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【有識者会議・9月22日 城審議官・新構成員挨拶、日薬連、製薬協のヒアリング・発言要旨(その1)】

公開日時 2022/09/26 04:53
厚労省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の第1回会合が9月22日に開催された。この日は日薬連など製薬5団体から業界の現状と課題に係るヒアリングを行った。本誌は、検討会の冒頭から5団体のヒアリングまでの内容を発言要旨として公開する。

【厚生労働省・城克文医薬産業振興・医療情報審議官】

本検討会は、医薬品産業の抱える現状と課題を踏まえて、流通や薬価制度は当然として、産業構造の検証等を含めた、幅広い議論を通じ、我が国の医療の推進の維持向上に必要な革新的な医薬品や、医療ニーズの高い医薬品の日本への早期上市、医薬品の安定供給の実現に向けた総合対策について検討いただくことを目的としている。

構成員の皆様においては、それぞれの見識から大所高所の議論を行っていただきたく、この検討会が、日本の医薬品産業の発展につながる実り多いものとなるよう期待したい。我々としてもしっかりと取りまとめ、事務局としての務めを果たしたい。是非よろしくお願いいたします。

【厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課 安藤公一課長】

事務課から少し補足させて頂く。先月8月31日に、「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」を開催したところだ。その際、構成員の皆様から頂いた意見等を踏まえ、検討会の目的である、我が国の医療水準の維持向上のために必要な革新的な医薬品や医療ニーズの高い医薬品の日本への早期上市、医薬品の安定供給といった観点からは、流通、薬価制度に加え、今、城審議官が申し上げた通り、産業構造のあり方などと、より幅広い観点での議論をいただくことが必要と考え、元々の検討会を発展的に解消し、新たな構成員の方々に加わっていただいた上で、本日、新しい検討会を開催することになった。

本検討会における検討のスケジュールだが、前回の検討会から引き続き今年度末ごろをめどに検討結果を取りまとめることを目標としつつ、前半は流通、薬価制度上の課題問題点の洗い出しや整理を行い、後半は、それらに対する改善策について議論をいただくという方針で進めたいと考えている。

遠藤久夫座長:では、第1回の会議に入る。議題に入る前に、今回より新しくご参加した構成員から一言ご挨拶をいただきたい。まず、芦田構成員からお願いします。

【芦田耕一構成員】

ただいま、ご紹介いただきました芦田です。私の所属している株式会社INCJは2009年に、産業革新機構という名前で設立した政府系ファンド、官民ファンド。2018年に組織再編があり今の社名となった。私自身は2012年の12月に入社して、それ以来、創薬ベンチャーを含めた健康医療分野の担当している。

私はINCJ以前も、民間のベンチャーキャピタルで創薬ベンチャー等に投資していたので、そういった活動を18年間やっている。また、政府の健康医療戦略本部の専門推進専門調査会の委員やAMEDの課題評価委員を務めさせていただいている。本検討会が医薬品業界にとって非常に重要な検討会ということを承知している。皆さんどうぞよろしくお願いいたします。

遠藤座長:ありがとうございます。次に井上構成員お願い致します。

【井上光太郎構成員】

東京工業大学の井上です。私は、東京工業大学工学院長を務めている。専門は市場分析だ。今回は産業構造分析または企業の合従連衡での知見の提供を期待されて参加すると理解している。よろしくお願いします。

遠藤座長:ありがとうございます。次に川原構成員お願いします。

【川原丈貴構成員】

株式会社川原経営総合センター代表取締役社長の川原です。私は公認会計士、税理士、日本医業経営コンサルタント協会の認定医業経営コンサルタントの資格を有している。医療機関等を中心にした経営のコンサルティングと税務会計を中心に行っている。私は、医療機関などにどのような影響を及ぼすかという観点で、考察したいと考えている。どうぞよろしくお願いします。

遠藤座長:ありがとうございました。先ほど事務局から説明がありましたようにミッションの拡大に伴い構成員方々の充実を図った。よろしくお願いします。では議題に入る。業界の現状について業界団体ヒアリングを行う。5団体からヒアリングを行う。業界団体の意見を聞いたうえで議論を行いたい。最初に日薬連からお願いしたい。

