A社のサトウさん
公開日時 2012/02/21 04:00
新卒・第二新卒で不採用になった会社に、再々チャレンジするサトウさんの運命は…。
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転職エージェントは、人の出入りの多い仕事だ。数十名のアクティブな転職者が、毎日入れ替わっていく……。失礼なことと承知はしているが、全員のフルネームを完璧に覚えているというわけにはなかなかいかない。
ただ、我々とてプロのはしくれ。誰がどの会社で働いていて、どういうキャリアだったかということは頭に入っている。そのため、電話の取り次ぎなどで、我々が転職者の方の名前をいうときには、社名をあたまにつけて「○○社のスズキさん」などとすることが多い。
(いつもはイニシャルで表記しているが、『A社のSさん』ではあまりにも味気ないので、今回は慣例を破って主人公を『サトウさん』とさせていただくことにする)
技術営業のサトウさん(28歳)は、新卒としての就職活動と、4年前の第二新卒の転職活動で、総合メーカーA社を第一希望にしていたが、いいところまでいきながら涙を呑んでいた。憧れのA社転職に向けて、三度目の挑戦をはじめたサトウさんは
「今度ダメなら、A社は諦める!」
と、言うだけあって、並々ならぬ意気込み。情報収集にしても、面接の準備にしても、アドバイスしなければならない我々の方が感心してしまうほどであった。
A社は事業部ごとに採用を行っているので、ひとつの面接がダメであっても、それで終わりというわけではない。サトウさんの方から熱心にいろいろ面接対策の質問などがあり、年末年始にかけて、やりとりはかなり頻繁になっていった。
話の内容は当然ながら、ほとんどがA社のこと。サトウさんには現職があったので、当初、我々は『B社(現会社名)のサトウさん』と彼を呼んでいたのだが、徐々にそれが『A社熱烈志望のサトウさん』になり、それが短縮されて『A社のサトウさん』に変わっていった。
まだ入社もしていないのに『A社の』というカンムリがついてしまうのはよく考えてみればおかしなことだが、サトウさんはそれだけ熱心だったのだ。
さらに驚くべきは、A社以外で唯一面接を受けたベンチャーC社すらも、彼を『A社のサトウさん』と呼んだことだった。
サトウさんの了解をとった上で、C社には最初から彼がA社が第一志望であることは伝えてあったのだが、サトウさんはC社の面接でも『自分がどれだけA社転職に向けて努力してきたか』について熱弁をふるったのだという。これにはC 社社長も苦笑していたらしいが、熱意の強さについては「皮肉でなく、彼はきっとA社に受かりますよ」と感嘆を隠さなかった。
こうしてA社に向けてばく進していたサトウさんだが、二度あることは三度ある、二つの事業部で最終面接まで残りながら、またしても両方共不合格になるという不遇にあった。彼の落胆は察するにあまりある。
「これからどうするか、しばらく考えさせて下さい。B社からは転職したいとは思っているのですが…」
そうメールがあった直後のことだった。A社事業部長との打合せで、サトウさんのことが話題に上った。
「彼は本当に熱心だったねえ」
「はい、A社を諦めることになり、かなり落ち込んでいるようです」
「でも、他の事業部は?」
「残念ながら…」
「ホントに?おかしいなあ。D事業部は?書類で?まさか?いやあ、もし良ければ、僕から推薦しておくけど。ちょっとサトウさん本人に確認とってみてよ」
転職に最低限のキャリアが必要なのは間違いない。だが、あるレベル以上になれば本人の熱意・意気込みがパワーを持つときが間違いなくあるのだ。こういう一瞬に立ち会えることは、我々の仕事の醍醐味でもある。
『A社のサトウさん』はいま、本物の『A社のサトウさん』になろうとしている。
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