長い目
公開日時 2012/05/30 04:00
安易に転職活動をはじめたMさんは、自らのしくじりから多くを学び、変わっていった。そして…。
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転職が決まるまでかかる時間は人によってまちまちだが、たいていの場合、選考に入ってから一カ月程度で企業は結論を出してくる。その間、面接で話し合えるのは数時間のみだ。
一方、転職エージェントは最初の相談から内定まで、企業よりもずっと長い期間やりとりを交わす。面談に加え、その後の電話相談などで、のべ十時間以上のやりとりをすることも珍しくない。合否を判断する企業の担当者・人事よりも、我々の方が転職者本人をよく知っているということも、大いにあり得るわけだ。
大手ゼネコンA社に勤務するMさん(24歳)は、これといった目標なしに転職活動をはじめた第二新卒だった。そもそも、彼は、自分にとって転職が難しいこととは考えていなかった。
A社に入社後、上司との相性に悩んだMさんは「他の業界にすればよかった」と考えて、すぐに転職を思い立った。
しかし、就活と転職活動は様々な違いがある。長い時間をかけ、企業の説明会から始まる就活に対し、転職はずっと期間が短く、いきなり本番の面接から始まる。会社資料にろくに目も通さず、「とありえず、どんな企業かみてみよう」という感覚では、セミナー後の簡易面接すら通らない。
我々はその点を話してきかせたのだが、Mさんが現実を思い知ったのは、実際の面接の場においてだった。Mさんが、たとえば転職動機として、やりたい仕事の話をすると、面接官は
「それは、どうして現職A社では実現できないのか?」
「自分がしたい仕事をするために、現職で起こしたアクションは?」
などと、厳しいツッコミを次々といれてくるのだ。おざなりの回答ではとても太刀打ちできない。
学習能力の高いMさんなので、数回面接をこなすと、答えにつまるようなことはなくなっていったが、それでも内定という言葉を聞くことはなかなか出来なかった。
「今のままの自分じゃダメってことなんだ…」
この気づきから、Mさんは大きく変わっていった。
面接で指摘された、現職でまだ出来ていないことをすぐに仕事にフィードバックし、その結果をもって面接に臨む。相手企業の研究もおこたらず、飲料メーカーの面接前には、家の近くの量販店に頼み込んで、メーカーの営業担当に直接会って話を聞くなど、目に見えてMさんの意識は高まっていた。
転職活動を始めて三カ月がたった頃、準大手商社B社で建材などを手掛ける部門の営業職で面接が組まれた。B社に向けてMさんは、かなりの意気込みをみせていた。
面接後「先方の説明を聞いて、こういう仕事がしてみたいと心から思えました。自分が働いている姿を想像して、とても興奮しました」と、好印象を口にしたMさん。なんとか良い結果に…、と思っていたのだが、B社からは「頭の良いのは伝わってくるんだけど、ソツがなさすぎてインパクトに欠ける。若いのに型にはまってしまったような印象。成長力に疑問がある」というコメントがあった。
我々はこれに反論した。
「Mさんが、最初に面接をしたのは三カ月前。その時と比べて、彼は大きく成長しています。ソツがないように見えたのは、面接に慣れてきたから。地道に自分の足で企業の下調べをしたり、プライドをかなぐり捨てていくがむしゃらさも持っています。この年齢で、大手に安住することなく意識を高く持っている人は、決して多くありません」
一度きりの面接で判断するなら、Mさんはあまりにも優等生的で、B社が感じたような違和感も理解できる。しかし、我々は三カ月にわたって彼をみてきている。そのなかで、間違いなくMさんは変わってきた。この三カ月で、声の張り、話す言葉のひとつひとつ、顔つきさえ変わったように感じる。
Mさんは、最初の評価をくつがえし、役員面接を終えてB社の最終結果を待っているところだ。今度こそきっと良い結果が出るだろう。長い目で彼をみてきた我々には、それが分かるのである。
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