【日本血液学会学術集会 】65歳以上の高齢者におけるL-AMBの安全性を検討
公開日時 2013/01/08 03:00
化学療法や造血幹細胞移植を施行した高齢血液悪性腫瘍患者
第74回日本血液学会学術集会
2012年10月19〜21日
化学療法や造血幹細胞移植を施行した65歳以上の血液悪性腫瘍患者で真菌感染症の発症または発症が疑われた症例に、抗真菌薬アムホテリシンBリポソーム製剤(製品名:アムビゾーム、以下L-AMB)を投与し、後方視的に検討したところ、安全に使用できることが確認できた。長期間のフォローアップ調査でも、低カリウム血症を発症しても遷延することなく安全性の問題は特になかった。東京都健康長寿医療センター血液内科の上田里美氏が、10月19~21日に京都市で開催された第74回日本血液学会学術集会のポスターセッションで発表した。
L-AMBは成人の深在性真菌感染症において有効性や安全性は確立されているが、65歳以上の高齢者に対する治療データは限定的な状況にある。このため同センター血液内科のチームは、09年から12年にかけて、65歳から91歳(平均年齢は72歳)の高齢患者33例を対象に、血清クレアチニン(Cr)値、血清カリウム(K)値などの推移を調べ、腎機能や電解質への影響を検討した。治療後のフォローアップはL-AMB投与終了時から3カ月間行った。
対象症例の基礎疾患は、急性骨髄性白血病17例、急性リンパ性白血病3例、骨髄異形成症候群3例など。うち、30例が肺アスペルギルス症、3例がカンジダ症を発症。基礎疾患の治療として、化学療法12例、造血幹細胞移植17例、それ以外の治療が4例行われた。L-AMBの平均投与は2.65mg/kg(1.25~5.0mg/kg)で、ほとんどが標準用量を使用していた。
血清カリウム値に及ぼす影響
有害事象の発現率をみると、血中Cr値上昇は全ての症例(33例)でみられ、K値低下は48.5%(16例)でみられた。Cr値の上昇症例のほとんどが軽度であり、グレード3以上(高度)の有害事象はK値低下が33.3%と最も多かった。
Cr値が上昇した症例のほとんどは原疾患の悪化や合併症によるもの。一方、L-AMB投与後のK値の推移をみると、L-AMB投与開始時の3.1mEq/Lから最低値は2.6mEq/Lまで低下した。上田氏は、「K値をきっちりフォローしてカリウムを補充することで、K値は改善し、L-AMB投与終了時は開始時とほぼ同程度の3.2mEq/Lまで回復した」と説明した。
長期間のフォローアップ調査では、順調に治療を継続できた11症例のK値をみると、「低カリウム血症を発症しても、L-AMB投与終了時から3カ月後まで遷延することなく、高齢患者にも安全に使用できることが確認できた」とした。
東京都健康長寿医療センター・血液内科
上田 里美 氏に聞く
血液悪性腫瘍患者さんに発症した深在性真菌感染症は、患者さんの予後を大きく左右します。特に高齢者へ造血幹細胞移植を施行する際に真菌感染症を発症すると、多くが致死的となるため、臨床症状や画像所見や血清学的検査所見等により、少しでも早く診断をつけ、真菌感染が疑わしい場合にも早めに抗真菌薬を投与するようにしています。具体的にはPossible以上の診断でL-AMBを使っています。
そのL-AMB投与時には、高齢者のため特に輸液量の調整には十分気をつけています。この場合も水分のin-outのバランスを見て輸液量を調節します。また、K値が3.0mEq/L以下に低下することが予想される場合は、早めにカリウム製剤にて補充を行い、K値が3.0mEq/L以上を維持するように管理します。特に高齢者の場合は注意深い観察が重要と考えますが、以上のことに注意すれば、L-AMBは投与継続が十分可能な薬剤であると実感しています。