社内公募
公開日時 2011/08/30 04:00
今年度から社内公募の制度をはじめたA社。キャリア採用の担当者Mさんは、その仕切り役として、面接に立ち会うが…。
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社内の人材ニーズをみたす最初の方法は、キャリア採用ではなく人事異動だろう。現社員の中に適任者がいれば、時間もコストも少なくて済むのは間違いない。
しかし、経営側が適材適所と思った辞令でも、受ける側が納得いかず、労働意欲が減退して、異動後に思うような活躍をしてくれないということもよく起きる。
そこで、社内の人材ニーズに対し、社員自らが志願をする「社内公募制度」を採用する企業が近年増えてきている。自動車部品メーカーA社も、社内の人材をスムーズに動かし、同時に社員のモチベーションを高める一石二鳥の制度として社内公募を始めた。
しかし、エンジニアが多くおとなしい社風のA社では、なかなか公募に手を挙げる者があらわれず、キャリア採用の担当者Mさんに制度のてこ入れが命じられた。
Mさんはまず、応募数を増やすための仕組みを作り、全社員にアナウンスをかけた。
「社内公募に応募しても、現部署での評価・昇進に悪影響を与えることは一切ありません」
「興味がある、話を聞いてみたいとむしろ、いうレベルでも応募してかまいません。まずは求人を出している部署の話を聞き、それから本格的な面接に入ります」
「希望すれば、最終面接の段階まで現部署の上長に知られずに応募することも出来ます」
こうして、ようやく応募者がぼつぼつと現れるようになり、徐々に本格的な「社内面接」が組まれるようにもなってきた。立場上、多くの面接に同席することになったMさんだが、社員同士の質疑をみて、頭を抱えてしまった。
「いくらなんでも、レベルが低すぎる…」
強引に応募を喚起したこともあったのだろうが、面接に来る社員で準備らしい準備ができている人はほとんどいなかった。異動後にどんな仕事をしたいのか、自分がアピールできるキャリア・スキルは何なのか、志望動機は何か…社内公募という面があるにせよ、皆あやふやで要領を得なかった。
普段、接しているキャリア採用の応募者はもっとしっかりしている。もし、A社員が一般応募であったら、大半は一次面接も通らなかったろう。そう感じたMさんは、社内広報誌で筆がすべってしまう。
「社内公募だから最終面接に進んだ人もいますが、本当の転職なら、全員不採用です。もっとしっかりしてもらわないと、他の会社に転職なんて出来ません!」
Mさんは、これを読んだ役員に呼ばれ「転職してもらいたいわけじゃないんだから、煽るようなことは言わないように」と、軽くではあったが叱責を受けたのだった。
「あまり酷くて、つい書いちゃったんですよねえ」
我々と打合せをしていたMさんは、社内公募の経緯を教えてくれたうえで、グチを漏らした。
「社内公募と実際の転職では、気構えからして違うでしょうからね」
「そうなんです。社内公募の面接は、緊張感がまったく感じられないんですよ」
Mさんがあまりに捨て鉢になっているので、我々はこう付け足した。
「ただ、転職相談・面談をしているとよく分かるのですが、最初は誰でも思っていることを上手く伝えられないものです。何度か他人に伝えるということやらないと、まとまってこないんですね。実際の応募者との差はその辺りにあるのではないでしょうか」
社内公募は、転職の面接よりは気楽に受けられそうと思われるかもしれないが、予行演習の機会がなく、一発勝負を迫られるという難しさがつきまとう。しかも、エージェントのサポートを得られないのだから、転職よりもずっと厳しいといったら、手前味噌がすぎるだろうか?
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