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EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん初回治療のEGFR-TKIは2剤に

公開日時 2013/07/05 05:00

東北大・井上氏「初回治療はゲフィチニブを選択」

 

EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の登場により、治療効果が大きく向上したEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)。6月14日には、エルロチニブが「EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な再発・進行性で、がん化学療法未治療の非小細胞肺がん」の適応追加を取得。NSCLCの初回治療として、ゲフィチニブに続く選択肢となった。今後さらなる治療選択肢が増加される中にあって、どの薬剤を初回治療に用いるべきか。東北大学病院臨床試験推進センター特任准教授の井上彰氏に、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの初回治療としてどの薬剤を選択すべきか、を中心にお話をうかがった。

 

 

――EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの初回治療は、EGFR-TKI、プラチナ併用化学療法、どちらが標準療法とお考えですか?

 

井上氏:私個人は、初回治療として、EGFR-TKIを用い、効果が減弱した場合には、二次治療としてプラチナ併用化学療法を行っています。初回治療としてEGFR-TKIを選択するのは有効性が高いこと、さらに副作用も比較的軽度で、重篤な毒性の発現率も低いことが挙げられます。

肺がん治療は、2004年にEGFR遺伝子変異が発見されるまでは、どんな組織型であっても、プラチナ併用化学療法が初回標準治療とされてきました。その後、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの初回治療としてのEGFR-TKIの有効性は、NEJ002(カルボプラチン+パクリタキセルとの比較)やWJTOG3405(シスプラチン+ドセタキセルとの比較)など、日本を中心に臨床試験で検討され、また有用性が明確になってきました。

 このような結果を受け、欧米では当然のようにEGFR-TKIが初回治療として用いられるようになりました。しかし、日本や韓国では、依然として、EGFR-TKIとプラチナ併用化学療法どちらを先に行うか、議論になることも少なくありません。最初に少々辛い治療を行ってでも、後に楽で良い薬を残しておきたい…と思うような、我慢強い国民性が影響しているのかもしれません。

医師の立場では、EGFR-TKIとプラチナ併用化学療法の2つの治療法を行うことが理想ですが、治療がその通りに進まないことも少なからずあります。実際、初回治療としてEGFR-TKI・ゲフィチニブを選択した患者の3割は、プラチナ併用化学療法を行うことができません。初回治療として、プラチナ併用化学療法を推奨する医師は、この点を問題視する方も多いかと思います。

一方で、EGFR-TKIを初回治療として選択する立場から考えますと、果たして2つの治療法を行うことが本当にベネフィットにつながるかどうか結論は出ていないとも言えます。実際NEJ002やWJTOG3405の生存曲線を見ても、薬剤を変更できない患者も含めて治療成績に大きな違いはありません。EGFR遺伝子変異陽性NSCLCについては、EGFR-TKIでの治療が十分にできれば、プラチナ併用化学療法が必要ない患者もいるかもしれない。プラチナ併用化学療法ができないことよりも、一番治療効果の高いEGFR-TKIを投与できないことを重く受け止めて考えています。

 

 

――現在、日本の臨床現場では、EGFR-TKIとして、ゲフィチニブとエルロチニブの2剤を用いることができます。2剤の使い分けについては、どのようにお考えですか?

 

井上氏:私自身は、一次治療はゲフィチニブを選択しています。エルロチニブを投与する場合は、ゲフィチニブ投与中に脳転移を認めた場合です。エルロチニブの方が理論的には薬物濃度が高いことなどから、脳転移症例ではエルロチニブも良い選択肢だと考えています。また、EGFR遺伝子変異陰性例では化学療法後の三次治療の選択肢としても有用だと考えています。

ゲフィチニブの長所は、エビデンスが豊富な点です。化学療法との比較のほか、高齢者や全身状態(PS)不良例など化学療法が行えない症例でのエビデンスも十分に構築されています。使い勝手も良いですが、それを裏付ける科学的な根拠があることが重要だと考えています。そのため、一次治療ではゲフィチニブを選択しています。

