【ESC特別版】JART ロスバスタチン通常用量長期投与でIMT退縮 プラークの質改善の可能性も
公開日時 2012/08/30 16:20
日本人の脂質異常症患者に対し、ロスバスタチン通常用量を24カ月間投与することで、頸動脈内膜-中膜肥厚(IMT)の退縮がみられたことに加え、プラークの質的改善も得られた。日本国内で実施された多施設共同試験「JART(Justification for Atherosclerosis Regression Treatment)」の延長試験の結果から分かった。8月25~29日までドイツ・ミュンヘンで開催された欧州心臓病学会(ESC)2012で、田附興風会医学研究所北野病院 副院長・心臓センター長 野原隆司氏が29日のポスターセッションで報告した。
同試験の本解析では、ロスバスタチン12カ月間投与による積極的な脂質低下療法が、プラバスタチンを用いた脂質低下療法に比べ、心血管イベントのサロゲートマーカーである、IMTの進展抑制効果において高い効果を示すことが報告されている。なお、同試験は、データ安全性評価委員会から、中間解析を行った12カ月時点でロスバスタチン群の優越性が示されたことから、早期中止がなされている。
今回報告された解析は、ロスバスタチンの24カ月投与による積極的な脂質低下療法が、頸動脈IMTを退縮させるか検討する目的で実施された。アテローム血栓性プラークの破裂(rupture)はプラークの体積だけでなく、プラークの質の重要性も指摘されている。そこで、プラーク性状の定性的診断法として、画像をコンピューターソフトで取り込み定量化する“グレースケールの中央値(Gray scale median;GSM)”を用いて、長期的な積極的な脂質低下療法がプラークの形態に与える影響も検討した。
対象は、LDL-C値≧140mg/dLで、頸動脈のIMT(最大値)≧1.1mmの日本人。本解析終了時の投与開始から12週目まで①ロスバスタチン投与群②プラバスタチン投与群――の2群に分け、治療効果を比較した。ロスバスタチン群は、本解析終了後も投与を継続し、一次予防LDL-C<80mg/dL、二次予防ではLDL-C<70mg/dLを目指した積極的な治療を行った。主要評価項目は、24カ月後の平均IMT値、副次評価項目は、GSM、血清脂質値、LDL-C/HDL-C比とした。試験期間は2008年6月~11年4月までで、PROBE法で実施された。
ロスバスタチン群(113例)の患者背景は、男性が49.6%(56例)、年齢が63.9±8.1歳だった。また、日本動脈硬化学会などがまとめた動脈硬化性疾患予防ガイドライン(GL)2007で、カテゴリーⅠ(低リスク群)が0.9%(1例)、カテゴリーⅡ(中リスク群)が31.9%(36例)、カテゴリーⅢ(高リスク群)が49.6%(56例)、二次予防は17.7%(20例)だった。平均投与量は、7.87±2.9mgだった。
◎野原氏 プラークの質的変化が量的変化に影響与える可能性示唆
その結果、最大IMT値は1.48±0.51mm(113例)から24カ月後では-0.005±0.104mm(113例)退縮した。12カ月後は+0.012±0.093mm(145例)だったが、大きく退縮する結果となった。
これに対し、プラバスタチン群では、12カ月後で+0.042±0.094mm(144例)、24カ月後で+0.045±0.131mm(73例)と既に報告されていたが、今回の報告でさらにその差が開く形となった。
GSM(25例)はベースラインに比べ、12カ月後に16.93%増加し、24カ月後には22.50%まで増加した。GSMの変化と平均IMT値の変化についての関連性を検討すると、投与開始から12カ月後までGSMは有意に変化した(p=0.017)一方で、平均IMT値は有意な変化はみられなかった(p=0.478)。12~24カ月では逆に、GSMは有意な変化はみられなかったが(p=0.564)、平均IMT値が退縮する傾向がみられた(p=0.189)。ベースライン時からみると、24週時点でGSM値、平均IMT値ともに有意に低下する結果となった(p=0.019、0.044)。この結果について野原氏は、先にプラークの質的変化が起こり、その後プラークの量的変化が起きていると解説した。
なお、平均LDL-C値はベースライン時の164.8±34.1mg/dL(111例)から86.0±19.7mg/dL(104例)まで、46.4%有意に低下した(p<0.0001)。一方、HDL-C値は53.8mg/dLから57.1mg/dLまで8.9%有意に増加(p<0.0001)、LDL-C/HDLC比は3.2から1.6まで49.3%有意に低下(p<0.0001)、non-HDL-Cが194.7mg/dLから110.4mg/dLまで42.3%有意に低下(p<0.0001)、TG値は153.9mg/dLから122.0mg/dLまで13.4%有意に低下し(p=0.003)、いずれの脂質プロファイルも改善がみられた。
野原氏はこれらの結果から、「J ARTの延長試験は、日本人患者における、標準的な用量のロスバスタチンによる積極的な脂質低下療法が、アテローム性動脈硬化を退縮させた最初のエビデンス」と強調した。また、ロスバスタチン投与がプラークの質を改善する可能性を示唆した上で、「プラークの量的変化は、積極的な脂質低下療法後、早期に質的変化と相対的に起きているかもしれない」との考えも示した。