【日本製薬団体連合会(日薬連) 眞鍋淳会長】

医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者会議の設置に尽力された厚労省はじめ関係各位に感謝申し上げる。アカデミアの先生方で構成される本検討会において、医薬品産業や薬価、流通それぞれのあり方について議論いただくことに大変期待している。

本日はこの場で私ども製薬業界からの意見陳述の機会を賜り、誠にありがとうございます。資料の2ページ目にありますように、本日は、2023年度の中間年改定、薬価改定方式のあり方について陳述させていただく。

まず、2023年度の中間年改定について資料4ページをご覧ください。昨今の物価上昇や円安などが製薬企業に与える影響についてまとめた。グラフで示した通り、物価エネルギー価格の高騰や円安の進行は、日本経済において大きな打撃を与えているが、製薬企業にとっても例外ではない。研究開発においては、円安によるドル建ての海外臨床試験費用が増加している。また製造においては、原薬、原材料価格の上昇、エネルギー価格の上昇など、製造過程における経費が増加をしている。さらに、ウクライナ情勢による輸送コストの上昇などもある。

5ページをご覧ください。こちらは直近の調達コストの上昇について示した。日薬連薬価研常任運営委員会会社29社にアンケート調査を行ったところ、物価上昇の影響を受けていると回答した企業が26社、為替の影響を受けていると回答した企業が27社あった。各社ごとにコスト上昇の上位5品目を集計したところ、原薬、原材料、包装材料の上昇は、グラフの通りで、特に、一般的に原価に占める割合の高い原薬については最大2倍の品目もあった。

6ページをお願いします。こちらは医薬品の製造に広く用いられる原材料や包装材料の調査コストの状況だ。乳糖や有機溶剤、プラスチックボトルやPPTなどで汎用される原材料の調達コストが上昇しており、多くの製造コストに影響が出ている。特に、低価格帯における製造においては、これらの調達コストの上昇が大きな負担になっている。

7ページをご覧ください。2023年度の中間年改定の考え方だが、直近の原油価格の高騰や円安の影響は、医薬品の製造コストに大きな影響を与えており、特に低低薬価品では原価率が著しく悪化上昇している。政府により物価高騰などを踏まえ適切な価格転嫁等の配慮について要請されているが、このような状況を踏まえれば、薬価を引き下げる環境にはなく、2023年度の中間値改定は実施の是非を含め、慎重に検討すべきと考える。また、原価率が悪化している品目等については、中間年改定の実施とは別に、薬価を引き上げる措置を実施すべきと考える。1973年のオイルショックの際に、薬価引き上げの措置が実施されている。これが一つの参考事例となるのではないか。

9ページをご覧ください。昨今の医薬品の供給問題については後発医薬品だけの問題ではなく、製薬業界全体の課題であると認識している。日薬連を代表して、皆様方に多大なご迷惑とご心配をおかけしていることを改めてお詫びする。医薬品の供給問題は、中間年を含む薬価改定に少なからず影響しているものと思われる。このため、まずは情報開示体制を構築することが最重要であると考えている。そのために、国への報告の義務化と、国による情報開示を法制化し、それを実現する仕組みを構築すべきと考える。

次に、薬価算定方式のあり方について意見を述べる。8月31日に開催された有識者化検討会において薬価制度に関する問題意識や課題認識の改善に向けた対策案など、様々な意見交換があった。私どもとしても、薬価改定方式を中心に国民にとってより良い方向に薬価制度を改善できるよう議論に積極的に参画させていただきたいと考えている。

資料11ページです。まずは問題意識です。近年の社会保障関係費の伸びの抑制だが、抑制額は5年間累計で約7200億円程度ある。この間、薬価関連抑制額は6000億円弱(資料では▲5941億円・国費ベース)で、これは社会保障関係費の抑制額7200億円の約83%に相当する。社会保障制度改革に必要な財源を薬価引き下げで捻出するこれまでの手法は「もはや限界」であり、やめるべきであると考えている。

