擬音くん
公開日時 2013/01/10 04:00
リラックスしてくると言葉に、独特の擬音が飛び出すMさん。そのせいで、評価を下げてしまうこともあったのだが…。
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コンサルティング企業の営業Mさん(27歳)、快活で物怖じしないタイプ。はなし好きで、ユーモアのセンスに富んだMさんは、どの企業もまずまずの面接評価を得ていたが、あるひとつの理由が彼を内定から遠ざけていた。
問題になったいたのは、彼の言葉使い。Mさんの会話は必ずといっていいほど、擬音、それも他では耳にしない彼独特の擬音が混じり込んでくるのだ。たとえば…
「新人指導は難しいですよね。同じ部署の後輩が、なにするにもオドタドなんで、もっとバッキリしてなきゃダメだって言ったら、メンタル弱くてかえってペカンペカンになっちゃってホント大変でした」
普通の擬声語を使うよりも、ニュアンスは伝わるかもしれないが、さすがに社会人としてはどうかという疑問符がついてしまう。
面接をした会社のなかには、彼を『擬音くん』と呼んではばからない企業すらあったので、
「擬音混じりの口調は、やはり気をつけた方がいいと思いますよ」
アドバイスをしてみたが、
「分かりました。でも話がのってくると、ついつい出て来ちゃうんですよね。その方が雰囲気が伝わるように思えて」
と、楽天家のMさんは、あまり真剣に取り合ってくれない。
実際、面談で話した時の印象では、Mさんのトークには引き込まれるものがあり、あまり強く言い過ぎても、彼の良さを消してしまうように思えた。
「相手をみて丁寧に話すことも忘れないで」
我々は小言はその程度にして、経過を見守ることにした。
さて、Mさんの選考が進んでいる会社のなかに、数ヶ月間募集をかけながら、営業枠で1名の採用もない教育事業A社があった。最後の決裁者であるセールスディレクターT氏の壁を、誰も越えられないのである。
T氏はクセのある人物で、普段はニコリともせず、つねに寡黙。面接になるとボソボソとした低い声で短い質問を投げかけてくる。そして、我々に対する連絡は決まって長文のメールで、その内容は
「先日、面接したZさんは自家撞着(じかどうちゃく:言動が矛盾していること)の感がぬぐえません」
「Yさんの積極性はたしかに評価すべきでしょうが、拈華微笑(ねんげみしょう:仏教用語で以心伝心で師の真意を悟ること)、上司の意図をくみ取る努力が足りないと言わざるを得ません」
といった日常、なかなか聞くことのない四字熟語・故事成句が並んでいるのである。
かたや「オドタドのバッキリでペカンペカン」、他方は「自家撞着・拈華微笑」である。MさんはA社の最終選考に進んでいたものの、この両者が引き合うとは到底思えない。最終面接当日、MさんとT氏の対話を目の当たりにしたA社の人事担当者は、二人のかみ合わない会話に目を白黒させていたらしい。
「仕事をしていく上での、Mさんの矜持はなんですか?」と、T氏。
「矜持ってプライドみたいなものですよね?そうだなあ、チャキッと固まったモノはまだないですけど、自然に体も気持ちもスンスンスンッと前に進んで行くような、そういう仕事に対する姿勢はあると思っています」
しかし、面接から数日、T氏から我々のところに直接電話が掛かってきて「Mさんを採用したいと思います」という思いがけない言葉が飛び込んできた。
採用者のいなかったA社に、『擬音くん』と揶揄されたMさんが受かろうとは思いも寄らず、我々は、Mさんには失礼ながら、思わずこう聞いてしまった
「そうですか、ありがとうございます。しかし、いったい彼のどこが良かったのでしょう?同席した人事の方はあまりうまくいっているようには思っていなかったようですが…」
「ハハハ、それは彼の擬音のことですね。私もアレには驚きました。けれども、決して悪いとは思いませんでしたよ」
T氏は続けた。
「私は文章を書くときに、出来るだけ意味が深く伝わるように、表現を工夫するように努めています。彼の擬音も、方法は違いますが、それと同じだと感じたんですよ。難しい言葉を知らないから表現方法は擬音になっていますが、なんとか相手に細かいニュアンスを伝えよう、言っていることに興味を持ってもらいたい、そういう熱意が感じられました。営業職にはなくてはならない資質だと思います」
なるほど、手段は違っても目的は同じ、MさんとTマネージャーは実は似たもの同士だったということか…。と、一瞬納得しかけたものの、やはりこの二人がうまくやっていく姿を容易に想像できない我々なのであった。
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