正しい日本語
公開日時 2011/10/25 04:00
外国人が多く働くA社の求人要項には、『英語上級必須』とある。しかし、実際に求められていたのは…。
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正しく日本語を使うのは、なかなか難しい。今年9月に文化庁が発表した『国語に関する世論調査』によると、「姑息」「声を荒らげる」といった表現は7割・8割の人が誤用をしているのだとか…。
ただ、死語という言い方があるように、言葉は移り変わっていくもの。8割もの人が辞書に書かれてあるのとは別の使い方をしているなら、もはやどちらを正しいと言うべきなのか微妙なところがある。「誤った用法」というより、「本来の用法でない」と言うべきなのかもしれない。
とはいえ、オトナの社会人としては、より伝統的な用法に通じていたいと思ってしまうわけだが…。
外資系金融サービスA社は、日本進出してまだ数年。スタッフにも外国人が多く、A社の求人は、すべて『英語力上級』が必須の条件とされている。我々も、その点に気をつけて人材紹介をしていたのだが、実際に選考を進めていくと、A社のは採用ポイントは違うところにあった。
A社は、正しい日本語を使う人を好むのである。
無論、業務に必要な英語力も問われるのだが、採用の可否というところになると、英語よりも日本語がポイントになることが多かった。
面接での敬語・謙譲語・丁寧語の使いわけはもちろん、文書(メール)の一語一句にもA社は目を配っていた。ある候補者は、一次面接のお礼のメールをしたまではよかったのだが、行末に相手の名前が来るような改行をした為、「礼を失する」という評価を受けた。他の理由もあったものの、そこがネックになり残念ながら…という話になってしまった。
「彼は海外生活が長く、日本文の作法に疎いところはありますが、これだけの業務スキルを持っている人材は決して多くありません。見逃す手はないと思いますが?」
我々はプッシュをかけてみたが、A社は頑なだった。
「クライアントの日本の大手金融会社は、正しい日本語の使い方・礼儀作法に通じている方が多いんですよ。ですから、こちらもそれなりの配慮が必要なんです。海外スタッフが至らない分、日本人スタッフにはきれいな日本語を使ってもらいたい。外資系であることを言い訳にしたくないんです」
なるほど、大手金融ではビジネスマナーの教育が徹底されており、特に年配の銀行マンは細かい点も見逃してくれない。
「それに、海外から来たスタッフは、日本のスタッフから日本語を学びますから、日本人が間違った日本語を使っていると、それがそのまま伝染してしまうのです」
こう言われてしまうと、それ以上、とりつく島もない。以降、我々はA社に推薦する人材を少しシフトするようになった。
Nさん(28歳)は、英語力は中級レベルといったところだったが、留学経験があり、ヒアリングの基礎は十分。また、大学時代、知り合いのつてのホテルでアルバイトをしていたため、日本語の表現がとてもきれいな方だった。
案の定というべきか、一次面接はたいへんな高評価。
「いやあ、彼は良いですね。若いのにとても(日本語が)しっかりしています」
しかし、二次選考では、面接に加え、その場で英文レポートを作る課題があった。
選考を終えて、レポートの下書きを家に持ち帰ったNさんは、知り合いのイギリス人に添削を頼んだのだが、これが惨々な出来。Nさんは面接後、すっかり諦めムードになっていたのだが、A社の方は
「前置詞の取り違いや、スペル・文法のミスはありますが、言いたいことは十分通じる文章でしたよ」
と、前向きな姿勢。これにはNさんの方がビックリして
「このあたりのイディオムも使い方を間違ってますよね?」
と、自らミスを指摘したのだが、A社の担当者は笑って
「ああ、これね。いや、このくらい構いませんよ。こういうのはネイティブでもよく間違えるんです。アメリカ本社なんか、スペイン語圏から来た人が増えていますから、いちいち目くじら立てていたら仕事なんか出来ませんよ。ハハハ」
こうして、Nさんは無事A社で内定となったのだった。
今では、英語上級が求められるA社に応募した人は、日本語の特訓をしなければならないという奇妙な事態になっている。だが、これがなかなか簡単にいかない。敬語を使わなければと思っていると、返っておかしな日本語になったりすることもしばしば。
いやはや、やはり正しい日本語というのは難しいものなのである。
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