12ページをご覧ください。こちらは平成5年以降の医療費、薬剤費、推定薬価差額分を示したものだ。薬価差はかつて、1兆3000億円程度抱えており、この額は医療費の5%を超える水準だった。しかし、R幅方式への見直しなどで、現在では約7000億円前後、医療費に占める割合は1%台まで縮小してきた。この間、医薬分業が進展し、処方元における薬価差が縮小してきたことにより、いわゆる新薬シフトや過剰投薬といった、医薬品の適正使用を歪めるような事象は是正された。

13ページをご覧ください。こちらは、薬剤費の内訳を示したものだ。入院外、すなわち外来と在宅に係る薬剤費9兆円のうち約63%は調剤が占める。また医科の3兆円強の薬剤費のうち、約2兆円が病院、1兆円が開業医となっている。このように薬剤費がどこで使われているのか、さらには薬価差がどの程度発生しているのか、あるいは発生している要因は何かなど議論の前提として、ぜひ整理が必要であると考えている。

14ページです。現行の薬改定方式に係る課題認識だ。現行の仕組みにおいて、薬価差は必然的に発生するものであり、価格乖離が調整幅の範囲に収まらない限り、薬価改定によって薬価が引き下がる。薬価差が医療機関や薬局の経営原資の一部となっていることから、薬価が引き下げられても、同程度の薬価差は再び発生することになる。

したがって現行の薬価改定の継続は、新薬アクセスや、医薬品の安定供給に影響を及ぼし、改定頻度を上げることにより、その影響はさらに大きくなるものと考えている。また、医薬品取引における価格形成や、価格構成要素がわかりにくいことから、国民の理解も得られていないように思う。

15ページです。取引の結果として生じた薬価差は速やかに国民に還元すべきといった論調など、“薬価差は悪い印象”が持たれていると思う。薬価改定方式のあり方について検討する際には、まずは様々な要因によって生ずる薬価差について関係者が共通の認識を持つ必要だ。

ここでは主要な薬価差の発生要因と、それに伴う薬価差の程度について整理してみた。まず、医薬品特性による要因だが、競争が少ないという領域では薬価差が生じにくく、競争が激しい領域では薬価差が生じやすいものと考える。これはメーカー間の競争の結果生じる薬価差。すなわち、メーカーと卸との取引によって生ずる薬価差であると言える。

一方で、地域別や取引規模別の要因は、卸と医療機関薬局との取引によって生じる薬価差だと整理できる。へき地や離島などは配送コストが高くなることから、必然的に納入価格が高くなり、薬価差が発生しにくくなるが、一方、都市部では、配送の効率化が可能であることから、薬価差が生じやすくなっている。また、取引規模の大きいものは、卸と医療機関、薬局における取引の結果として、薬価差が生じやすくなるものと考えられる。このように、薬価差ごとに、どのような形で存在するのかを明らかにし、関係者が共通の認識を持つことが肝要だ。

16ページです。薬価改定方式については、新薬アクセスや医薬品の安定供給を確保するとともに、国民にとってわかりやすく、透明性のある仕組みへの見直しについて検討を進めるべきであり、検討に際しては、欧州の仕組みを参考にしつつ、様々な観点から十分な議論を行った上で、我が国特有の仕組みを構築していくべきと考える。すでに説明した通り、薬価差が生じる要因や、薬価差が果たしている役割について、共通の認識を持つことや、競争の起こり方に着目した品目カテゴリ別の取引実態などの観点から、検討を進めるべきであると考える。その上で、薬価改定方式の見直しの方向性として、例えば、一つは欧州の仕組みのように、メーカーの出荷価格の引き下げが速やかに償還価格に反映され、国民に還元される仕組みが考えられる。もちろん、流通当事者の卸や医療関係者、薬局において、必要な流通経費とかが確保される仕組みが必要と考える。また、へき地など競争のない品目については、購入価で償還するといった仕組みも、一つの考え方であると思う。いずれにしても、今後、医薬品の取引に関わるステークホルダーの意見や、アカデミアの先生方の議論など、十分な検討が必要であり、我々も議論に参画させていただければ幸いだ。

