財務省 地域財政の安定化へ医療構想の推進加速 都道府県のガバナンス強化を提案
公開日時 2018/10/31 03:50
財務省主計局は10月30日の財政制度等審議会財政制度分科会で、地域医療構想の推進に向けて、都道府県のガバナンス強化を提案した。国は、地域医療構想の実現を通じ、急性期病床など過剰病床を適正化し、医療費を適正な水準に抑制する絵を描いた。これに対し主計局は、進捗状況に都道府県で大きな開きがあると指摘。2020年度以降の目指すべき姿として、「提供体制改革・医療費適正化のインセンティブと権限・手段を付与」することで、都道府県が「単位化」し、「住民のために持続可能な医療提供体制の構築に向けて主体的な役割を果たす」ことを求めた。
政府が6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針2018)では、公立・公的病院の再編・統合に向けた議論を地域単位で進めるよう求める一方で、病床の機能分化・連携が進まない場合は、「都道府県知事がその役割を適切に発揮できるよう、権限のあり方について速やかに関係審議会等において検討を進める」ことを明記した。さらに高齢化のピークを迎える2025年に向け、2次医療圏単位で高度急性期・急性病床、慢性期病床を「削減」、回復期を「増床」するなど、医療必要度に合致した医療提供体制を構築することを求めてきた。
◎今年6月現在の病床再編状況を報告 調整会議に「進捗管理、さらなる対応」を要請
この日の財政審に主計局は、今年6月現在の病床再編状況を報告した。高度急性期・急性期病床は目標の-21万床に対し、実績ベースで病床再編が合意されたのは、わずか-1989床に止まると指摘。同様に慢性期病床は目標の-7万床に対し、実績は-457床。回復期は+22万床に対し、実績は+2882床となっていることを報告した。その上で都道府県に設置した地域医療調整会議に対し、「進捗管理、さらなる対応」を求めた。さらに秋田県や福島県、沖縄県は、公立病院・公的医療機関でも議論がスタートしていない状況にあると指摘。主計局は、「民間医療機関も含めて具体的対応方針の策定を一層促進するとともに、病床の機能分化・連携を進めるため、都道府県の権限強化について検討すべき」と提案した。
主計局はまた、一人当たり医療費(厚労省:2015年度医療費地域差分析)の地域格差の資料を示した。全国平均の53万7000円に対し、最高額の福岡県は+10万4000円。一方で最小額の新潟県は-7万1000円に収めるなど、都道府県間でバラツキがあると指摘した。入院医旅費では病床数と相関が高く、病床数の多い高知県で突出して高いなど、医療提供体制に大きな影響を受けていると分析している。このほか、国民健康保険(国保)の運営主体が市町村から都道府県へと移管されるなかで、公費に加えて補填などの目的で市町村から毎年度3000億超の法定外一般会計繰り入れが行われていることも問題視した。
◎財政安定化を達成した都道府県にインセンティブの付与も
こうした状況を踏まえて主計局は2020年度以降の目指すべき姿を図示し、「医療計画、地域医療構想」、「医療費適正化計画」、「国保財政運営」を一体的に検討することを求めた。そのために、病床の機能分化や連携に補助金や規制を重点配分する実効手段・権限を都道府県知事などに与えることを提案した。財政安定化に寄与した都道府県にはインセンティブを与えることも検討する。
◎地域医療構想の進捗遅れに医師会の影
この日の財政審は、ニッセイ基礎研究所の三原岳准主任研究員からヒアリングを行った。同氏は、地域医療構想実現に向けて、「都道府県は病床適正化よりも提供体制構築を優先し、地元医師会との共同歩調をとった可能性」を指摘するなどと、地域医師会の関与に懸念を示した。三原氏は、地域医療構想の実状として、地域医療構想には、「過剰な病床の適正化による医療費の効率化」と「切れ目のない提供体制構築」という2つの目的が混在しているとの考えを表明。地域医療構想において、「強制的に病床削減するものではない」など、病床削減を目的としていない都道府県が29にのぼったことを指摘。「日本医師会が都道府県に対して、必要病床は削減目標ではないと明記するよう要請していたことが影響」していたとの見方を示した。
さらに、地域医療構想、国保の都道府県化、医療費適正化を明確にリンクさせたのは奈良県だけだったと指摘。「地域医療構想を医療費に絡めて説明すると、地元医師会が反発する可能性があるので、それを避けた可能性がある」などとの見解を披露した。