心臓血管研究所・山下氏 「心房細動患者へのワルファリン投与5~10年以内に切り替わる」
公開日時 2010/12/08 04:01
複数の新規抗凝固薬の登場で、心房細動患者における脳卒中発症予防において、第一選択薬とされるワルファリンが今後5~10年間でほとんど切り替わるのではないか――。心臓血管研究所常務理事(研究本部長)の山下武志氏は12月7日、本誌の質問に対し、自身の考えを明らかにした。
山下氏は、心房細動治療は、▽First Step「命を護る(患者の背景因子を再確認して是正する)」▽Second Step「脳を護る(危険な患者の見極めと抗凝固療法)」▽Last Step「生活を護る(患者のQOLを向上する。洞調律維持を目指す)」――の3段階で治療を考えることが重要とした。
心原性脳塞栓症の患者数が増加の一途をたどる中で、原因となる心房細動も、合併症が高血圧、糖尿病、心不全など多様化するなど、患者背景が複雑化していると説明した。このような中で「原則的な治療目的と単純な方針に基づいた治療ツールの単純化」が重要と山下氏は強調。現在、心房細動治療に残された“唯一の複雑なツール”がワルファリンであるとした。
ワルファリンは、高い有効性を示したエビデンスがあるものの、使用方法が煩雑であることなどから、適応患者の半数にしか用いられていないのが現状だ。
実際、効果の指標である「INR 至適範囲内時間(Time in Therapeutic Range:TTR)」は、有効性は65%~70%以上で効果があるとされているが、治験のデータであっても58%にとどまるなど、十分な用量が使用されていないと指摘した。この背景には、ワルファリンの投与により、出血リスクが増大することから、医師が投与に抵抗感があるとした。
加えて、ワルファリン投与下では定期的な採血によるモニタリングと、納豆や青汁、クロレラなどの食事制限が求められることなどから、患者の抵抗感もあると現状を紹介した。
◎ワルファリン投与における患者の心理的な縛り 「私たち自身も認識していなかった」
このような中で、モニタリングと食事制限の必要がなく、ワルファリンを上回る有効性と安全性が期待される直接トロンビン阻害剤やファクターⅩa阻害剤など複数の新規抗凝固薬が近く臨床現場に登場する。
山下氏は、これにより“Second Step(脳を護る)”治療が大きく変わるとの見解を表明し、実際、米国やカナダでも「予想以上に急速に新薬が普及している」とした。
治療薬の選択に際しては「TTRが悪く、ワルファリンの質が低ければ、新規抗血栓薬の方が良い」とした上で、患者さんの“好み(preference)”も重要との考えを示した。
山下氏が自身の患者に治療についてインタビューを行ったところ、「私も予想していなかったが、患者さんは採血を嫌がる。これまでワルファリンがどれだけ患者さんを心理的に縛ってきたのか、私たち自身も認識していなかった」と述べた。実際、「ほとんどの患者さんが新規抗凝固薬を選択する。長期処方になってから…という人もいるが、ワルファリンでよいという患者に出会わない」と自身の経験を紹介した。
山下氏はそのため、新規抗凝固薬の登場により、“脳を護る(Second Step)”だけでなく、“患者のQOL向上(Last Step)”まで見据えた治療が可能になると見通し、期待感を示した。