17ページ、18ページには、欧州3カ国の仕組みについて整理した。この後、EFPIAの意見陳述で説明頂く。19ページをごらんご覧ください。現在デジタルトランスフォーメーション(DX)と人々の多様性によって新たな価値が作り出される「Society5.0時代」を迎えている。この技術革新は、医療にも大きな変革をもたらし、個人のライフジャーニーに沿ったトータルケアーが提供されていく。また、デジタル資本主義の世界では、視点がサービス提供者から消費者に移ることで、産業構造は大きく変わる。医療の世界においては、健康の維持、回復という視点で、産業形態が「Healthcare as a Service」(HaaS)として再定義されると考えている。

すなわち、製薬産業が提供するサービスは、医薬品を超え、またAIの画像診断やアプリでの治療が進む中、ヘルスケアプロバイダによる役割も変化し、患者を取り巻く既存の社会保障制度も変化が必要となると思う。患者を中心としてDXで何ができるのか。それに伴い、現在の体制や制度がどうあるべきなのか。さらには、医療を最適化、効率化することで、いかにして医療費を抑制できるのかについて、製薬、医療関係者、保険者、政府それぞれが考え、そして、医療の将来像を、一緒に描いて実現していくことが重要であると考えている。私からの意見陳述は以上です。

遠藤座長:次に製薬協からお願いします。

【日本製薬工業協会(製薬協)岡田安史会長】


製薬協の岡田です。この度は、本有識者検討会において発表の機会をいただき誠にありがとうございます。資料の2ページをご覧ください。このスライドは、既に前回の検討会で香取構成員から示された資料だ。今一度皆さまと共有したいのは、イノベーションであります革新的医薬品の貢献がいかに大きいかということ。このスライドは、革新的新薬が疾病治療を劇的に変えた代表例であるC型肝炎領域の革新的新薬の登場によって、肝炎、肝硬変、肝がんの患者を大きく減少させた。

3ページをご覧ください。こちらは、リウマチ薬の登場で患者の身体の障害が軽減され、関節手術が大幅に減少したという事例。リウマチ患者のQOLが、非常に大きく改善した。何とか病気を治したいという患者さんに対して希望を届ける。不可能を可能にし、健康寿命の延伸に多大なる貢献を果たしてきたということを、改めて申し上げたい。

4ページをご覧ください。モダリティの変化により、創薬技術も多様化している。低分子化合物中心の創薬から、昨今ではバイオテクノロジーの発展により、抗体医薬や遺伝子治療、あるいは細胞治療といったものが生まれてきた。また、スマートフォンやタブレット端末に搭載されたソフトウェアを活用したデジタル・セラピーティックスと呼ばれるデジタル医療も生まれている。今後も、あらゆる革新的な医療が進展普及するものと予想している。

5ページをご覧ください。このスライドに製薬産業が目指す2本柱を示した。一つは国民の健康寿命の延伸、もう一つが国家の基幹産業としての経済成長への貢献することだ。本日は、この2点をめぐり、いま日本市場で何が起きているのか、薬価制度の何に問題があるのか、について改めて示し、それを解決に導く薬価制度の改革提言について説明したい。

6ページをご覧ください。過去5年間の医薬品市場の推移を示した。世界市場がこの間、年平均約5%成長しているのに対し、日本は先進国の中で唯一マイナス成長だった。中身を見ると、過去5年間の特許品市場がマイナス成長となっているところに問題意識を強く持っている。これは日本市場の国際競争力、日本市場の魅力の低下を示していることに他ならない。

7ページをご覧ください。日本市場の魅力低下、優先順位の低下によって、ドラッグ・ラグやトラック・ロスが起きていると言わざるを得ない。このスライドは世界の売上上位300品目の上市順位を米国、欧州、日本で比較した。多くの製品で日本が3番目で、最も深刻なのは2割が未上市だったということだ。

8ページをご覧ください。このスライドは欧米で承認され、処方されているにもかかわらず、日本で使用できない未承認薬がどれだけあるかということを示した。特に、2016年以降、それが増加している。2020年を見ると欧米で承認された品目が243、うち日本未承認が176品目で全体の7割を超えている。

