医薬品業界 余剰現金を株式買戻しか、配当に
公開日時 2011/02/17 04:00
米医薬品業界は、2009年末現在で2330億ドルという多額の現金を保有している。この額は2006年の25%増に相当する。業界はその現金を使用する優先順位はさまざまだが、多くは、長期的に必要な研究開発(R&D)に使うか、事業開発に使うかだが、前者では、カネではR&Dの生産性の向上が必ずしも見込まれないことが明らかになっており、後者では、ビッグファーマが中・小規模企業の買収ターゲットがなくなりつつあることやファイザーのワイス買収、メルクのシェリングプラウ買収など大規模合併が成果を生むのかに疑問が生まれてきていることもあるなどして、現金を使う機会が狭められてきている。
そのようなことを背景に、医薬品産業は、投資家の要求を満足させるために、株主配当のアップや自社株式買戻しに重点を置いている。2010年のStandard & Poorsの調査で、SP500社(過去3年間)をみると、保有現金の40%が配当・株式買戻し、48%が資本支出・買収に使われているが、医薬品企業では、22%が配当、33%が株式買戻しとなり、買収には36%が使用され、配当・株式買戻しが多いことが分かった。
株式買戻しは株主に対する価値の還元では租税効率の良い方法だが、株主配当のほうが、株主には評判が良い。ファイザーが2009年ワイスの買収を発表した際、配当を2分の1の16セントにカットすると発表、株主の怒りを買ってしまった。メルクがシェリングプラウを買収した際は、配当をカットしなかったが、2005年以来配当を上げていなかった。
ファイザーは、2000年から2008年までにR&D費を600億ドル以上使っているが、この間に新製品は9つで、重要なものは抗がん剤スーテントしかない。バークレイズ・キャピタルのTony Butler氏は、「投資した資金と新製品との直接的な相関関係はない」と指摘、「その分を株主に還元すべき」という。同氏は、ファイザーのイアン・リード新CEOがR&D費を2010年レベルから10億ドル削減、今後2年間で自社株式90億ドル分(発行済み株式の約5%)を買い戻すという提案に賛成している。
だが、一方、株式の買戻しは、企業の長期的価値を損ない、企業の利益の工場には最小限の効果しかないと指摘するアナリストもおり、一筋縄ではいかないようだ。
(The Pink Sheet 2月7日号より) FDAと米国製薬企業の情報満載 “The Pink Sheet”はこちらから