日本癌学会 研究振興で患者、製薬企業、議員、官僚交え初のシンポ 学者中心の振興限界
公開日時 2010/09/27 04:02
第69回日本癌学会学術総会(学術総会会長:門田直人大阪大学副学長)が9月22日~24日まで大阪市内で開催され、その中で関係学会の研究者、医師のほか、患者団体、製薬企業、国会議員、厚労省、経産省、文科省の担当官が一堂に会して、がん研究の振興について話し合うシンポジウムが行われた。研究者中心の研究、学会の討議では課題解決に限界があることを学会側も認め、研究者側が患者・国民に理解を求めながら、互いに納得のうえでがん研究を盛り上げ、研究予算の獲得、研究協力を得やすくする環境を築いていく姿勢が必要との認識で一致。産官学医に患者を加えて課題の解決に取り組むとする「大阪宣言2010」をまとめた。
がんは国民の2人に1人がかかる「国民病」であり、死亡者数も年々増加し、年30万人に上る。しかし、がん研究に割かれる予算は欧米に比べ1/10以下の400億円弱、臨床研究も欧米に比べ立ち遅れ、がん研究・治療の進歩の遅れについて研究者、医師、産業界から懸念の声が上がっている。薬物治療をはじめ治療技術は進歩してきているものの、患者の不満も根強いものがある。そこで、研究の遅れは、患者にとっても不利益を被ることから、初めて産官学患医が参加する形で議論するシンポが企画され、23日に行われた。
シンポでは、関係学会側からは研究費不足を嘆く声が相次いだのに対し、国会議員、患者団体側からはどんな研究が行われているのが見えないことや、学会の存在感の希薄さが挙げられ、嘆くだけでは解決しないことが指摘された。
その上で、基礎・臨床研究には患者・国民の協力が不可欠であることから、研究の必要性や成果について、分かりやすく伝える姿勢が研究者側に求められた。一方で、患者団体側も最新情報をウォッチし、患者や国民に情報を伝えたりするリーダーを育成する必要があり、それには専門家との協力が必要だとして、互いに協力し合う関係づくりを進める必要性が確認された。また、患者団体側からは、研究予算の獲得も研究者単独ではなく、互いに重要性が高いと判断されるものは協力して獲得に動くことも必要との指摘もあった。
門田学術総会会長は終了後の会見で、「このような取り組み(社会に理解を求めながら研究を進めていくこと)もがん研究の一部であるという理解が出てきたと思う」「将来のがん研究に向けて大きな1ページになることを期待している」と述べ、関係者が大阪宣言に沿って取り組むことに期待を寄せた。
シンポに出席した悪性リンパ腫の患者会「グループ・ネクサス」の天野慎介理事長は、本誌に「お互い顔を見ることさえ困難な方たちが集まって議論したこと自体が素晴らしい。ただ、ソーシャルムーブメント(社会的な動き)につなげていこうという点では、まだ認識にばらつきはあったと思うが、これから醸成していくという意味では今日がスタートポイント」と話した。
シンポは、門田学術総会会長、中村祐輔東京医科研教授が司会し、日本癌治療学会など9学会、患者団体・市民から6人、製薬会社3社(バイエル薬品、アストラゼネカ、中外製薬)、国会議員は鈴木寛文部科学副大臣ら3人、厚労省、経産省、文科省の担当官3人、大手新聞2人、大学病院関係者2人、日本医師会1人が参加。日本癌学会の野田哲生理事長(癌研所長)、国立がん研究センター東病院の江角浩安院長、日本対がん協会の関原健夫常務理事が基調講演を行い、計34人が出席する形で3時間に渡り行われた。約400人が傍聴した。