9ページを御覧ください。日本で未承認となった176品目をさらに分析した。これら176品目は、言い換えると国民が必要とする最新の医薬品で治療が受けられない状況が大きくなりつつあるということを示すものだ。明らかに国民に不利益をもたらしている状況にあると思う。

10ページをご覧ください。これまで説明した通り、我が国は、日本市場の魅力度の低下という問題と、未承認薬の増加という二つの要素から革新的新薬へのアクセスに関する懸念を抱えている。これを解決するには、“日本の薬事・臨床試験環境を改善”することが一つで、もう一つは“医薬品の価値を適切に評価する薬価制度改革”を行うことにある。我々は、この両輪の対応が必要であると考えている。

本日は、新たな薬価制度改革を提案する。①新たな薬価維持制度、②革新的新薬の早期上市インセンティブの導入-を提案したい。まず新たな薬価維持制度について説明する。12ページをご覧ください。このスライドは現行の新薬創出等加算制度について説明したものだ。2010年に新薬創出等加算制度が導入され、一定の要件を満たした場合は、新薬の特許期間中の薬価が維持される。その間に早期に投資回収できるというもので、新薬創出の加速と未承認薬等の解消に加えて、後発品を使用促進するという目的があった。一方で先発品企業にとっては長期収載品に依存しないビジネスモデルを構築していくという狙いもあったと理解している。その狙い通り、後発品の使用割合はほぼ8割水準まで達している。

一方で2018年度の薬価制度抜本改革で、新薬創出等加算の対象品目の大幅な絞り込みや、企業指標の導入などで、特許期間中も薬価が必ずしも維持されない仕組みとなった。日薬連薬価研の調査によると、新規有効成分のうち約半分しか新薬創出等加算の対象品目になっていない。さらに、企業要件のために全体の3割しか薬価が維持されていないというのが現状だ。

13ページをご覧ください。いま申し上げたように、現行の新薬創出等加算制度の導入から10年以上を経過し、目標とした後発品比率が8割をほぼ達成し、新薬メーカーは長期収載品の収益に依存せず、新薬の収益を次の研究開発に再投資するというサイクルをしっかり定着させてきた。このことから新薬創出等加算については初期の目的を達成したと考えている。先述した通り、制度の見直しによって再び未承認薬が増加しており、先ほど眞鍋日薬連会長のプレゼンでも指摘があったように、市場実勢価改定方式の課題への対応とあわせて市場の魅力度向上に資する分かりやすい新薬価制度の構築がまさに必要なタイミングではないかと考えている。

このような課題認識から「患者アクセス促進・薬価維持制度」に刷新することを製薬協として提案する。この制度のポイントは、一つは特許期間中の革新的新薬を市場実勢価格による改定の対象から除外し、シンプルに薬価価格を維持するというのがまず1点。2点目としいては、特許期間中の薬価を無条件で維持をするということではなく、上市後に得られたエビデンスやガイドラインにおける位置づけの変化に基づき、価値を再評価し、薬価を見直す仕組みをセットで導入するというものだ。

次に価値評価の設置側面から薬価制度の課題をいくつか示したい。まず、価値評価プロセスの改善の必要性についてだが、我が国の薬価算定における評価は、薬事審査を目的とする審査報告書をベースに実施されている。これでは、ある意味イノベーションが十分に評価されていないという見方ができる。審査報告書には薬事承認の観点からPMDAの見解が記載されていて、医薬品が患者や医療提供者にもたらす価値を評価するという目的の文章にはなっていない。そのような審査報告書をベースとした現行の薬価算定では、新規性、革新性の高い新薬を日本で世界に先駆けて評価するということが非常に難しい。従って、海外での臨床ガイドラインや保険者による評価が確立するまで、日本で早期に上市することが困難な場合があるというのが現状だ。これが日本の優先順位が落ちる原因であり、ドラッグ・ラグ等の要因の一つであると考えている。

