政府 感染症対策の基本方針とAMR対策アクションプラン決定 新規薬剤開発にプル型インセンティブ導入
公開日時 2023/04/10 04:51
政府は4月7日、「国際的に脅威となる感染症対策の強化のための国際連携等に関する基本戦略」と「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027)」を取りまとめた。基本戦略では、5月に開催するG7広島サミットを見据え、感染症対策に必要な新薬の研究開発等に「ワンヘルス・アプローチ」で臨む方針を明記した。AMR対策のアクションプランでは、新規の抗微生物製剤等の研究開発を柱の一つに掲げ、企業の上市後の利益予見可能性を高めることで研究開発の動機付けを行う、いわゆる“プル型インセンティブ”を検討し、導入するとした。抗微生物製剤の適正使用の成果指標では、新たにカルバペネム系の静注抗菌薬の人口1000人当たりの1日使用量を2027年までに20%減らす目標を掲げた。
◎基本戦略に「ワンヘルス・アプローチの推進」を明記
今回の基本戦略およびAMR対策アクションプランは、同日開催された関係閣僚会議(持ち回り)で決定した。基本戦略では、「ワンヘルス・アプローチの推進」を明記することで、人獣共通感染症病原体のゲノム性状の解析、薬剤耐性菌の実態解明に向けた研究等において、関係機関による分野横断的な連携を推進する方針を明示した。また、厚生科学審議会感染症部会や日本医師会、日本獣医師会、厚生労働省による連携シンポジウム等を通じて関係者の問題意識や協働意識の共有を図り、取り組むべき課題や必要な対応・体制等について検討を行うとした。
◎新規抗微生物薬の開発 上市後の利益予見可能性を高める市場インセンティブ導入も
薬剤耐性(AMR)アクションプランでは、抗微生物薬の持続的な開発、安定供給の強化について明示した。「薬剤耐性(AMR)と闘うための武器である抗微生物剤の研究は長年滞っており、近年、国際的に新規の予防・診断・治療法に関する研究開発を再加速させる取り組みが行われている」との現状認識を示した。その上で、新規抗微生物薬の開発のためには、研究開発への公的研究費による支援策の「プッシュ型インセンティブ」に加えて、「魅力的な投資環境をつくり、新規抗微生薬が継続的に上市される環境を構築していくことが重要である」と強調。企業の上市後の利益予見可能性を高めることで研究開発を進める動機付けを行う市場インセンティブとして、「プル型インセンティブ」の導入が求められているとした。
アクションプランでは具体的な取り組みとして、「抗菌薬確保支援事業」による新たな抗微生物薬に対する市場インセンティブの仕組みの導入と、薬剤耐性感染症(ARI)治療薬の優先審査制度の継続をあげた。
◎2019年のセファゾリン注射薬の供給課題など抗微生物剤の安定供給維持の方策求める
市場インセンティブの問題については2021年のG7財務大臣会合、22年のG7首脳声明でも触れられており、米国、英国、スウェーデンなどで導入または検討されている。一方で日本国内に目を向けると、2019年のセファゾリン注射薬の供給の課題など、大規模な抗菌薬の供給不足が発生しているほか、AMRの更なる拡大を抑制するためにも抗菌薬の安定供給は重要な課題であり、新たな抗菌薬の研究開発の促進に加え、抗微生物剤の安定供給を維持するための方策が求められていた。政府としては、5月に広島市で開催されるG7サミットの場で、改めてAMR対策についてのアクションプランを示し、国際的協調の中での取り組みに理解を求める考えだ。
◎カルバペネム系の静注抗菌薬の人口1000人当たりの1日使用量20%減らす・新規目標
政府は薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027)の 成果指標についても新たに示した。微生物の薬剤耐性率については、新たに、ヒトに対するバンコマイシン耐性腸球菌感染症の罹患数を2000年の135人から2027年には80人以下(2019年時点に維持)に減らす目標値を示した。また、ヒトへの抗微生物剤の使用量については、新たに、カルバペネム系の静注抗菌薬の人口1000人当たりの1日使用量を20%減らす目標を設定した。このほかにも、1日抗菌薬使用量は15%減、経口第3世代セファロスポリン系薬の1日使用量は40%減、経口フルオロキノロン系薬の1日使用量は30%減、経口マクロライド系薬の1日使用量は25%減(いずれも人口1000人当たり・対2020年比)とそれぞれ目標設定した。