アレクシオン MRにソリリスの処方獲得に応じた報奨金 経済活動優先の実態明らかに
公開日時 2018/09/27 03:52
アレクシオンファーマ合同会社のaHUS治療薬・ソリリスのプロモーションにおけるMR(MCCと呼称)に支払われたインセンティブ(報奨金)の詳細が本誌取材で明らかになった。2018年下期のMRの評価方法は、新規ソリリス患者に投与されたバイアル数を4割、既存患者に使用されたバイアル数を6割として処方獲得バイアル数を評価するもの。過去には、aHUSと適応外の二次性TMAを「活進TMA」と銘打ち、MRに患者情報を収集させ、その計画達成者の上位にインセンティブを支払う社内コンテストを行っていた。ソリリスの売上目標達成に向け、同社は患者や医薬品適正使用より経済活動を優先したプロモーションに徹していた実態が明らかとなった。
◎7月の営業会議で「バイアル」に応じた報奨金制度を導入
本誌は、アレクシオンのソリリスの情報提供活動をめぐり、aHUS以外の二次性TMAの処方を誘発するプロモーション活動を行っていたことを報じたが(本誌既報、記事はこちら)、これを達成するために、同社のMRへの独自の報酬制度を導入し、これを後押ししていた。
ソリリスの情報提供活動をめぐるMRへのインセンティブは、目標計画年次(上期・下期)などで変化しているものの、新規処方獲得や既存患者への処方継続に応じた評価方法が導入されている。18年度下期は前年比180%目標が課せられ、7月の営業会議で新たなインセンティブが公表されたという。MRの評価手法はバイアル数を基本とするもの。過去に症例数に応じた報奨金制度を導入。これをバイアル数へと見直したものの、現行の体系でも、新規患者の獲得や、投与の継続により処方されたバイアルで高額なインセンティブがもらえる。特に18年下期の報酬体系は、既存患者への投与継続で高いインセンティブが得られることになる。
◎「活進TMA」で社内コンテスト 上位5人にインセンティブ
2015年に日本腎臓学会や日本小児科学会が「aHUS診療ガイド」の改訂版を公表した翌年にも、aHUSの症例獲得を目的としたインセンティブが導入されていた。2016年上期のインセンティブ単価は、ソリリスの獲得目標の計画数が多いMRほど、新規1例のインセンティブ金額が高く設定されていたという。さらに、16年1月~3月の期間内に新規症例を獲得すると2割増しとなっていた。またソリリスの投与継続期間に応じた報酬設定もあり、1か月間投与でインセンティブ単価の20%、そのほか、3か月、6か月、12か月それぞれの投与期間に応じて一定額の報酬が支払われた。こうしたインセンティブが設定されることにより、MRも症例獲得を目的としたプロモーションに走り、aHUS以外の、二次性TMAへの処方獲得を依頼することもあったようだ。
さらに同社は、aHUSとソリリスの適応外である二次性TMAを「活進TMA」と総称し、活進TMAの患者情報を収集する社内コンテストを実施し、計画達成者の上位5人にインセンティブを支払っていたことも明らかになった。これは、二次性TMAへの使用が見受けられたことから15年に改訂されたaHUS診療ガイドで、「二次性TMAに対する(ソリリスの)使用は現時点では推奨されない」と明記された直後だった。同社は、二次性TMAの患者情報を社内に集積し、プロモーション活動に活用していた。高いインセンティブを敷く一方で、計画未達者に対しては、配置転換や降格なども行われていたという。
【解説】ソリリス問題が突き付ける新たな課題
aHUS治療薬・ソリリスの問題が我々に突き付けたこと―。それは、希少疾患、そして高額薬剤時代における新たな課題にほかならない。これまで製薬企業各社は、生活習慣病市場など、いわゆるマス市場で規模の経済を追求し、成長を遂げてきた。マス市場を舞台に、差別化戦略が繰り広げられるなかで、ディオバン事件やCASE-J事件など、プロモーションの問題が顕在化した。
ただ、2000年代初頭から、風向きは変わり始めた。これまで収益の確保が難しいとして、製薬企業が開発を躊躇してきた希少疾患へ挑む企業は増え始めたのだ。マス市場が飽和するなかで、“ブルーオーシャン”とも言われた希少疾患への挑戦は、製薬企業にとって魅力のある選択肢に映った。ここにはからくりがある。患者数が少ないことで高い薬価が見込めるのだ。抗がん剤・オプジーボの薬価が国の医療保険財政を脅かすことが昨今課題となったが、希少疾患治療薬として承認後に、適応拡大を繰り返すことで、ブロックバスターへと成長する品目も出てきた。
◎想定以上の患者の掘り起こし求める空気が蔓延
2017年のソリリスの売上高は全世界で31億ドル。同社の最主力品だ。前年比11%増と右肩上がりの成長は、投資家筋からの期待に応える経営を実現しようとする姿と重なる。一方で、これまで革新性を誇ってきた同剤を取り巻く環境は変化しつつある。ソリリスの後継品である、ALXN1210の治験が進み、競合メーカーの参入も見込まれる。こうした状況から、ソリリスを早期に大型化し、開発費の回収と後継品への投資に目途をつけることがアレクシオンにとって重要課題となった。本誌取材でも、グローバル本社から日本法人へのストレッチ目標の達成に向けた圧力が増していることがうかがえる。「対前年比180%目標」という希少疾患では考えられない目標設定からも、こうした厳しさが垣間見えた。
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)では、推定患者数を上回る新規患者を獲得し、成功を収めた。一方で、aHUSは欧米よりも患者数が少なく、患者の掘り起こしを必要とする空気が社内にも蔓延していた。「患者を作る」というキーワードを発することさえあったという。経営とグローバルへの益出しへのプレッシャーが強まっていたことも否めないのではないか。
◎MRの評価体系整備は「製薬企業の責務」 製薬協コード、厚労省・販売情報提供GL
なお、同社は日本製薬工業協会(製薬協)に加盟しておらず、適用とはならないが、“コード・オブ・プラクティス”では、「MR等の非倫理的行為を誘発するような評価・報酬体系はとらない」ことが明記されている。MRの評価・報酬体系はMRの姿勢や行動に大きな影響を与えることから、適正なプロモーション活動を推進するためにMR等の評価・報酬体系を整備することを製薬企業の責務としている。9月25日に厚労省が公表した「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」でも、経営陣の責務として適切な評価制度の設定を求めている。
既存のアンメットメディカルニーズを満たす革新薬は、適正使用を訴求するだけでも、十分臨床現場に浸透するように思える。ソリリスのように治療法の少ない領域での革新薬は、患者や医療従事者にとって光のような存在だ。一方で、たった一剤の革新薬が企業経営の柱となる場合には、医療システムや医療政策に影響を受けることがある。経営の舵取りは難しいが、生命関連企業として患者貢献を見失うことがあってはならない。今回報じたソリリスの問題も、経済活動に走った日本の経営陣の責務は極めて重いと言わざるを得ない。
今後、大学研究機関からスピンアウトしたバイオベンチャーや、投資家が絡むオープンイノベーション型の新興企業の市場参入が日本でも見込まれる。ビジネスの世界では、早期に投資の回収を求めるのが常だろう。しかし、生命関連産業としては、過度な利益追求型の経営方針については慎重になるべきだ。製薬業界全体も、こうした変化に対応していくことが必要になるだろう。ソリリスの問題は、今後の高額薬剤問題を占うひとつの縮図といえる。(Monthlyミクス編集部 望月英梨)