草と肉
公開日時 2011/07/19 04:00
最近はおとなしい草食系ばかりと嘆くA社に、自ら「ボンボン育ち」を認める純草食系Kさんが応募することに…。
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「最近は『草』ばっかりで…。『肉』が欲しいなあ」
これは光学機器メーカーA社の人事Mさんが呟いた一言。『草』というのは草食系(男子)、『肉』は肉食系のことを指している。つまり、「面接にやってくる男性は大人しいのばかり。もっと、アグレッシブな人材が欲しい」というわけだ。
何ごともズケスケものを言ってはばからないMさん。彼によれば、A社で活躍している技術営業はほとんど肉食タイプで、『草』の方はまったくパッとしないのだとか。とはいえ、理系学部出身は大人しいタイプが多いもの。『肉』をみつけるのは易しいことではない。まして、英語力も必要とハードルが高ければなおさらである。
A社は、なかなかいい人材を見つけられずにいたのだが、そんな時、この求人に応募したのが、Kさん(26歳)だった。
研究職をしていたKさんは線が細く、どこからどうみても草食系。自らも「両親・祖父母同居で大事に育てられたせいか、子供の頃からおっとりしていて、苦労知らずのボンボンタイプなんです」と、のたまうくらいで、研究職から営業に転職しようというのは、まったくの無謀にも思われた。
しかし、Kさんには別の考えがあった。
「子供時代、そういうふうに育てられたことで、僕は『周囲の期待に応えたい』という気持ちが強いんです。結果を出して、誉められることが何よりのモチベーション。けれど、研究の仕事はすぐに結果が出ません。もちろん、作業の効率を高めるというところで頭は使いますが、地道にデータをとるだけで、発見なんてものは日常的にはありません。それなら、良かれ悪かれ成果がハッキリ出る営業をやってみたいんです」
なるほど理屈は通っている。しかし、営業には人間関係の煩わしさや、結果が出ないときのプレッシャーがついてまわる。
「営業は打たれ強くないと出来ない部分もありますよ」
我々は何度もKさんに確認をしたが、彼は応募の意志を変えなかった。
「たしかに、強く言われた経験は多くありません。でも、期待に応えたいっていう気持ちが強いのは本当のこと。それで自分を奮い立たせられると思っています」
こうしてKさんは肉食を求めるA社の面接に挑んだのだった。
当然ながら、人事のMさんは低評価。
「100パーセント『草』だよね。意気込みは分かるけど、タイプが違うんじゃないかなぁ…」
しかし、たまたまA社で病気のための長期休職者が出て、現場は「とにかくすぐに一人欲しい。背に腹はかえられないし、今回はKさんのやる気をかってみよう」と、幸運にも内定がもらえることになったのだった。
そして、これが大当たり。Kさんは入社から1年弱だが、誰よりも勉強熱心で、誰よりもマメ、そして強く結果を求めていく姿勢で、入社5年内の営業に贈られる新人賞の表彰を受けた。
Kさんの採用を決断した上司からは我々にこんなコメントがあった。
「緊急の採用だったんですが、こんな結果になるとはねえ。エージェントさんから言われたように、最初は誉めまくったんですよ。すると、どんどんやる気になるし、失敗した時は何もいわなくても本人が必死に挽回しようとする。線は細いけど粘りがあって、いや、人は見掛けによらないっていうのを実感しましたよ」
一方、人事Mさんだが、こちらは宗旨変えとはまではいかなかったようだ。
「いやあ、Kさんはうちには違うと思ったんだがなあ。でも彼は、草は草でも強い草だよね」
いわんとするところは分からないではないが、そろそろKさんが営業に適していたことを素直に認めてくれてもいいのではないか…。相変わらずのMさんに、思わず苦笑してしまう我々なのであった。
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