求められる歯科医との連携
第13回日本栓子検出と治療学会(エンボラス学会)
シンポジウム「周術期の抗血栓薬管理」
「第13回日本栓子検出と治療学会」(会長:矢坂正弘氏・九州医療センター脳血管センター・臨床研究センター脳血管内科)が11月19、20日福岡県のアクロス福岡で開催された。抗血栓療法をめぐっては、高い心血管イベント発症・再発抑制効果がある一方で、副作用の出血性イベントの増加が懸念されている。このような中、「科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2010年版」が策定されるなど、出血管理への意識も高まりをみせている。学会2日目の11月20日に開かれたシンポジウム「周術期の抗血栓薬管理」(共催:サノフィ・アベンティス)の内容を紹介する。
日本有病者歯科医療学会、日本口腔外科学会、日本老年歯科医学会の3学会は2010年10月、「科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン(GL)2010年版」を初めて策定した。
GLでは、歯科医が抗血栓療法患者の抜歯時に直面する疑問(クリニカル・クエスチョン:CQ)を23取り上げた。内訳は、“抗凝固療法に関して”が11CQ、“抗血小板療法に関して”が8CQ、“止血方法に関して”が3CQ、“麻酔に関して”が1CQ。
抜歯時もINRコントロール例ではワルファリンの継続投与を推奨
―推奨グレードA
「ワルファリン服用患者では、ワルファリンを継続投与のまま抜歯をしても重篤な出血性合併症はなく、抜歯は可能であるか?」については、「原疾患が安定し、INRが治療域にコントロールされている患者では、ワルファリンを継続投与のまま抜歯を行っても重篤な出血性合併症は起こらない(エビデンスレベルⅠ)」とした(推奨グレードA)。
抜歯可能なINR値については、日本人を対象にした観察研究の結果から、「INR値が3.0以下であれば、ワルファリン継続下に抜歯可能」とした(推奨グレードB)。
INRの測定時期は、“少なくとも72時間前”を推奨し、可能であれば抜歯当日に測定することを求めた。
抗血小板療法も抜歯時の継続投与を推奨
―推奨グレードB
抗血小板薬服用患者については、「抗血小板薬服用患者では、抗血小板薬を継続して抜歯を行っても、重篤な出血性合併症を発症する危険性は少ない(エビデンスレベルⅡ)」とした(推奨グレードB)。
ワルファリン+抗血小板薬を併用する患者では、両剤を継続投与してもワルファリン単独投与時の術後出血リスクと大きな差はみられないことから、両剤の継続投与を推奨した(グレードC1)。
慶應義塾大学・矢郷氏
「ほとんどの抜歯症例は、局所止血剤の使用と縫合により止血が可能」
学会でGLを紹介した慶應義塾大学医学部歯科・口腔外科学教室の矢郷香氏(GL推進ワーキンググループグループ長)は、「ほとんどの抜歯症例は、局所止血剤の使用と縫合により止血が可能」と説明。「肝機能障害など出血性素因のある患者では、パックや止血シーネ(保護床)などの準備も考慮」するなど工夫を凝らすことの必要性も強調した。
その上で、「抗血栓薬の中断による脳梗塞などの血栓・塞栓症の発症リスクを考えると、抜歯術において抗血栓療法が安定している場合には、抗血栓薬を継続するのが望ましい」との考えを示した。
臨床上の適用性やコスト踏まえ、推奨度は5段階に
GLの策定過程では、文献検索により、130論文を選択し、文献の批判的吟味を行い、エビデンスレベルをⅠ~Ⅵの7段階に分類した。
治療の推奨度は、このエビデンスレベルに加え、①エビデンスの数と結論のバラツキ②臨床的有効性の大きさ③臨床上の適用性(医師の能力、地域性、保険制度)④害やコストに関するエビデンス――について総合的に判断し、5段階に分類した。
A(強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる)、B(科学的根拠があり、行うよう勧められる)、C1(科学的根拠はないが、行うよう勧められる)、C2(科学的根拠がなく、行わないよう勧められる)、D(無効性あるいは害を示す科学的根拠があり、行わないよう勧められる)の4段階と、エビデンスが十分に構築されていない“I(行うよう、または行わないよう勧めるだけの根拠が明確でない)”としている。