人事職のJさんは、どうしても4月1日入社がイヤという。その理由は彼女の子供時代にあった。

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多くの企業で年度の始まりになっている4月は、ともすると1月以上に1年のスタートを意識する時だ。
年度という考え方が採用されたのは明治以後、4月を年度初めとするのも国際的にはごく少数と聞くが、暖かさに木々が芽吹き、春めいてくるこの季節になると、自然と新鮮な気持ちになるという人は多いのではないだろうか。転職者も4月1日入社を望む声が多い。しかし、中には4月1日を嫌がる人もいる。

人事のJさん（26歳）は、希望業界である化粧品メーカーA社で内定をもらいながら、入社に難色をしめしていた。
彼女を悩ませていたのは入社日。昨年11月から転職活動をはじめたものの、内定までおもいのほか時間がかかり、A社から内定をもらったのは2月だった。A社人事は当然のように「入社日は年度初めで区切りのいい4月1日にしましょう」と言ったが、Jさんはこれに強い抵抗感をもっていた。

「私の父は銀行員。子供の頃は転校の連続でした。そこで学んだのは、転校生の特典を目一杯つかわない手はないってこと。どこの学校にも『転校生には優しくしなきゃいけない、仲良くしなきゃいけない』ってすり込みがあるんですよ」

Jさんの転校処世術はさらに続く。
「でも、年度の変わり目の4月1日に転校すると、これが通じない。みんなクラス替えに目がいっちゃって、転校生もワンオブゼムになっちゃうんです。社会人でもきっと同じ。ましてフレッシュな新卒社員と一緒じゃ、私なんか霞んじゃいます。上の人に名前覚えてもらうのも大変だし、仕事教えてもらうのも後回しになるし、職場に溶け込むには最悪のタイミングだと思うんです」

気にしすぎにも思えるが、実体験でつちかったノウハウだけに、Jさんは「4月入社は損」という理論に確信を持っていたようだ。結局、Jさんは4月1日入社に同意したのだが、その後、彼女から実によろしくない内容のメールが届いた。
「A社への入社の件ですが、最初の1週間は病欠することにしました。その方がキャラクター的にインパクトがあると思うんです。『ナゾの転校生』みたいなミステリアスさがあるでしょう？エージェントさんのところにも問い合わせがあるかもしれませんが、心配しないで下さい。1週間後から元気に出社しますから」

我々は「そんなことは止めなさい」と言うために彼女への連絡を試みているが音信不通の状態が続いている。どうやら、3月半ばに前の会社を退職できたので旅行に出ているらしい。

Jさんの作戦は実際、最悪だ。転職してからいきなり1週間も休むのはちゃんとした診断書でもない限り、仕事への姿勢を疑われ、印象は最悪になる。
そして、今回のケースでは彼女の狙いが外れるのはハッキリしていた。

A社人事の話によると、今年の新人研修はビジネスマナー研修と業務研修で2週間。その後配属部署でOJTをしながらフォローの新人向け研修を入れていく予定。一方、Jさんに対しては1週間の導入研修を用意していた。
つまり、もともと1週間のズレがあったのに、仮病休みで「部署デビュー」が新人と同じ日になってしまうのである。

何もせず素直に4月1日に出社すれば、「転校生の特典」を得られたのに。余計なことはすべきでないなぁとつくづく思いながら、Jさんに連絡を試み続ける我々なのであった。