【FOCUS 費用対効果評価で再燃する医薬品アクセスへの懸念】
公開日時 2019/03/25 03:52
費用対効果評価が2019年4月から本格導入される。この間、制度化を睨み、中医協で7年間も議論に費やした。費用対効果評価の結果は、保険収載後の価格調整に活用される。製薬業界が最も恐れていた、保険償還の可否への利活用は免れられたものの、依然として製薬業界内には費用対効果制度の導入が患者の新薬へのアクセスを阻むとの懸念を強めている。(望月 英梨)
「(薬価問題は)2019年こそ軌道修正する年だと考えている」―― 。米国研究製薬工業協会(PhRMA)のパトリック・ジョンソン在日執行委員会委員長は2月7日に開いた会見で強い口調でこう語り、日本政府に再考を迫った。新薬創出等加算の絞り込みなど一連の薬価制度抜本改革だけでなく、柱の一つにあがったのは、費用対効果評価制度だ。
英国など先んじて費用対効果評価を導入した国には、日本のような薬価のような公定価格制度はなく、費用対効果評価で保険償還を決定する状況にある。このため今回の費用対効果評価についても、現行の薬価制度と費用対効果評価の整合性を指摘する声が聞こえる。
一つは対象品目が不透明であること。新規収載品のうち、有用性加算品か、もしくは原価計算方式で開示度が50%未満の新薬のうち、「ピーク時の市場規模が100億円以上」が対象となる。制度では年間10品目程度を上限としたが、むしろ業界内にはピーク時の市場規模が100億円を下回る(50億円以上)品目が、その予備群たる評価候補品目(H2)に位置づけられる懸念は少なくない。誤解を恐れずに言うならば、そこまで売上高が大きくないにもかかわらず、予見性を低めることが懸念されるからだ。特に、H2品目は他の製品の状況にも影響されることから、上市後のフォーキャストが立てづらくなる。
欧米系の製薬団体からは対象品目をめぐり、さらにもう一つの懸念があがっている。昨年末の予算編成過程で、財務省の財政制度等審議会が「輸入医薬品の場合には企業間の輸出入価格がそのまま原価とされるなど価格水準は明らかではない」と指摘。「費用対効果評価を義務付け、費用対効果が悪いものについては、保険収載を見送るか、(中略)公的保険として受け入れ可能な水準に至るまで薬価を引き下げる」(財政審建議)と提案したことに端を発する。
外資系の製薬団体を中心に日本政府のこうした動きを牽制する声が日増しに強まってきた。同じアジアで成長を続ける中国は、これまで課題とされた知的財産権保護の基準を変更するなど、ビジネス環境が整いつつある。次世代医療を牽引するCAR-T細胞医療の治験数で中国は日欧米を大きく上回るなど、投資家の熱い視線は日本を離れ、大陸に注がれる。
米国系の団体は、「イノベーターに対して誤ったメッセージを発信する」と日本政府に警鐘を鳴らす。米国系バイオベンチャーが日本市場に参入するうえで、「薬価や保険償還制度の改革の方向性が障害になる」―― 。米バイオテクノロジーイノベーション協会(BIO)のジョセフ・ダモンド国際問題担当執行副会長は日本のメディアを前に言い放った。
◎製薬協「積極的に提言を行う」
日本製薬工業協会(製薬協)は費用対効果評価の制度運用における改善に加え、薬価基準制度全体の見直しについても、業界として積極的に提言を行っていく」との構えを明示した。
製薬協は今年に入り、政策提言2019を公表した。本誌取材に対して中山会長は、「医薬品の価値そのものが変わってきた」と強調する。少子高齢化や人口減少に伴う労働生産性の向上、介護者の負担軽減など、“社会的価値”に見合う革新的新薬を創出する製薬産業に対し、政府に多面的価値評価を求めていくことは必然の流れとの立場を示す。2020年度薬価制度改革に向け、議論が本格化する。