16ページをご覧ください。このスライドは医薬品が持つ多様な価値のイメージを持っていただくことを目的とした国民へのWebアンケートの結果を示している。この結果から、国民は医薬品の有効性や安全性、治療費以外の価値要素が様々あるということが分かった。アンケート結果では国民の関心の一番高い多様な価値として、「不確実性の低下」とあった。これは医薬品の効果や副作用の程度を予見できるという意味だ。また、「医療負荷の軽減」を重視する国民も多く、コロナを契機に強く認識されるようになったと推察された。

さらに、「労働生産性」や「介護負担の軽減」についても最近はアウトカムを測定するツールの開発が進んでいる。これはあくまで価値要素の一例として示したものだが、このような観点も含めて、医薬品の多様な価値をしっかりと議論し、評価に反映していくための仕組みを導入していくことが必要なタイミングではないか。

17ページをご覧ください。こちらは柔軟な類似薬選定の必要性という課題認識だ。現行の原価計算方式については輸入品の低価格に係る不透明性が中医協でも指摘されている。また、コストのプラスによる価格設定というのは需要側である臨床的な価値を十分に価値に反映できないという側面もある。一方、類似薬効比較方式については、再生医療や遺伝子治療といった新規モダリティで新薬シフトを起こすような品目について現行の類似薬算定基準では適切な類似薬を選定できず、画期的な価値に見合う薬価算定が困難になる場合が出てきている。このため、現行の類似薬算定基準では適切な類似薬を選定できず価値に見合うや算定が困難な場合がある。

18ページをご覧ください。製薬協は様々な機会において、他の主要先進国と同様に、特許期間中の新薬の価値は守られるべきであると主張してきた。このスライドは、グローバル売上上位30品目のうち薬価収載時の価格を100とした場合の現在の価格水準を示したものだ。日本と米国、英国、ドイツをみたものだが、一目瞭然で欧米ではその価値が守られ、日本ではその価値が市場拡大再算定等により下げられている。イノベーションが評価されて売り上げが拡大すると市場拡大再算定が適用されるというのは、日本での新薬上市の観点で最大のディスインセンティブとなっている。これは過言ではないと思う。

19ページをご覧ください。これまで述べた課題認識から、製薬協は革新的新薬の早期上市インセンティブの導入を提案する。いまドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロスが喫緊の課題となっている状況において、緊急対応として、こちらで示す品目を対象に評価上のインセンティブを与えるというものだ。対象品目は、海外から遅れることなく収載される新規性の高い品目。また、海外で承認されているが、日本で未承認の難病や希少疾患薬など極めて医療ニーズの高い品目を対象と定義する。これら品目について新たな価値評価プロセスとして評価する。

具体的には、企業が主体的に医薬品の価値を説明し、公的な形で妥当性が評価された結果を評価報告書として公表するというものだ。この新たな価値評価プロセスを現在の60日、90日ルールという薬価収載ルールを遵守しつつ、薬価算定前に実施するもので、薬価収載後に価格調整を行う費用対効果制度とは全く別物であることを付言したい。この評価報告書では、有効性、安全性のみならず医薬品の多様な価値を評価し、臨床的位置づけ等の医療実態も含めて考慮し、柔軟に類似薬を設定するということを想定している。そして、このインセンティブ対象品目については、特例および類似品として友連れ薬価の引き下げを含めて市場拡大算定を免除するという提案だ。

20ページをご覧ください。最後に、日本の医薬品市場についての考えを話す。冒頭説明したように、世界市場が成長する中で唯一日本市場は縮小している。そのことが結果として国民に不利益をもたらしていると強く懸念をしている。日本国民が革新的な新薬を世界に遅れることなく、アクセスするためには欧米先進国に比肩する特許品市場の成長を実現することが不可欠だ。同時に、健康医療ビッグデータ、リアルワールドデータの整備活用を医薬品の価値に基づいて価格数量あるいは給付範囲の側面から、もっとメリハリを強化することが必要だと思う。その結果として、社会保障財政もしっかり念頭に置いた上で、市場全体としては緩やかな成長を目指しすべきだ。

最後のスライドです。本日の発表をまとめる。国家戦略としての医薬品産業政策のもと、製薬産業は、国家、国民にしっかりと貢献したいと最後に申し上げたい。長時間ご清聴いただきありがとうございました。

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