江戸時代の転職エージェント
公開日時 2012/12/27 04:00
最近になって脚光をあびるようになった我々の仕事だが、江戸時代にも同じ商売が繁盛していたという。
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ここ10年で、転職エージェントの認知度は大きく変わった。終身雇用が過去のものとなり、会社・仕事というものの将来が約束されたものでない新しい時代になったということなのだろうが、歴史をひもとくと、転職エージェントが活躍しているのは、なにも現代に限ったことではない。江戸時代にも民間の職業紹介はかなり盛んだったのだ。
江戸時代の転職エージェントは『口入屋(くちいれや)』と呼ばれ、主に武家屋敷へ奉公人を紹介していた。江戸時代の生活を今に伝える落語のなかにも、しばしば、この『口入屋』が登場してくる。
子供にも人気の落語『化け物使い』の冒頭には、日本橋で葭町(よしちょう)で手広く口入屋をしていた千束(ちづか)屋が、人使いの荒いご隠居に困っている一幕が出てくる。
名人・古今亭志ん朝の高座から
「これは神田でもって、三河屋さんっていう呉服屋さんなんだ。ここで使いっ走りがひとり欲しいてんだよ。だから、道に明るい人がいいネ。お前さん行ってくれる。はいはい、ありがとう。名前なんてぇの?じゃあ、これ持っていって、一生懸命やってくださいよ。
えっと次は……。あー、これなんだ…。ハァ…。本所の割下水で吉田さんっていうんだ。御家人のご隠居さんでネ、お一人暮らしなんだ。で、奉公人が欲しいっていうんだ。誰かいってくんないかィ?お給金はいいんだよ。どう?誰かいないか?誰か?」
人使いが荒くて、なかなか採用が出来ずにいる会社というのは、我々にとっても頭の痛い存在。千束屋さんがため息混じりに声を掛ける気持ちは、実によくわかる。
若手の前座がよく掛ける『元犬』にも、口入屋さんが登場する。
浅草の八幡様に願掛けをして犬から人間に生まれ変わった男は、口入れ屋の吉兵衛に拾われる。犬だった頃の習性がなかなか直らず、奇妙な行動を繰り返す主人公を見て、吉兵衛さんは
「お前さんの奉公先だけど、決めたよ。私の知り合いにご隠居さんがいるんだが、身の回りの世話をしてもらう以外に、話し相手になってもらいたい、どうせなら、少し変わった楽しい人が欲しいって言っているんだよ。お前さん、そこへ行っておくれ」
と奉公先をひねり出す。人柄をみてきめ細かいマッチングをする吉兵衛さんは、現代でもきっと良い転職エージェントになれたはずだ。
もうひとつ、ずばり『口入屋』という上方落語を紹介しよう。東京では『引っ越しの夢』と呼ばれている噺だ。ある大店の番頭さんが、口入れ屋に頼んで、美人の奉公人を世話してもらう。その後、番頭さんを筆頭に、店の男たちがそろって住み込みで働きはじめたその美人にちょっかいを出すのだが…。
実は最近、この落語と似たようなことがあった。技術開発A社へ求人ヒアリングにいったときのこと、人事担当者から「あくまで、ここだけの話」と前置きがあった上で、今度の管理部門の採用では、出来れば女性を採用したいと思っているという話があった。
A社のスタッフの多くはエンジニアなのだが、その大半が独身で30代になっても女っ気がまるでない男性社員ばかりなのだという。
「プライベートに会社が首を突っ込むのはよくないという傾向がありますけどね、会社辞めたいという若手に理由を聞くと、『上司・先輩をみていて、誰も彼女持ちがいない、この会社じゃ将来結婚なんて到底無理』なんて言われることがけっこうあるんですよ。こうなると人事としても、会社の福利厚生として社員の婚活に力を入れざるを得ないでしょう?」
「う〜ん、それは分かりますが、婚活は婚活、採用は採用にしてもらわないと。我々が、そういう視点で人を選別することは出来ませんよ…」
「分かっています。ですから、あくまで理想として、一石二鳥になったらいいなあという願望を申し上げているんですよ」
A社は結局、複数採用するなかで一人の独身女性が社員に迎えることになったのだが、半年後、その女性はエンジニアではなく、人事担当者と婚約をしていた。落語もビックリのオチである。
時代を経ても、人間のやっていることの滑稽さは、大して変わっていないのかもしれない。ひょっとすると、このコラムの話が新作落語のネタに使われて、未来の古典になっていたりして…。
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