エルロチニブは、理論上薬物濃度が高く、有効性についても若干高く見えることから、より有用との考えもありますが、PS不良例などでのエビデンスがまだ十分に構築されていません。L858R点変異陽性例に対しては2剤の有効性が異なるとの研究もありますが、臨床現場で薬剤選択を行う根拠とするほどの十分なエビデンスではないと考えています。これまでのエビデンスから、現段階ではまだスタンスを変える必要はないと考えています。

現在進行中の臨床試験「WJTOG5108L」では、進行再発肺腺がんの二次治療以降の治療として、2剤を直接比較し、無増悪生存期間(PFS)について、ゲフィチニブの非劣性を示すことを目的とされており、この試験の結果が待たれるところです。

 

 

―EGFR-TKIからプラチナ併用化学療法への切り替えのタイミングについてはどのようにお考えですか?

 

井上氏:もちろん進行(PD)となった時なのですが、このPDをいかに判断すべきか、ということも議論のあるところです。RECIST基準では、最も腫瘍が小さくなった時を起点に考えますが、実臨床でミリ(mm)単位で大きくなった時を切り替え時と考えるべきか、と問われれば、そこまで厳密でなくてもよいと考えています。
例えば、腫瘍径が1.5cm程度であれば治療を継続し、3cmくらいまで増殖すれば治療法を切り替える、などとしています。患者さんもEGFR-TKIでの治療の方が、肉体的な負担が少ないということで、必要以上に長く投与が続けられてしまうケースもありますが、適切なタイミングで切り替えることも重要です。特に若年者で、次の治療ができる症例で、医師が躊躇し、治療のタイミングを失ってしまうのは避けなければなりません。ただ、80歳以上など高齢者では、患者さんの方が次の治療を要望しないケースもあります。

 

◎耐性後の治療確立、生存期間の延長が課題に

 

――EGFR-TKIでの治療における課題とは。

 

井上氏:一番の課題は、耐性後の治療だと思います。最近になって、EGFR-TKIでの治療を行っているにもかかわらずPDとなってしまった後、新たな化学療法を併用したうえでEGFR-TKIによる治療を継続する戦略も注目されています(beyond PD)。

beyond PDは、大腸がんでのアバスチンなど一部ではエビデンスも構築されていますが、肺がん領域では、まだ概念的な説に過ぎません。今後、臨床試験などでさらなる検討が必要だと考えています。

また、PD後にEGFR-TKIを再投与する治療戦略の有効性も検討されています。実地医療では、beyond PDに比べ、フレキシブルに行われており、例えばEGFR-TKIのゲフィチニブを初回治療で用い、PDとなった後にエルロチニブを投与し、効果がみられることも少なからずあります。

 

 

――現在のEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者の治療における課題と今後の方向性についてお考えをお聞かせください。

 

井上氏:EGFR変異陽性肺がんの生存期間が延長したといってもまだ中央値で3年程度に過ぎません。今後は、さらなる治療成績向上を目指した治療法の確立も重要です。NEJグループでは、初回治療として、ゲフィチニブとプラチナ併用化学療法を同時に施行することの有用性を検証する第3相試験NEJ009も現在患者登録を進めているところです。試験は、EGFR遺伝子変異陽性進行NSCLCで、化学療法を施行されていない患者を対象に、試験治療群としてゲフィチニブ+カルボプラチン+ペメトレキセドを同時併用(ペメトレキセド投与は、維持療法までも含む)、対照群としてゲフィチニブ→PD後にプラチナ併用化学療法に切り替え――の2群に無作為化し、主要評価項目として全生存期間の優越性を検証します。

また、個別化医療の推進においては、有用なバイオマーカーをもれなく検査するために、1つのサンプルから網羅的な遺伝子解析ができるような次世代シークエンサーを用いた検査法が普及すべきだと考えています。実地でも広く活用できるよう、コストパフォーマンスも良く、簡便な方法である点も重要です。このようなデータもNEJグループから今後発信できれば、と考えています。

 

――ありがとうございました。

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