月に取得した。年内にも発売となる見込みだ。ソブリアードと同じ薬効群で、治療レジメンもIFNを含む3剤併用療法となる。泉副院長は「治験内容を見る限りソブリアードと同様の成績」と述べ、今後GLでの位置づけについても検討する方針を示した。
このほかブリストル・マイヤーズは、9月に発売したダクルインザ/スンベプラの併用療法について未治療や前治療再燃例での適応追加申請を発売と同時期に行った。また、ギリアド・サイエンシズもIFNフリー治療となるNS5A阻害薬レジパスビル/NS5Bポリメラーゼ阻害薬(核酸型)ソホスブビルの配合錠を9月に申請している。この配合錠の国内P3にも未治療患者が含まれており、100%の奏効率が示された。泉副院長は講演の中で、これまでソホスブビルの耐性ウイルスの報告がない点を評価し、期待を寄せた。ただし、IFNフリー治療の対象患者が広がっていく流れについては、将来的な耐性ウイルスリスクの懸念があることから、現時点では慎重な姿勢を示した。