叱って下さい
公開日時 2012/06/12 04:00
面接を何度もすっぽかすWさんに、我々は最後通牒をつきつけた。すると…。
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転職者とエージェントの関係は、ときに微妙なものだ。転職というひとつの目標に向かい、同じ方向をみて歩むパートナーでありたいというのが、我々の理想だが、転職者の皆様が同じ考えとは限らない。
「こっちは客なんだから」というスタンスで「黙って言うことを聞いてくれればそれでいい」という方もあれば、担当エージェントに対して常に敬語、のみならず、本人がしなくてはならない意志決定までこちら任せという方もいる。なかなか、難しいものだ。
Wさん(26歳)は、友人の紹介で我々のところに登録になったのだが、その友人から我々に、ひとつ申し添えられていたことがあった。
「Wは、友人にとっては良いヤツなんですが、そうでない人に対してはかなり横柄なところがあるんです。体が大きくて、親が金持ち、ずっとガキ大将できたからプライドがすごく高いんでしょうね。エージェントさんも戸惑うこともあるかもしれませんが、よろしくお願いします」
その警告通り、Wさんには御しがたいところがあった。こちらのアドバイスには耳を貸さず、エージェントをアゴで使うような態度に終始していた。まあ、それだけなら我々が我慢すればいいことなのだが、Wさんには、応募先の企業に対しても礼儀を欠いた行動が見られた。
予定された面接に無断で行かなかったり、急なスケジュール変更が繰り返されたのだ。
「こう度々、面接をすっぽかされては、安心してWさんを企業に推薦できません。私たちエージェントは、企業に対しても責任を負っているんですよ」
Wさんを担当していた女性エージェントは、これ以上の横暴は許さないと、かなりキツい口調でWさんを問うた。
「仕方ないでしょ。忘れちゃったり、急な用事が出来たりしたんだから」
「先方の企業では、責任ある立場の方が、Wさんの為にわざわざスケジュールを空けて待って下さっているんです。もっと真剣に考えてください」
「そんなに言うほど、大ごとかなぁ?大手企業ならともかく、僕がいかなかったのは、名前も聞いたことのないような会社ばかりですよ?」
「そんな!どこもWさんご自身が選んで応募した会社じゃないですか。それに、規模や知名度は関係ありません。どの企業も真剣に人材を求めているんですよ」
Wさんが無言でいるので、我々は最後通牒を出すことに決めた。
「Wさん、考えをあらためていただけないなら、我々として、これ以上サービスを継続することは難しいですね」
「うーん…。今は冷静になれない。少し時間を…」
「分かりました。では、サービスを続けたいというお気持ちがあるなら、一週間以内に連絡をください」
かなり厳しい言い方をしたので、もうWさんからの連絡が来ないだろうと予想していたのだが、すぐ翌日、Wさんから長文のメールが届いた。そこには、それまでの彼の態度とはかけ離れた身の上話が語られていた。
Wさん曰く、身勝手な性格を自覚しているが、それを指摘してくれる人はほとんどいなかった。両親は、歳がいって生まれた長男だったので、いつも甘やかしてくれたし、友人・会社の同僚、上司すら自分を怖がって何も言ってくれない。唯一、叱ってくれたのは、4歳上の姉。その姉が海外生活を始めてしまってからは、自分が何をしても許されるような気持ちになってしまった。
エージェントさんに叱られた時、姉のことを思い出した。姉は正義感の強い女性で、誰よりも尊敬する人…。
「昨日のことで目が覚めました。これからは誠実に転職活動をしていくことを約束します」
メールの最後は、そう締めくくられていた。
以降のWさんは、面接をすっぽかしたり、相手企業を軽んじるような行動は一切みられなくなった。
ただひとつ困るのは「気づいたことがあれば、どんどん指摘して下さい」「もっと厳しく言って欲しい」と、Wさんがせっついてくることだ。面接の内容などでお説教っぽいことを言うと、翌日には実に嬉しそうな感謝のメールが届くという有様。
「そういうお望みなら」と、何かにつけWさんをたしなめる我々なのだが、心のどこかで「お姉さんの代役というのは、本来のエージェントの役割とは違うよなあ」と思ってしまうのである。
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