緊急性踏まえTIAクリニックなど診療体制の早期整備を
公開日時 2011/01/27 04:00
東京女子医科大学・内山氏 “急性脳血管症候群(ACVS)”を提唱
第13回日本栓子検出と治療学会(エンボラス学会)
シンポジウム「TIAの病態と治療」 【1】
一過性脳虚血発作(TIA)は急性虚血性脳卒中とともに「急性脳血管症候群(acute cerebrovasculer syndrome:ACVS)」という新たな疾患概念に包括し、24時間365日カバーするTIAクリニックのような診療体制を早期に構築すべきだ――。東京女子医科大学医学部神経内科学主任教授の内山真一郎氏は11月20日、シンポジウム「TIAの病態と治療」の中で自身の見解を示した。また発症後7日以内のTIA患者と軽症脳梗塞患者を登録し、5年間追跡する国際共同観察研究「TIA registry.org」(ACVS registry) の症例登録を2010年4月より開始したことも明らかにした。
TIA発症の水際予防は医療経済的効果も
米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中協会(ASA)共同のワーキンググループが2009年に発表した共同声明では、TIAに関する新たな疾患概念が報告されている。これを踏まえ内山氏は、救急疾患としてのTIAは「虚血性脳卒中と同一スペクトラム上にあり、臨床的に区別すべきではなく、虚血性脳卒中とともに急性脳血管症候群(ACVS)という新しい疾患概念を提唱したい」と述べた。
この背景として、「心血管疾患では、不安定狭心症と急性心筋梗塞を急性冠症候群(ACS)と総称し、救急体制を整備することで飛躍的に救命率を高めることができたという前例がある」と指摘。発症直後のTIAは、ACVSとして包括し、その救急診療体制については24時間365日カバーできる「TIAクリニック」が求められるとした。加えて、このような救急医療は脳梗塞の発症を水際で予防できるとし、脳梗塞発症後のt-PA治療を含む膨大な医療費を節減できるなど、医療経済的な効果も期待できるとの見解も示した。
発症予防のための早期治療が重要
そのほか内山氏は、脳梗塞発症前の抗血栓療法の実施状況についても報告した。TIA既往群と非既往群に分けてみたところ、TIA既往群は、非既往群に比べて抗血栓療法の施行割合は高いものの、49%は抗血栓療法が一切行われないまま入院に至っていることを明らかにした。
さらに、重症度スケールである退院時modified Rankin Scale(mRS)でみても、TIA既往群は、非既往群に比べて転帰が悪く、多重ロジスティック回帰分析でみても、TIAが転機不良の独立した危険因子として抽出されていたことを報告した。
こうした結果から内山氏は、2009年に改訂された「脳卒中治療ガイドライン2009」にTIAについての項目が新設されたことを改めて強調し、脳梗塞発症予防のためのTIAの早期治療が重要であるとした。なお、急性期のTIA再発防止ではアスピリンが、非心原性TIAの脳梗塞予防にはアスピリンとクロピドグレルが「グレードA(行うよう強く勧められる)」に推奨されている。
国際共同観察研究「TIA registry.org」で症例登録開始
内山氏は、TIAをめぐる国際共同観察研究として「TIA registry.org」がスタートしたことも報告した。同研究は、日本を含む欧米・アジア地域で、TIAや軽症脳卒中患者を追跡するもの。発症後7日以内のTIA患者と軽症脳梗塞患者5000例を登録し、5年間追跡調査する。日本でも2010年4月から症例調査の登録が開始された。同一のプロトコルで、さらに日本人のデータを集積する「急性脳血管症候群登録観察研究(ACVS registry study)」を進めていることも紹介した。同研究は内山氏が代表を務め、中村記念病院、秋田県立脳血管研究センター、東京女子医科大学、国立循環器病研究センター、神戸市立医療センター、九州医療センターの合計6施設が参加しているとのことである。