塩野義製薬は５月10日、2017年度通期予想を発表し、脂質異常症治療薬・クレストール、降圧薬・イルベタンの２品目の特許切れを吸収し、増収増益の見通しを示した。同社の手代木功代表取締役社長は、「2017年度は、正直に申し上げてビジネスモデルの変更期に当たっている。チャレンジングな一年だ」と率直に語った。HIV治療薬のロイヤリティー収入の伸びを大きく見込むが、特許切れによる減収を抗うつ薬・サインバルタ、新製品のADHD治療薬・インチュニブ、オピオイド誘発性便秘症治療薬・スインプロイクの伸長で補えると見通した。注力領域が生活習慣病市場から感染症、疼痛・神経へとシフトする中で、情報提供活動も「プライマリケアのパワーゲームからテーラーメードに変更していくことになる」と述べ、ＭＲだけでなく、メディカル・リエゾンの活用も含めた新たな形に転換する考えを示した。


2017年度通期予想は売上高3400億円。このうち、国内医療用医薬品市場は1439億円で、141億円の減収を見込む。この理由として、長期収載品の販売移管を行ったことや、インフルエンザ治療薬・ラピアクタの備蓄など2016年度の特殊要因をあげ、これらの減収は吸収が難しいとした。一方で、2017年12月に特許切れを迎えるクレストールの67億円、イルベタン類の５億円の減収については、新製品の伸長で補う考えも示した。手代木社長は、「新製品もかなり充実してきているし、コストコントロール、選択と集中をする力は、過去４年間でずいぶんつけてきた」と述べ、減収を補う自信をみせた。


“選択と集中”を掲げた中期経営計画では、感染症、疼痛・神経領域の新薬開発に集中的な投資を行う方向性を示している。こうした中で、2017年度は大型製品の特許切れを踏まえて、「次のステージに向かう最初の一年」に位置づけた。クレストールやイルベタン類は、3品目の注力品に含まれていたが、これらを除き、サインバルタ、インチュニブ、スインプロイクの３製品を戦略３品目と位置付けた。手代木社長は、インフルエンザ治療薬も含めてラインアップを揃える感染症領域にも継続して注力する姿勢を強調した。


◎メディカル・リエゾン含めた情報提供体制模索　配分は変更も視野

営業・情報提供体制については、「残念ながら、営業体制を作って常に保たれるようにパイプラインが乗ってくるといいが、そうわけにはいかない」と断った上で、注力領域に合致したディテーリングの必要性を強調した。


さらに、「現時点でも、メディカル・リエゾンを増やし、オピニオンリーダーをどうカバーするのか、メディカル・アフェアーズと組んでエビデンスをどう作っていくのかは過去２年間でずいぶん変更してきた」と説明。「ＭＲというよりは営業を含めた情報提供体制をどのようにエスタブリッシュするか、という全体像からすると、そこまで人数が減るとは思っていないが、ディストリビューション（配分）を少しずつ変化させていかないといけない」との考えを示した。


そのほか、米国事業でも閉経後膣委縮症治療薬・Osphena、スインプロイクについて、自社の営業戦力の活用からアライアンスを活用したビジネスへと転換を模索していることを説明。Osphenaについては米国で自社の販売員がほぼゼロにする考えも示した。


◎2016年度決算　２年連続の増収増益　売上高3389億円

2016年度の決算は、通期の売上高は3389億円で、２年連続の増収。営業利益は1082億円で、２年連続過去最高となった。純利益は、839億円で、４年ぶりに過去最高となった。

国内医療用医薬品売上高は1580億円で、前年同期比で2.5％の減。ただ、長期収載品の販売移管を行ったことや、薬価引下げがあったことなどから、手代木社長は「実質的にはボリュームベースでプラス４％くらいのパフォーマンスだった」との見方を示した。

【16年度連結実績（前年同期比）、17年度予想（前年同期比）】

売上高　3389億円（9.3％増）、3400億円（0.3％増）
営業利益　1082億円（18.3％増）、1125億円（4.0％増）
経常利益　1230億円（22.0％増）、1235億円（0.4％増）
親会社株主に帰属する純利益　839億円（25.8％増）、920億円（9.7％増）


【16年度の国内医療用医薬品売上高（前年同期比）、17年度見込み、億円】

クレストール　431（437）、364
サインバルタ　190（152）、253
イルベタン類　153（157）、148
オキシコンチン類97（100）、89
フィニバックス33（38）、―
ピレスパ58（60）60
ラピアクタ29（20）、28
インチュニブ　―（－）６
スインプロイク―（－）４
アシテア―（－）１
ムルプレタ―（－）２
ブライトポック―（－）９
グラッシュビスタ―（－）７